2016年06月21日
病院名 | 名古屋第二赤十字病院 | 設立母体 | 公的病院 |
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エリア | 東海地方 | 病床数 | 812 |
病院名 | 名古屋第二赤十字病院 |
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設立母体 | 公的病院 |
エリア | 東海地方 |
病床数 | 812 |
コンサルティング期間 | 6年間 |
「名古屋第二赤十字病院」(名古屋市昭和区)で5月30日開催した「病院ダッシュボード」のユーザー会で、同院の改善事例が発表されました。「小さな改善で大きな効果」をモットーにした経営分析を通じて、医療資源全体における注射コストを半減させるなど非常に費用対効果の高い改善活動を実践していることが明らかになりました。日赤を代表するブランド病院が実践している具体的な分析のポイントは、大きく4つあります。
名古屋第二赤十字病院は、提供する医療の質、チーム医療の推進、教育体制などが国内トップレベルの水準で、医療関係者が学ぶべき点も多く「同院の現場を一度は見てみよう」と、全国から見学に訪れる人たちは後を絶ちません。いわば「医療関係者の行列ができる病院」とも言える同院の経営分析にも注目が集まり、当日は定員30人の枠を埋め尽くす満員御礼の中、ユーザー会が始まりました。
会の冒頭、石川清院長が駆けつけ、DPC分析の重要性などについて触れた上で、ユーザー会での情報共有による分析力や医療の質向上に期待しているなどとあいさつしました。
改善事例では、入院業務課の橋本知紀氏が登壇し、「病院ダッシュボードを活用した院内の取り組みについて」と題して講演しました。
名古屋第二赤十字病院が「病院ダッシュボード」を導入したのは2011年。現在、DPC活用委員会、クリティカルパス活用委員会、病床管理会議などさまざまな経営関連の重要会議で活用されています。委員会で作成した資料をベースに、各関連部門へ情報提供するなどの働きかけも行っています。入院業務課が各診療科から分析依頼を受けることも多くあります(図表1)。
院内を巻き込んでの「分析」や「改善」の文化が根付いている同院ですが、現状に至るまでにはいくつかのステップがありました。まず、導入時に外科部長会と内科部長会で「病院ダッシュボード」のプレゼンテーションを実施。簡単に視覚的に改善のポイントが分かることを、本格活用の前に院内のキーマンへしっかりと説明したことで、それ以降に個別相談を受けるようになります。
さらに、プレゼン資料はDPC活用委員会の院内のウェブページに掲載し、継続して分析依頼を受ける体制を整えました。各診療科の依頼で作成した分析資料も院内ウェブページで共有できるようにしたことで、「分析」や「改善」の文化は徐々に院内に浸透。クリティカルパス活用委員会の発表会では、分析資料が腎臓内科のパス5種類の見直しに活用されるなど好評でした。「結果的には改善につながらない事例であっても、『自分たちのパスが正しかったことが裏付けられた』と感謝されることも多い」(橋本氏)と言います。
橋本氏によると、名古屋第二赤十字病院における経営分析には(1)分析対象は症例数の多いものから、(2)分析の目的を明確にして1分析で1つ、(3)ベンチマーク対象は同規模の増収病院、(4)分析結果を鵜呑みにせず影響を調査―の4つのポイントがあると言います。
まず、特に分析の依頼者から指定されているのでなければ、「医療の質」と「コスト」の両面から、症例数の多い事例を分析対象とすることが好ましいです。例えば、眼科の「白内障手術(両眼)」は症例数が多く、院内でも常にトップ10に入る症例です。こうした症例数が多い分析から着手すると、小さな改善点でも大きな成果につながりやすいため、分析対象として最適です。
具体的に同院の「白内障手術(両眼)」を「病院ダッシュボード」で分析したところ、平均在院日数は全国平均以上の成績でしたが、医療資源における注射コストに課題があることが分かりました。原因を究明するためより具体的なデータを確認すると、コストの大半は抗生物質製剤であることが分かりました。
分析を始めると、さまざまな切り口のデータが出てきます。しかし、データが多くなればなるほど、そのデータが意味するところを読み取るのが困難になることがあります。そのため、分析を開始する前から、分析の目的をできる限り単純にし、可能であれば一つに絞ることが重要です。
「白内障手術(両眼)」においては、抗生物質製剤のコストに的を絞りました。
分析目的を「医療の質」に置くにせよ、「コスト」に置くにせよ、分析を通じて改善を目指すのであれば、他施設の状況を参考にするベンチマーク分析が効率的かつ安全です。そのためには、対象施設の選別が重要です。「規模」や「医療圏の状況」、「人口比率」など一致する条件が多いほど分析精度は高まります。また、「改善」を目指した分析のため、参考にすべきは「増収」施設が対象になります。
「白内障手術(両眼)」の分析では、同規模病院のうち抗生物質製剤の使用率と後発医薬品の使用率について比較しました。すると、抗生物質製剤の使用率は同規模病院の全国平均27.7%に対して、名古屋第二赤十字病院は87.8%。後発医薬品の使用率も全国平均47%に対して0.6%と、いずれも改善の余地があることが明らかになってきました。
分析は、あくまで過去のデータの集積から成り立っています。改善効果を予想することはできても、「不確定要素」も存在します。従って、改善活動は「小規模、短期間の積み重ねが原則」であり、調査によって軌道修正していくべきです。
「白内障手術(両眼)」においても、分析結果を鵜呑みにすれば、抗生物質製剤を使用しないという選択肢もありえます。ただ、より詳細な分析などをして検討した結果、まずは使用薬剤の変更によるパスの見直しを試みて、その影響を見ながら慎重に変更することにしました。「石橋を叩いて渡るつもりで、例えば3か月単位で見直しを行うような小さな改善の積み重ねが重要」(橋本氏)と言います。
この見直しによって、これまで医療資源全体に占める「注射コスト」の割合は1%でしたが、これが0.5%に半減。1万890円だった医療資源の平均金額は、8808円と約2000円の削減に成功しました。4つの分析のポイントにそって改善活動を進めてきたことにより、安全かつ小さな改善で病院経営に大きな影響を与える成果を残すことにつながりました。
同院では現在、平均在院日数の短縮を目指して、診療科別や病棟別でDPC入院期間を見える化し、院内全体で共有するという取り組みも行っています。入院期間「I」と「II」の合計が8割という目標に対して、現時点で7割を超える数値で推移という成績を残している背景には、こうした院内全体を巻き込み、データで示すという文化が定着していることが大きく影響しているようです。
橋本氏は、「小さな改善でも大きな成果につながるところを共有できることで、多くの関係者の拒否反応を抑えて、受け入れていただけるきっかけを作ることができた。改善の第一歩は資料によるプレゼンテーション。病院ダッシュボードで作成した資料は、視覚的な理解のしやすさという点で、各部署で説明をする際の一助になる」として講演を締めくくりました。
この日のユーザー会では、GHCから「病院ダッシュボード」を利用するための初級編と中級編の講演も実施。初級編では、コンサルタントの薄根詩葉利が、参加者と一緒に操作をしながら基本的な操作方法を解説しました。今回はワークシートを取り入れ、病院ダッシュボードを見ながら気づいたことを書くスタイルで会を進行。手を動かすことで考えを整理し、参加者の理解向上につなげました。
中級編はマネジャーの冨吉則行が担当。「数字の見方」をテーマに講演し、「分析することは重要だが、それを相手に伝えるためには、その数字の意味を読む必要がある。そこが『道具があっても使いこなせない』か『活用できている』かの大きな違いになる」として、分析の際には数字の見方が何よりも重要であることを強調しました。
広報部 | |
事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。 |
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