病院経営コラム

2024年02月15日

6000万円増収事例に学ぶ、大注目「外来診療」経営改善のポイント

病院経営の現場では今、外来診療の経営改善が注目を集めている。収益向上、働き方改革、地域連携など多数の重要な経営テーマと深く関係しているからだ。本稿では、外来収益で6000万円増収、入院収益や職員の業務効率化にも寄与し、医療の質向上にもつながった弊社のコンサルティング事例を通じて、外来診療を改善するポイントを確認する。

「外来」で人気ウェビナー参加者数が倍増

「参加者数が過去最高を更新しただけではなく、一気にこれまでの過去最高の倍にまで跳ね上がった。やはり、それだけ今の病院経営にとって、『外来』が注目されているのだろう」

グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がほぼ毎月開催する人気の病院経営ミニウェビナー。「外来診療の経営改善」をテーマに2023年11月開催の回について、講師を務めたコンサルタントでMulti Disciplinary マネジャーの太田衛は、こう指摘します。

過去最高の参加者となったミニウェビナー ©グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン

「外来診療の労力を最適化したい」
「外来診療の単価を上げたい」

病院経営のコンサルタントたちは、現場からこのような外来診療に関する経営改善の相談を受けることが多いです。「外来機能報告」「紹介受診重点医療機関」など、「外来」がキーワードとなる話題が次から次へと出てきました。外来は集患戦略の軸となる地域連携の窓口でもあります。2024年4月からは医師の働き方改革もスタート。今まで以上に院内業務の効率化が欠かせません。新型コロナウイルス感染症の拡大も落ち着き、いわゆる「コロナ特需」もなくなりつつあり、肺炎など感染症症例もコロナ前に戻っていません。

こうした中で、多くの病院はいかに効率よく患者を集め、業務量を最適化し、収益を上げられるかが問われています。その際、収益の柱である入院医療ではなく、なるべく少ないリソースで効率的に運用したい外来診療に注目が集まっているというわけです。

ただ、外来診療の経営改善はどのように進めていけばいいのか――。本稿では、外来診療の見直しで外来収益6000万円増を実現した事例(公立病院、500床以上)を通じて、外来診療見直しのポイントを確認していきます。

「6000万円増収の倍以上の価値」

当社のコンサルタントがこの事例でまず行ったのは、データ分析に基づく外来診療の見える化です。GHCが提供する経営分析システム「」の「外来分析」機能などを用いてさまざまな角度から見ていくと、大きく2つの気になるデータが明らかになってきました。

・周辺医療機関からの紹介割合が約2.5割(500床以上の病院の平均は6割程度)
・外来1回当たり診療単価5000円未満の症例が全体の4分の1超

外来症例を診療単価の階級別症例割合(上段)を見た上で、それぞれの収益割合を見ると愕然とすることは経営改善の現場でよくあること。例えば全症例の4分の1を占める5000円未満の症例の収益が全体の何%かを確認すると、わずか全体の1%であるというようなことは珍しくない(図表は「病院ダッシュボードχ」の「外来分析」の画面。データはダミー) ©グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン

この2つのデータが示すのは、周辺医療機関との役割分担や連携が不十分であり、この病院で診る必要のない患者まで抱え込み、そのことで周辺医療機関からの患者紹介も少なくなるという悪循環です。この病院は500床以上の地域医療の拠点となる急性期病院なので、本来であれば低単価の症例は周辺の医療機関に任せて、入院につながるような重篤な外来患者を中心に診るべきです。当時の担当コンサルタントだったGHCコンサルタントでシニアマネジャーの塚越篤子は、次のように改善のポイントを説明します。

「入院に結び付けるチャンスを逃さないため、単価の低い患者も診てしまいがちだが、こうした患者を周辺医療機関に『逆紹介』して地域連携のサイクルをつくることこそが大切」

すぐに取り組んだのは、急性期を脱した患者を元の紹介元へ戻す「逆紹介」の推進です。院内の各診療科や地域連携室を巻き込み、周辺医療機関への説明を重ねていった結果、2年後には外来の症例数が月あたり3000件減った一方で一診療単価は6000円増加。初診割合は倍増し、結果、外来収益は年換算で6000万円増加しました。

成果はこれだけではありません。外来症例の総数が減少したため、職員の労働環境が改善したことはもちろん、これまで外来に充てていた労力を入院医療にシフトすることもできました。業務効率化の結果、一人の患者に割ける時間も増え、患者満足度や医療の質向上にも寄与しました。

「外来診療の見直しがきっかけとなり、病院全体の経営という観点からは、外来診療6000万円増収の倍以上の価値を得ることができたと言える」(塚越)

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外来診療のお悩みは大きく3つに集約される

この病院の事例は、特別な事例ではありません。コンサルタントに寄せられる外来診療のお悩みは以下の通りであり、整理するとおおよそ3つの経営テーマに収れんされます。

<収益性向上>
入院や手術を増やしたいが外来が忙しい
算定漏れを減らしたい
単価を上げるためにはどうすればいいのか

<働き方改革>
外来時間が長くて職員が疲弊している
外来枠は今のままでいいのかわからない

<地域連携>
逆紹介すべきなのはわかっているけど進まない

そのほかにも、「そもそも自院の外来はどうあるべきか」などの声もよく聞きますが、これは先の3つの経営テーマの土台となる自病院の地域での役割や方針の決定という課題です。また、「外来適正化分析を指示されたが何をすればいいかわからない」「経営指標をモニタリングしているが善し悪しが不明確」などの声も聞きますが、これらは分析手法やデータの見方の問題なので、これについては外来以外も含めた病院経営全体の基礎トレーニングが必要になるので、ここでは一旦、脇に置きます(詳細は『1から学ぶ「経営企画」入門』『経営企画に欠かせない「データ分析」の基礎』参照)。

上記をまとめると、外来の経営課題は以下のような図で示すことができます。自病院が抱える課題はこのうちどれなのか――。それを知るためにもまず、客観的なデータで自病院の外来の状況を可視化しましょう。

外来診療のお悩みの根にある経営テーマは上記のように整理できる ©グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン

データドリブンのアプローチで自病院の課題に適した対策を

外来診療の見直しに向けたデータ分析をする前に注意すべきことは、病床規模によって対策が異なるということです。地域の事情や病院の機能などにもよりますが、おおよそ200床以上と200床以下で着目すべきポイントが異なります。

200床以上の病院であれば、事例で取り上げた病院のような逆紹介を軸とした対策になります。地域の中核を担う急性期病院で最も重要なことは、機能分化と連携です。急性期病院で扱うべき重篤な症例に集中し、軽症の症例はなるべく周辺医療機関に任せましょう。その際に重要なことは、前述したデータによる「単価階級別」に症例を見える化することです。

戦略的な地域連携の推進も欠かせません。紹介と逆紹介はセットで考え、常に周辺医療機関との関係性構築を念頭に行動します。この際にも重要なことは、データによる地域連携の可視化です。ここでは詳しく述べませんので、詳細にご興味があるからは「元クリニック事務長が教える、間違いだらけの地域連携」を参照ください。

200床以下の病院で重要なことは、診療単価の向上です。以下は全国700病院のデータをベンチマーク分析し、病院全体の収益に占める外来収益の割合を病床規模別で示したものです。200床以上の病院はいずれの病床規模でもおおよそ外来収益の割合が3割程度であるのに対して、100床台では4割弱、100床以下では5割弱になっています。つまり、外来診療の収益割合が大きい200床以下の病院は、より外来収益の向上策が重要になってくるということです。

200床以上と以下では外来収益の割合が異なり、外来診療の見直し策も異なる ©グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン

ここまで確認してきた通り、外来診療の見直しは、収益向上、働き方改革、地域連携の大きく3つの経営テーマと密接に関わってきます。さらにはその土台にある「自病院の地域における役割」を明確にするという病院のビジョンにも通じます。外来診療の見直しは、2024年現在における最重要の経営課題の一つと言っていいでしょう。

今後の病院の未来をも左右する重要な経営課題だからこそ、客観的で精度の高いデータによるベンチマーク分析は欠かせません。対策がまだの病院は早速、自病院の外来診療をデータで可視化してみてください。完全無料の経営分析ツール「病院ダッシュボードχ ZERO」をお使いいただくのもいいですし(「外来分析」無料体験キャンペーンはこちら)、具体的なデータ分析や改善活動の手順が分からないという方は、お役立ち資料「専門家が厳選10項目でチェック 外来診療、劇的改善バイブル」を無料でダウンロードできますので、合わせてご確認ください。

専門家が厳選10 項目でチェック 外来診療、劇的改善バイブル

塚越 篤子(つかごし・あつこ)

コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、助産師、経営学修士(MBA)。10年以上の臨床経験、医療連携室責任者を経て、GHC入社。医療の標準化効率化支援、看護部活性化、病床管理、医療連携、退院調整などを得意とする。全国の病院改善事例多数。若手の育成や人事担当なども務める。「」編集長。

太田 衛(おおた・まもる)

Multi Disciplinary マネジャー。診療放射線技師。大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学修士課程修了。大阪大学医学部発バイオベンチャー企業、クリニック事務長兼放射線・臨床検査部長を経て、GHC入社。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「」の開発を統括する。マーケティング活動にも従事。新聞や雑誌の取材・執筆多数。