2022年12月26日
知られざる経営の裏舞台にスポットを当てる本企画「Story」。今回は京都桂病院の経営改善を担う経営企画室の野崎歩室長、加納和哉主任、野中崇大係長の3人(事例紹介はこちら)。
「そういう気持ちがあるなら、一緒に経営をやっていかないか」
当時、薬剤師として京都桂病院に勤務していた野崎さんは、突然の若園吉裕院長の一言に驚きました。
野崎さんは20年以上、臨床の現場一筋だった薬剤師。病棟薬剤師やICU(集中治療室)勤務も経験してきました。
ただ、薬剤師として頑張れば頑張るほど、薬剤師としての立場だけでは、さらなる業務の効率化や医療の質向上には限界があると感じていました。経営と臨床の現場の温度差、経営への意識にバラツキがある医療従事者、部署間の情報共有や連携など。このような課題解決に取り組み、現場の頑張りがただの頑張りに終わらず、着実な成果に帰結するような改善が必要なのではないか――。
野崎さんはある日、積み重なった問題意識を一つの院内報告に込めました。冒頭の若園院長の一言は、この報告に対しての一つの提案でした。
臨床の現場一筋だった野崎さん。まだまだ臨床を続けたい気持ちもありましたが、「これからは裏方で現場の医療従事者が働きやすい環境を作っていこう。そのことがより良い病院になるきっかけの一つになれば、これからもモチベーション高くやっていけるセカンドキャリアになるのではないか」(野崎さん)と直感。若園院長からの提案を快く受け入れました。一念発起し、MBA(経営学修士)も取得しました。
現在の経営企画室の様子を、野崎さんは次のように説明します。
「スタッフ3人とも臨床現場の実情や気持ちをよく知っている医療従事者。価値観や目指している方向性のズレがありません。3人で何かを情報共有すると、皆が勝手に話を進めてくれているという状況です。わずか3人ですが、それ以上の人数に相当する動きができていると思っています」
続いて経営企画室に合流したのは、臨床工学技士の加納さん。野崎さんと同じく、臨床現場で15年活躍してきたベテランですが、「自分は(キャリアチェンジすることに対して)あまり悩まなかったですね。事務部門と臨床部門の隔たりを感じていたので、それを解消する働きをしたいと思っていました」(加納さん)と振り返ります。
経営と臨床現場の間にある隔たりは、多くの病院で感じていることなのではないでしょうか。
医療は職種や診療科の間に高い専門性があり、それぞれの専門性を認め合い、支え合うことで成り立っています。それぞれの専門性に介入する「領空侵犯」は、タブーと言える側面があります。それが専門性という意味ではさらに遠い、「経営」を担う事務部門、「医療」を担う臨床部門との間に隔たりが生じてしまうのは、ある意味当然のことと言えます。
事務部門がより良い経営を目指すと、診療プロセスに口を出さざるを得ない課題が見えてきます。その課題解決に向けて、細心の注意と敬意を払って改善提案を行っても、臨床の現場を知らないがゆえに、どうしても現場目線ではおかしな点が目に付いてしまうこともあります。事務部門からの改善提案の中にそのような部分が少しでも見えてしまうと、懸命に現場で活躍する医療従事者ほど、提案を拒まざるを得ないある言葉が頭に浮かんできます。
「医療現場の実情を分かっていない」
事務部門も臨床部門も、お互いにより良い医療を目指しているものの、このようなすれ違いが院内のあらゆるところで発生しているのではないか――。こうした問題意識が、加納さんの迷いのないキャリアチェンジの背景にあったのではないでしょうか。
加納さんは臨床経験だけではなく、情報通信・コンピュータにも精通しているため、病院DX(デジタル・トランスフォーメーション)のカギを握る存在としても期待されています。そのため、情報システム部門との連携も含めて、臨床部門以外の多くの部門との連携も担っています。野崎さんは加納さんをこう評します。
「加納さんはいつも対応がマイルドで、すぐに『行きましょうか?』とフットワークも軽いので、さまざまなところからさまざまな依頼がきます。ですから、いつも仕事を抱え込みすぎているところだけが唯一の心配事です(笑)」
最後に経営企画室に合流した野中さんは、20年のキャリアがある理学療法士。当時、野崎さんが「経営マインドがあって、経営改善を提案する際の医療従事者の勘所も分かる人材がほかにいないか」と各臨床部門に相談していたところ、リハビリテーション科の科長が推薦してくれたのが、野中さんでした。野中さんは当時をこう振り返ります。
「まさに寝耳に水でした。理学療法士として上位の資格を取得しようと次のステップを考えていた矢先だったので…。ただ、迷いもありましたが、お話を聞いているとやりがいもありそうなので、少しずつお手伝いをしていこうかと」
そのため、経営企画室とリハビリ科の二足のわらじでスタートした野中さん。当初は「1日のうち半分の時間を経営企画室で過ごせればいい方」(野崎さん)という状況でしたが、気がつけばさまざまな診療科を出入りし、経営改善に向けたワーキンググループを立ち上げるなど、精力的に院内を渡り歩くようになっていました。
加納さんが病院DXを軸に活動するなら、野中さんは事務部門の代表として臨床部門を訪れる事務方兼医療従事者。医師や看護師などの他職種とコミュニケーションを取り、時間をかけずに次から次へとさまざまな企画や改善提案を行っていくイメージです。
例えば、リハビリテーション総合計画評価料。科内で行っていることを経営分析システム「」を用いて可視化し、それが他病院と比較して平均的なことなのかどうかを検証し、何をどう変えていけば改善の余地があるのかということを、現場の関係者たちと議論していきました。結果、リハビリテーション総合計画評価料は着手からわずか半年で大きく改善していきました。
「加納さんもそうですが、どういう提案をすると現場で止まってしまうのか、誰だったら動いてくれそうか、誰と誰を巻き込むべきか、という改善への道筋を自ら描けるところが野中さんの強み」(同)
経営企画室に入る前から、取れる加算は取った方が経営的にも医療の質としても好ましいことは当然、理解していた野中さん。ただ、今の立場になるまで、どのようなハードルがあるのか、そのハードルを乗り越えるためには何が必要なのかよく分かっていなかったと、野中さんは振り返ります。このハードルの存在に気づけば気づくほど、野中さんが経営企画室にいる時間の比率は、徐々に高まっていきました。
「課題がたくさんあることがよりよく分かってきて、自分がやるべきことがよく見えてきたのでしょうね。『これは、とても半日では足りない』と」(同)
同院の経営企画室に所属する医療従事者たちは今、臨床現場の第一線からは離れたものの、今まで以上により良い医療を目指し、邁進しています。
広報部 | |
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