2022.11.29
国内で年間10万件を超える手術症例「大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折)※1」について、病院の経営コンサルティングなどを行う株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(※2=本社・東京都新宿区、代表取締役社長・渡辺幸子)がデータ分析したところ、骨折から48時間超の手術症例が、少なくとも6割以上あることが分かりました。手術までに時間がかかる背景には、病院内の効率的な手術運用や周辺の医療機関との連携に課題がある可能性が高く、病院経営の効率化と医療の質向上が密接に関係していることが、改めて明らかになりました。
大腿骨頸部骨折は、脚の付け根で最も細い部位の骨折。骨が脆くなっている「骨粗鬆症」の高齢者などに多く、大腿骨転子部骨折と合わせた大腿骨近位部骨折の症例は年間10万件を超えます。骨粗鬆症による骨折は、連鎖的に他の部位でも骨折する可能性が高く、こうした連鎖的な骨折は「二次性骨折」と呼ばれています。
このような二次性骨折を予防するため、国は2022年4月、関係学会が推奨する骨粗鬆症の予防や骨折後48時間以内の早期手術を「診療報酬 ※3」として新たに評価(※4)することを決めました。
二次性骨折の予防が新たに診療報酬で評価されたことを受け、当社は診療報酬の請求に用いる医療ビッグデータ(※5)を分析(対象は大腿骨近位部骨折の病名を入力した574病院2万964症例。この症例数は全症例のうち約1/5)。早期手術を評価する診療報酬の基準を満たす症例割合や、骨折後48時間超の手術割合(※6)を算出しました。
上記のデータ分析によると、当該診療報酬の請求を満たす症例割合は9%。骨折後48時間超の手術割合は6割(手術までの平均日数は3.2日)という結果でした。
調査を担当したコンサルタントで理学療法士の穴田周吾は、「過去の調査や自身の臨床経験としても手術までの日数はここ最近、非常に短くなっている。それでも骨折後、手術までに48時間超かかる背景には、すぐに手術室や手術スタッフ、術後のベッドなどを確保するのが難しいという課題があると考えられる」と指摘。その上で、「病院内の効率的な手術運営が確立されていないことや、重症患者向けベッドの多くを軽症患者が占めているため手術ができないなど、経営効率化の課題が原因で手術までに時間がかかっている可能性が高い。病院経営の課題は、医療の質と密接に関わっており、病院経営の課題を解決することは、医療の質向上に直結する」(穴田)と解説します。
また、診療報酬の請求要件を満たす症例が少ない状況については「要件の一つである『年間60症例以上』が満たせていないのではないか」(同)と推測。一方、「米国では医療の質を担保するには最低でも年間200症例以上は必要と言われている。日本は病院過剰により医師や看護師などの医療資源が分散していることから、一病院当たりの症例数が少ない傾向にある」と、医療資源の分散という課題も医療の質に直結すると言及しています。
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経営の効率化や一病院当たりのマンパワー不足など、病院経営の現場はさまざまな課題を抱え、多忙を極めています。こうした中では、経営改善に向けた第一歩を踏み出すのも難しいと言えます。そのため当社は12月5日、全国の病院に向けて、無料の経営支援サービス「病院ダッシュボードχ(カイ) ZERO(ゼロ) ※7」をリリースすることを決めました。
当社では今後も医療の質向上や病院経営の効率化に関するテーマを軸に医療ビッグデータを分析し、情報発信してまいります。
(※1)大腿骨近位部骨折
大腿骨のうち、脚の付け根の部分の骨折の総称を指す。このうち症例数が多いのが「大腿骨頸部骨折」「大腿骨転子部骨折」で、大腿骨近位部骨折のほとんどを占めます。骨粗鬆症の高齢者、特に閉経後の女性ホルモンなどの関係で女性に多くみられます。
(※2)株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン
医療専門職、ヘルスケア企業出身者、IT専門家らで構成される経営コンサルティングファーム。急速な高齢化で社会保障財政の破たんが懸念される中、「質の高い医療を最適なコストで」の理念を実践する具体的な手法として、米国流の医療マネジメント手法「ベンチマーク分析」を日本に初めて持ち込み、広めたパイオニアです。http://www.ghc-j.com/
(※3)診療報酬
保険医療機関が行う診療行為やサービスに対する評価で、公的医療保険から保健医療機関に支払われる報酬です。診療報酬は2年に1度見直されます。
(※4)骨粗鬆症の予防や骨折後48時間以内の早期手術を診療報酬として新たに評価
2022年4月の診療報酬改定で、大腿骨近位部骨折に関する新たな評価が新設されました。関係学会のガイドラインに沿って継続的に骨粗鬆症の評価を行い、必要な治療などを実施する評価を「二次性骨折予防継続管理料」。大腿骨近位部骨折に対する適切な治療を評価する観点から、骨折観血的手術(大腿)への評価を「緊急整復固定加算」、人工骨頭挿入術(股)への評価を「緊急挿入加算」がそれぞれ新設された。
(※5)医療ビッグデータ
患者データを含む医療に関するさまざまなデータの総称。ここでは、包括支払い方式で入院医療費を請求する「DPC(診療群分類別包括払い)制度」の対象病院が作成を義務付けられている「DPCデータ」を指す。DPC制度は、従来型の出来高制度と比較して、1日当たりの報酬が決まっているため、過剰な診療の抑制や必要なコスト削減を促すことが期待できる。主に病床数が多く、重症患者を診療する急性期病院の多くが導入している。対象病院は1764病院(2022年4月時点)。
(※6)骨折後48時間の手術割合
病院提出のDPCデータより症例の入院日と手術の実施年月日の入力の差が0日または1日、および「緊急整復固定加算」と「緊急挿入加算」の算定の場合を骨折後48時間の手術と定義して分析した。
(※7)病院ダッシュボードχ ZERO
経営改善に向けたデータを提示する無料のクラウドサービスです。病院経営の専門コンサルタントが培ってきた「病院の課題発見」に向けたノウハウを、現場で利用しやすいようシステムに落としこみました。https://www.ghc-j.com/dashboard/zero/
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