2021.08.30
日本病院会は8月18日、「中小出来高病院経営管理者向け研修会~『コロナ禍の中小病院経営』~」を開催しました。引き続き新型コロナウイルス感染症の拡大が収まらず、今回は事務局、演者、聴講者が完全オンラインで参加するweb形式で開催。74病院、123人の申込みがありました。
日本病院会が展開する出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」のユーザー事例では、倉敷中央病院リバーサイド(岡山県倉敷市、130床)で総務管理グループ室長の山﨑博史氏(画像)が講演。「これまで全く分からなかった他病院の状況が分かったことはJHAstisレポートの功績」(山﨑氏)などと紹介しました。
勉強会の対象は、日本病院会会員の出来高病院。web形式での開催は、今回で4回目となります。JHAstisの活用を前提に、実践的な経営関連情報や具体的な経営改善手法を学べます。
JHAstisは、出来高算定病院が重要な経営判断を行う際に活用できる経営分析レポートです。JHAstisユーザーは、専用ソフトを用いて、匿名化した診療データを日本病院会へ提供するだけで、経営の改善に資する情報を掲載した以下のレポートを受け取ることができます。
昨年度からレセプトデータのみではなく、より詳しく精度の高いベンチマークデータを示せるDPCデータも活用した経営分析レポート「JHAstis2.0」へとバージョンアップ。今回の研修会は、JHAstis のユーザー事例のほか、コロナ禍の病院経営をテーマにした2講演の計3講演で構成されました。
JHAstisのユーザー事例では、山﨑氏が「JHAstis2.0活用事例紹介」と題して講演。同院ではJHAstisを他病院とのベンチマーク結果、増収金額シミュレーションや算定・届出漏れの確認などに絞り込んで活用しています。例えば、リハビリ療法士の分析では、同院は地域包括ケア病棟もあることから、1日当たり平均リハビリ単位数は比較的高いという認識がありました。ところが、JHAstisのレポートによると、同単位数の中央値が3.0なのに対して、同院は2.8と平均を下回っていることが分かりました。こうした今までに分からなかった実態を把握できるのがベンチマーク分析の強みです。
地域包括ケア病棟では、非常に興味深い事例も報告されました。同病棟では「看護補助者配置加算」が算定できますが、JHAstisレポートのベンチマーク結果で7割近い病院が算定していることが分かりました(画像)。山﨑氏は「これまで厚生局の届出情報では、加算項目の届出状況が全く分からなかった。これが分かったことはJHAstisレポートの功績」と高く評価。算定ポテンシャルは年間1700万円ほどあり、算定に必要なコストを加味しても年間800万円程度の利益が出る可能性があることから、今後は積極的に看護補助者を配置していく方向性が院内で固まったとのことです。
山﨑氏はJHAstisについて「自院で収集できる各種統計データと組み合わせてJHAstisレポートを評価すると自院の立ち位置が分かりやすい」と指摘。また、「経営層、多職種管理者層へのコミュニケーションツールとしても活用できる」と述べました。
コロナ禍の病院経営をテーマにした講演では、日本病院会の大道道大副会長が「新型コロナウイルス感染症と病院の経営状況について」と題して講演。日本病院会のほか、全日本病院協会および日本医療法人協会の3団体による「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査」の結果を報告したほか、コロナ禍で一気に進みつつある病院のICT活用や病院のDX(デジタル・トランスフォーメーション=ICT活用による業態改革)化の現状について解説しました。
3団体の調査によると、2020年のコロナ禍における病院経営は、コロナ以前の2019年と比べて、外来患者統計で見ると1割減(画像)。入院患者統計では病床利用率が6%減という状況です。
一方でコロナ禍の病院経営は各種支援金があるため、この点を加味しないと実際の経営状況は見えてきません。そこで設立母体別に支援金のありなしで分析していくと、「公立病院は民間病院の4、5倍の支援金を受けており、これにより黒字化していることが多い。支援に偏りがある」と、民間病院の一部は厳しい経営環境に置かれている現状を指摘しました。
この指摘の背景には、民間病院は公立病院と比較してコロナ患者を受け入れない傾向にあるものの、公立病院と比較してコロナ患者を受け入れるには医療資源が不十分なことが多いため、そもそも受け入れが困難であるという実情があります。ただ、コロナ感染リスクを恐れた「受療行動の変化」や予定手術の先送りなどでコロナ患者を受け入れていない病院の経営も悪化しており、こうした現状から現実的にコロナ患者の受け入れが難しい多くの民間病院における経営現場の声を代弁していると言えます。
コロナ禍のこうした状況を踏まえて、大道副会長はオンライン診療やICTを活用した医療機関連携など「病院のDX」の必要性を自病院の事例を交えて訴えました(画像)。
一方でICTを活用するための病院のシステム対応、マイナンバーカードの普及率など、「病院のDX」を推進する上での大前提が遅れている面もあります。こうした状況を踏まえて大道副会長は、「これからの病院はさまざまな状況に対応し、その時々のベストを尽くせる『したたかさ』が欠かせない。そのことが国民への責務と自覚し、ともに厳しい状況を乗り越えていきたい」として講演を締めくくりました。
続いて、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタントである佐藤貴彦が「改定対応を済ませるために~JHAstis2.0活用案内」と題して、(1)コロナ禍の経営改善(2)2022年度改定の展望(3)元気に生き残るために―の3つのパートに分けて講演。主にJHAstisレポートの活用方法を紹介しつつ、今回は中小出来高病院向けの診療報酬改定のポイントについても解説しました(画像)。
JHAstisでは改定ごとに改定のポイントや改定が与える自病院への影響が具体的に数字で分かる「改定レポート」も発行しています。次回は2022年2~4月発行を予定しているので、ご興味のある方はぜひ、JHAstisの参加をご検討ください。
株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門コンサルタント。慶應義塾大学文学部卒。医療介護系ニュースサイトを経て、GHCに入社。診療報酬改定対応、集患・地域連携強化、病床戦略立案などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「日本経済新聞」などメディアの取材対応や、医療ビッグデータ分析を軸としたメディア向け情報発信を担当。日本病院会と展開する出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」を担当する。
広報部 | |
事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。 |
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