2022年10月14日
知られざる経営の裏舞台にスポットを当てる本企画「Story」。今回は、君津中央病院でデータ分析やDPC対策を行う新設チーム「医療情報班」の班長を務める診療情報管理室主幹兼副室長の加藤友紀子さん。
「加藤さん、ちょっといいですか?」
医療情報班には、さまざまな診療科や病棟などから、このような問い合わせが頻繁にあります。そのほとんどが、君津中央病院で隔月をメドに発行される「DPCコーディング通信」や分析レポートについての問い合わせ。
「DPCコーディング通信」は、主に「(カイ)」を用いて院内の診療プロセスを分析。改善の余地がある課題を診療の現場へ報告し、改善を促すためのツールです。例えば、DPCコーディングにおける副傷病名の記載を医師に促す役割を担っています。
通常、こうした役割は煙たがられたり、「スルー」されたりすることが多いです。それが同院では頻繁な問い合わせにつながっており、加藤さんら医療情報班が「こうしてください」などの要望をすることなく、現場が経営改善に向けて積極的な行動をしてくれています。
「『DPCコーディング通信』で提供している情報は、あくまで一般論であり、『推奨』の情報。このスタンスが大切なんです」(加藤さん)
加藤さんは今の医療情報班を活動の拠点とする以前、診療情報管理室と医事課を兼務していました。医事課でのミッションは、DPCコーディングのチェック。それまで特別なDPC対策をしてこなかった同院のコーディングには、指摘すべきところが無数にありました。金額ベースでは月に500万円程度の増加につながることもあったほどです。
こうした地道なチェック活動が同院の経営改善に与えた影響は大きいです。ただその一方、加藤さんは当時のことをこう振り返ります。
「医事課の時は無理をして強行突破したこともありましたが、お互いハッピーにはなれなかったんですよね」
成果は出たものの、釈然としない状況にあった加藤さんの脳裏をよぎったのは、大学時代に専攻していた「教育心理学」で学んだ人間の行動理論である「内発的動機づけ」とその源となる「自律性」でした。「医療従事者は有能で向上心のある集団です。自分で自由に決定できる『余地』を持たせるべきだと感じました」
加藤さんが教育心理学を通じて学んだことは、「やる気スイッチは押せない」ということです。「子育てと同じですよね。親が『こうしたい』『こうなってもらいたい』といくら願っても、やる気スイッチのような便利なものはありません。できることはただ、学習の機会を与え、成長を見守り続けることだけ。やる気スイッチがあるとしたら、それは本人にしか押せないものです」
こう考えた加藤さんは、DPC対策チームである「医療情報班」が新設され、その班長の命を受けてから、アプローチ方法を変えました。
まずは情報がないと何も行動ができないので、「一般論と『推奨』」に留めたメディアである「DPCコーディング通信」を創刊。基本はイントラネットのメッセージ機能で共有配信していますが、イントラネットにアクセスしない人のことも考慮して、医局にある医師のレターボックスへの投函も行っています。
見せ方にもこだわりました。こだわりの視点とゴールは、問い合わせにつながるか否か。「問い合わせがなかったら、見せ方が悪かったんだと考えるようにしています。もっと分かりやすく、もっとやる気が出るようにということを常に意識しています」
現場の医師や看護師の思考も考え、「表現」にも気を付けています。「当院は地域医療の最後の砦となる病院です。そうした意識を持って職務にあたっている現場職員に対して、『DPCが』『収益が』などとこちらの都合で情報発信しても響きません。『推奨』を実行することで医療の質や標準化にどう影響するのか、そんな医療従事者目線のメッセージも心がけています」
「やる気スイッチは押せない」という潔いあきらめにより、院内の経営に対する関心は向上。DPC期間II超率の低下や係数の上昇などの成果につながり、いわゆる「コロナ関連補助金」を除いても赤字をほぼ解消した要因の一つになりました。
当初は精神的につらい時期もあったという加藤さん。今は楽しみながら仕事ができていると言います。
「『推奨』に留める情報発信もうまくいった理由の一つですが、やはり一番重要なのは、現場の頑張りだと思います。看護局はとても協力的で、医師にDPC対策を促すよう動いてくれることもあります。医師もデータに納得さえしてくれたら予想以上の動きをしてくれます。企業長も自ら研修医にDPCの基礎をご教授いただくなど、本当に頭が下がります。結局は人に恵まれているということなのかもしれません」
経営改善に向けて「やる気スイッチ」が入るまでの長い道のり。この長い間、待ち続けることができたのは、同じ職場の仲間たちへの信頼だったようです。
広報部 | |
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