2022年10月05日
知られざる経営の裏舞台にスポットを当てる本企画「Story」。今回は、相澤病院で経営企画の中枢を担う経営戦略部戦略企画室の室長を務める武井哲也さん。
「武井さんの調整力が素晴らしく、打ち合わせまでの準備に手間取ったり、何か心配事を残したりして当日を迎えるということは全くありません」
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の担当コンサルタントの一人である水野孝一は、武井さんについてこう話します。
病院の経営コンサルティングに不測の事態はつきもの。▽前回の打ち合わせで決定したことができていない▽コンサルタントへの依頼内容が不明確▽打ち合わせに参加できなかった院内のキーマンへのフォローがない――。このようなことがコンサルティングの現場で起きることは、珍しいことではありません。
そのため、コンサルタントたちはいかにこのような状況を作らないか、都度、クライアント病院とコミュニケーションを取りつつ、先回りしてトラブル回避に努めようとしています。ただ、相澤病院に関しては、このような心配をすることがほとんどないということです。
加えて水野は「コンサルタントの使い方がうまい」とも指摘します。
例えば、院内にあるデータで事足りる分析については、そのほとんどを戦略企画室がこなします。武井さん含めた戦略企画室のデータ分析スキルが極めて高いからです。そのため、GHCに依頼するのは院外のデータやベンチマークが必要なものを中心とする傾向にあります。一方、院内の関係者による活発な議論を狙っている打ち合わせの場では、「GHCが分析した資料によると」と、あえて「第三者からの指摘」であることを強調しているのではないかと、水野は予測します。院内では気づきづらいことや指摘しづらいことを第三者にさせ、その指摘の先にある本質的な議論へ導き、最も大切なことに貴重なリソースを割いてもらうためではないかと考えるためです。
「高い分析力はもちろん、全体を良く見渡せているからこそ、『どのピースが足りない』『ここは外部からの指摘を使った方が効果的』などの判断を的確にできるのではないでしょうか」(水野)
武井さんは、病院の「外」からも注目される経営企画担当の一人です。
学会や全国の有名病院が集う勉強会の場で発言する機会も多く、日本病院会の会長を努める「有名理事長」である相澤孝夫理事長の院外活動では各種データを司る担当者として同行することもあります。相澤病院の経営について学びたいという他病院の担当者には、一定期間、教育係として接することもありました。
GHCの担当コンサルタントでマネジャーの冨吉則行は次のように見ています。
「武井さんの院外での発言は、病院関係者から注目されるのは当然です。やはり、日本病院会会長でもある相澤理事長の『右腕』として日本全体の視点で病院経営を考える機会があることが一つ。また、回復期や在宅医療、介護まで含めた視点で、病院経営におけるさまざまな課題をより広く、深く考えざるを得ない慈泉会という組織に属していることも大きいと思います」
院内外で多彩な顔を持つ武井さんですが、主軸となる病院の経営企画担当者のミッションについて問うと、次のように説明します。
「とてもシンプルです。徹底的に内部と外部の情報を分析し、その上で自分たちの現状を評価し、今後の病院の方向性を決める戦略と企画を練る。この戦略と企画を経営陣が判断できるレベルのものまで作り込み、提案する。ここまでが我々のミッションです」
武井さんは都内の医療機器メーカーの臨床検査技師としてキャリアをスタート。臨床検査技師として医療機器のプレゼンや医療機関のサポートをするアプリケーションスペシャリストとして務めた後、出身の松本へ帰郷するタイミングで相澤病院へ入職しました。当初は診療情報管理士として活躍していましたが、徐々に診療情報管理科で経営企画の業務も担うようになります。その後、戦略企画室ができるタイミングで異動し、2016年に現職に就任しました。
民間企業から病院職員へ転じ、意図せず経営企画の中枢を担うようになった武井さん。そのため経営企画に関する特別な勉強をしたわけではなく、必要な知識やスキルのほとんどは経験や独学を通じて身に付けてきたといいます。院内外から注目される経営企画担当者に成長した原動力は何だったのでしょうか。
最初に挙げられるのは、経営企画に限らず「挑戦する文化」「実践できる環境」があったことではないかと話します。この点を語る上で欠かせないのが、相澤理事長の存在です。相澤理事長は常に大きなビジョンを掲げ、そこへ突き進むための信念を持ち続け、困難を突破する行動力を持っています。
「相澤理事長の息づかいが分かる距離感で仕事をしているので、よく理事長が自分の思いを話してくれますし、気軽に相談もできます。厳しい方ですが、考えている視点やスケールが大きく、日本の医療全体のことをよく考えられています。何かを『挑戦』『実践』するには、非常に恵まれた環境にあります」(武井さん)
次に、常にデータに基づいて議論する姿勢です。この点も相澤理事長による影響が大きく、「根拠となるデータがなければ単なる思いつき。思いつきの仮説を次のレベルへ持っていくには、データが欠かせない」と厳しく指導されました。
院内の医師たちと意識して話すようにもなりました。医師はデータに基づくロジカルな議論を好むため、ただ話すだけでも勉強になると考えたためです。このことを意識し始めた当初は、電話で済むような話であっても医師に直接会い、積極的に話をするよう心がけました。
医師と直接話すという姿勢は、最後の「現場と話す機会をつくる」という点にも通じます。いくらデータに基づくロジカルな議論ができても、現場の医療職から信頼されていなければ、経営改善を推進することはできません。経営改善を推進するのは、それぞれの感情も信念もある「人」だからです。
根拠となるデータを示しながら納得感のある説明ができ、かつ普段からの信頼も得ているからこそ、ここぞという時に「一緒に何かを変えていこう」と決意させるだけの行動変容を院内全体にもたらすことができているようです。
相澤理事長という大きすぎる存在を常に身近に感じながら、行動力とデータ、信頼によって紡ぎ出される武井さんの次の一手。この一手が相澤病院のさらなる改善の原動力になるとともに、それが病院経営にどのような経営を与えたのか、日本中の病院関係者から注目されています。
相澤理事長に武井さんの存在について聞くと、次のようなコメントが返ってきました。
「慈泉会を取り巻く内部環境や外部環境の情報収集と分析について、時を失することなく適切に経営陣に提供し、情報に基づく改革を推進してくれる、かけがえのない人材である」
広報部 | |
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