2023.08.29
がん医療の均てん化を目指し、全国約200病院のがん診療連携拠点病院等で構成される「Cancer Quality Initiative(CQI)研究会」(代表世話人:望月泉=岩手県八幡平市病院事業管理者・岩手県立中央病院名誉院長)の第16回会合が2023年8月26日、開催されました(CQI研究会の紹介ページはこちら)。今回は過去最高の121病院186人が参加。CQI研究会における活動の軸である他病院の診療状況と比較する「ベンチマーク分析」をきっかけに、医療と経営の質の両面を同時に改善させた病院事例などが報告されました。
CQI研究会は、全国のがん診療連携拠点病院などが、自院のデータを持ち寄って集い、実名で比較分析することで、がん医療の質向上を目指す研究会です。がん医療の質向上を目指す有志病院(栃木県立がんセンター、千葉県がんセンター、神奈川県立がんセンター、愛知県がんセンター、四国がんセンター)が2007年に設立(後に岩手県立中央病院、九州がんセンターが加わり現在は7病院の代表者が世話人)。グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています。
第16回CQI研究会は、都内の会場とオンラインの2つの参加形式で開催。(1)がん医療の質と経営の質向上のベンチマーク分析(2)新型コロナウイルス感染症のがん診療への影響――の大きく2つをテーマに、各種データ分析の結果が報告されました。
がん医療の質と経営の質向上のベンチマーク分析のテーマでは、神奈川県立がんセンター副院長の岸田健氏と栃木県立がんセンター副理事長兼副センター長の藤田伸氏が講演しました。
まず、岸田氏が「ケーススタディ1(前立腺の悪性腫瘍)について」と題して登壇。前立腺がんの手術は現状、内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ 」が手術全体の9割近くを占めており、神奈川県立がんセンターでは2018年のダビンチ導入以降、前立腺全摘術の症例が倍以上に増えているなど、ロボット手術が大きな集患要因にもなっていることなどを指摘。その上で、「在院日数」や「術後抗生剤投与日数」、がん関連の各種加算・指導料等の算定率などの切り口で行った実名ベンチマーク分析の結果を発表しました。ベンチマーク分析の項目によっては、がん診療連携拠点病院の間でも大きなバラツキがあることが改めて確認されました(詳細についてはCQI研究会会員限定のオンデマンド配信でご確認いただけます)。
また、岸田氏はCQI研究会のデータを用いた自病院の改善活動についても報告。具体的な改善活動を推進する前段階で、症例数が多く、医療の質を示す関連加算を漏れなく算定している施設のデータを徹底分析。この病院の状況と自病院の状況を比較することで、何を優先的に改善していくべきか、まず取り組むべき改善活動のロードマップを描きました。実名ベンチマークができるCQI研究会の強みを生かした改善方法と言えます。分析には、CQI研究会が無償で提供するがん診療内容の分析ツール「CancerDashboard」を用いました(「CancerDashboard」の詳細は動画「【【3分で分かる】がん診療分析ツール『CancerDashboard』のご紹介」あるいはCQI研究会の紹介ページ参照)。
改善活動を通じて、複数項目の改善を実現。例えば、新たに病棟薬剤師を配置することで算定できるようになった「病棟薬剤管理指導料」、地域連携パスの導入による「がん治療連携計画策定料」の算定率を大幅に改善。各種加算・指導料等の算定最適化でさらに増収が見込まれる一方で、岸田氏は「加算は適切な医療に対する対価。加算が取れていないということは、十分な医療が提供できていないこと。何より医療の質を担保するため、引き続き改善活動を推進していきたい」としました。
続いて、栃木県立がんセンター副理事長兼副センター長の藤田伸氏が「ケーススタディ2(直腸の悪性腫瘍)」について講演。前立腺がんと同じく、直腸がんもロボット手術の実施率が上昇しているものの、前立腺がん以外の疾患は診療報酬の点数が腹腔鏡手術と変わらないため、2022年度時点で全体の約3割程度であることなどを指摘。その上で、各種診療プロセスのベンチマーク分析結果を俯瞰していきました。
例えば、術式別人工肛門造設有無割合のベンチマーク分析。藤田氏によると、「高位前方切除術」は一部の症例を除き、ほとんどの症例で人工肛門造設の必要はなく、一方、「超低位前方切除術」については、逆にほとんどの症例で人工肛門を造設した方が、いずれも医療の質において好ましいとしています。ただ、今回のベンチマーク分析結果を見ると、病院間での術式別人工肛門造設有無割合にはバラツキがあり、施設間差が大きい事を示していました。
また、こうしたバラツキは「人工肛門・人工膀胱造設術前処置加算」のベンチマーク分析においても明らかになりました。藤田氏は、「直腸切断術前には必ず加算を取るべきものにもかからず、算定していない施設があることは、医療の質の観点で問題。また、前方切除では、一時的人工肛門の造設予定がなくても、前処置の加算が算定できるので、こちらは経営の観点で問題」と指摘しました。
GHC代表取締役社長の渡辺幸子は、「新型コロナウイルス感染症のがん診療への影響」と題して講演。22年度においても、外来患者の受診控えが続いており、特に肺炎やウイルス性腸炎などの感染症が激減していることから、渡辺は「今後、手洗いうがいの徹底の行動変容は緩むだろうが、コロナ前に戻ることはない。そのことを踏まえた病院経営が必要」など、未だにコロナの影響が続いている状況を指摘しました。
また、コロナ禍を経たがん医療の状況についても報告。例えば、健診抑制と関連していると考えられる40-60代の胃がん症例の減少の他に、AYA世代(15歳~39歳)の子宮がん症例の減少を指摘しました。一方で、特に膵臓について早期発見を目指した取り組みが報じられている地域(近畿、中国地方)での症例増加、急性白血病の新薬(ベネトクラクス)の普及による入院症例の増加などの現状が明らかになりました。
他のCQI研究会の世話人からも、日本のがん医療均てん化に向けては、何よりも継続的なベンチマーク分析が大切であることが強調されました。
会の冒頭で挨拶した代表世話人の望月氏は、コロナの影響で4年ぶりに会場でも開催できるようになったことを喜ぶとともに、今回は過去最高の参加病院数になったことを報告。参加病院に向けては、今回の分析結果を聴講するだけではなく、終会後も会員施設に無償提供する「CancerDashboard」を用いた継続的な改善活動を推進できることが、CQI研究会の大きな価値であるとしました。
厚生労働省「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」の座長も務める九州がんセンター院長の藤也寸志氏(藤氏はオンラインでの参加)は、CQI研究会の参加を機に、より多くの個々の病院が改善活動を推進することで、それが地域医療の向上につながり、さらには日本全体でのがん医療の均てん化につなげていきたいと訴えかけました。
四国がんセンター血液腫瘍内科医長の吉田功氏は、「混沌とした状況であるほど、経時的な個別分析と紐付けられたプロセスの分析は、道標となる可能性がある。多施設間における実証的なベンチマーク分析を行うことは、今後も価値が続くだろう。『No benchmark analyses, no gains.(ベンチマーク分析なくして, 利得は得られない)』」として本会を締めくくりました。
また、CQI研究会の開催直前には、GHC特別セミナー「医療の質と経営の質を担保しながら、働き方改革への挑戦~実証データから見える、明日からできる対応~医師編、メディカルスタッフ編」が開催されました。
広報部 | |
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