2023.04.11
日本病院会は2月6日、「中小出来高病院経営管理者向け研修会」を開催しました。新型コロナウイルス感染拡大から3年が経過したものの、依然としてコロナ禍である状況を鑑みて、引き続きオンラインによるweb形式で開催し、後日オンデマンドにて配信。60病院、101名の申込がありました。
テーマは「医師の働き方改革に向けた多職種による生産性向上の取り組み」。演者は、清水赤十字病院(北海道帯広市・91床)の藤城貴教院長、医療法人弘仁会 板倉病院(千葉県船橋市・91床)の峯一彦事務長、済生会みすみ病院(熊本県宇城市、128床)の甲斐通博事務部課長、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)のコンサルタントでマネジャーの中村伸太郎が務めました。
講演では、ICT活用やチーム医療による働き方改革の事例などが紹介されました。
同研修会は、日本病院会の会員病院で、出来高算定病院が対象です。
JHAstisは、出来高算定病院が重要な経営判断を行う際に活用できる経営分析レポートです。JHAstisユーザーは、専用ソフトを用いて、匿名化した診療データを日本病院会へ提供するだけで、経営の改善に資する情報を掲載した以下のレポートを受け取ることができます。
一昨年度からレセプトデータのみではなく、より詳しく精度の高いベンチマークデータを示せるDPCデータも活用した経営分析レポート「JHAstis2.0」へとバージョンアップしました。
また、本年度より、経営分析レポートの活用方法について解説を行う「レポート解説動画」や自病院で自由に「分析年月」や「疾患名」、「病棟」などの分析条件を設定し、加算ごとの算定分析が可能となる「簡易分析機能(JHAs+)」(図表)など新機能を追加いたしました。
研修会ではまず、開会の挨拶をしたJHAstisの担当役員で日本病院会の大道道大副会長が、同会ICT推進委員会で調査した「電子カルテシステム等のセキュリティ対策状況について」の結果について言及。調査結果は日本病院会のホームページに掲載中であることを紹介しました(調査結果の詳細はこちら)。
続いて清水赤十字病院の藤城貴教院長が、「広域・過疎・高齢化にICTとチーム医療で挑む」と題して講演しました。
同院は、岐阜県の面積に相当する日本で最も大きな「十勝医療圏」で医療を提供しています。高齢化率も高く、医師数も極めて少ないという状況の中で、同院は(1)医療ニーズ(2)法律・制度(3)医療提供者(4)技術革新――の4つの変化に対応しつつ、いかにして地域に求められる医療を提供しているかについて解説しました。
医療ニーズの変化では、コロナに罹患した感染者の透析、働きながら透析する患者を支援するための「夜間透析」、認知症患者の増加に対応する精神科の開設などを紹介。法律・制度の変化においては、医師事務作業補助者の拡充、在宅看取りへの対応、特定行為ができる看護師の養成などについて紹介しました。これら施策に伴い、医師の時間外勤務は、2019年は35時間、2020年は27時間、2021年は11時間と年々減少しています。
医療提供者の変化では、タスクシスト・タスクシェアを目標に、グループ診療体制の強化やベッドコントロールチームの新設、他部門の業務を支援する「FACT(Field Assessment and Coordination Team:助け合って、みんなで定時に帰ろう)」などを推進。コロナ第8波で医療逼迫に陥った際には、FACTのスローガンの下、2か月で193時間の看護部支援を実現。「FACTで月あたり100時間の時間外労働を減らせた」(藤城院長)と指摘しました。
技術革新の変化に対しては、コロナ前から現在までにかけて、「勤怠・スケジュール管理システム」「多職種連携情報共有システム」「クラウド型電子カルテシステム」「文書決済システム」「給与システム」「RPA(Robotic Process Automation:事務作業自動化システム)」を矢継ぎ早に導入。2019年から2021年に削減できた時間外労働経費と、その間に増加したシステム費用を比べると、年間300万円の削減と時間外労働経費の金額が上回っており、システム費用を十二分にペイしつつ、働き方改革を強力に推進しました。
次に、板倉病院の峯一彦事務長が「板倉病院の取り組み事例紹介」と題して講演。主にタスクシフト・タスクシェアの取り組みについて紹介しました。
同院は、人口64万人と未だに人口が増え続ける船橋医療圏の船橋南部地域の医療圏にある唯一の病院。高齢化率は24.4%と低いものの、看護師、医師不足のトップ地域として常に人手不足の悩みを抱える環境にあります。高機動都市型病院として、2022年救急車受け入れ台数は2498台、病床稼働率は90.1%という状況です。
働き方改革への取り組みで最も効果があったのは大きく2つ。医師事務作業補助者の活用と、病棟への薬剤師、管理栄養士の配置です。これについては、JHAstisの経営分析レポートに記載されている以下の文章を参考に、着実に取り組んでいったためです。
「タスクシステムや業務共同化は、職員間での合意形成さえあれば取り組み可能です。加えて、医師の業務負担を軽減させるタスクシフトや業務共同化により、診療報酬制度上の各種加算を算定できます。具体的には、病棟薬剤業務実施加算1や医師事務作業補助体制加算などです。これら加算を算定すれば、『医師の業務負担軽減』と『収益アップ』を両輪で進めることができます」
医師事務作業補助者では、最上位の加算である「医師事務作業補助体制加算1」を取得。病棟薬剤師の配置では、管理栄養士の配置も含めて、チーム医療の推進が進み、患者家族とのコミュニケーションにも寄与しました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)化については、▽AI問診▽日病モバイル▽スキャンシステム――などを導入。日病モバイルの導入では、「写真も送れるチャット機能などでコミュニケーション向上が図れた」(峯事務長)と指摘しました。
続いて済生会みすみ病院の甲斐通博事務部課長が「人口減少 地方中小 公的病院の戦略事例~新型コロナ・働き方改革の前と後~」と題して講演。主にタスクシフト・タスクシェアの取り組みについて紹介しました。
同院は、人口減少地域の公的病院として、▽新入院が年々減少▽宿日直をまわす医師が足りない▽高齢医師の割合が高い▽近隣開業医も高齢化▽夜勤できる看護師が足りない――などの課題を抱えており、効率の良い病院運営は必須という状況にあります。
こうした中で働き方改革を実行していった中で、最も大きかったのは育児介護短時間正職員制度だったと言います。そのほかにも▽定年後再雇用▽無期雇用転換制度――などを活用してマンパワーを確保。その上で、医師事務作業補助者の増員やタスクシフトを推進したり、音声入力やAI問診などICT活用も積極的に取り入れたりしていきました。
ただ、限られたマンパワーでは限界もあります。特に、看護師の夜勤体制には苦慮し、2022年9月から病床再編して28床を休床。現在、100床で稼働しているが、収支は厳しい状況が続いているという。「今後の病院事務の職員は、過去と現在の自病院のデータ、外部環境のデータなど、さまざまなデータを分析した上で、自病院がどのような方向性に行くべきかを検討できる力が必要になってくる。データは宝」(甲斐事務部課長)とデータ分析の重要性を強調しました。
中村は「働き方改革を実現するための生産性向上策」と題して講演。働き方改革を推進していく上で厚生労働省は、(1)意識(2)知識(3)余力――の大きく3つの視点が重要だとしています。このうち「余力」をどう見極めていくかについて、ベンチマーク分析の重要性を指摘しました。例えば、JHAstisの経営分析レポートでは、薬剤師一人当たり収益や薬剤師の配置数などをベンチマークした結果をお知らせしています。このようなベンチマーク結果を参考に、他病院と比べて収益が少なくないか、配置人数が妥当かなどを検証することで、余力があるか否かを確認することができることを示しました。
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