2021年04月30日
病院名 | 医療法人社団 顕鐘会 神戸百年記念病院 | 設立母体 | 民間病院 |
---|---|---|---|
エリア | 近畿地方 | 病床数 | 199 |
病院名 | 医療法人社団 顕鐘会 神戸百年記念病院 |
---|---|
設立母体 | 民間病院 |
エリア | 近畿地方 |
病床数 | 199 |
コンサルティング期間 |
2021年春現在、未だに収まらない新型コロナウイルスの感染拡大。全国の病院の経営にも深刻な打撃を与え続けている中、前年比で症例数も収益も伸ばし、その増減率が全国トップレベルを記録した病院もあります。その一つが医療法人社団 顕鐘会 神戸百年記念病院(神戸市兵庫区、199床)。同院の経営を支えているのは、病院のステークホルダーたちのニーズをしっかりと汲み取ることができる徹底した「顧客マインド」です。
コロナ禍、ほとんどの病院は経営難に陥りました
2020年4月からの1年間、前年比で症例数の増減率を確認すると、大半の病院の症例数が激減していることが分かります(図表1)。コロナ患者の対応で通常医療を抑制せざるを得なくなったばかりではなく、マスクや手洗いの徹底による衛生環境の向上で肺炎など感染症が激減、「病院は危険なところ」との認識が広まり「受診控え」も続いたためです。
こうした状況の中、神戸百年記念病院における急性期病棟の症例増減率は705病院中13位。入院収益の増減率も22位と大きく伸びています。緊急入院の症例に絞って確認すると、症例増減率は7位(図表1)、入院収益も11位と特に緊急症例が大きく躍進していることが分かります。
なぜか――。同院の躍進の背景には、ホームページのトップで大きく掲げられている「地域になくてはならない病院になる」という「顧客マインド」に基づく病院理念があるようです。
神戸百年記念病院が位置する神戸市は、関西でも屈指の病院激戦区。激戦区ながら、この地域に整形外科の医療提供体制が足りないことに着目し、これまで整形外科を同院の強みとして展開してきました。
加えて、「救急センター」「消化器センター」「内視鏡センター」「認知病疾患医療センター」の4センターも、整形外科に次ぐ「地域になくてはならない」同院の診療科として注力。2021年2月からは新たに「循環器病センター」を開設して心臓カテーテルも強化し、計5つのセンターを整備しました。
整形外科と複数のセンターの強みを生かすため、集患戦略も強化。2019年からは救急の受け入れ体制を強化することで、緊急入院の症例増に向けた取り組みに着手。2020年1月には「病院ダッシュボードχ(カイ)」を導入し、データ分析に基づく経営改善に本腰を入れ始めるとともに、周辺の医療機関との地域連携も強化する計画を打ち出しました。
いずれも「地域になくてはならない」医療を提供するための新たな取り組みで、データ分析に本腰を入れ始めたのもその一環です。
データに基づく経営改善は現在、診療情報管理室の寒川佳宜係長(写真)を軸に推進。推進体制は、診療情報管理室のほか、医事課、地域連携課とも連携した3部門で構成されます。寒川氏は通常業務のほか、1日平均2時間ほどの時間を確保して自病院の経営状況を他病院と比較。都度、各診療科の課題をデータで確認し、各診療科へ報告するほか、月1回の部長会議(幹部会議)やクリニカルパス委員会で分析結果を発表するなどしています。
事務部門と診療科の風通しはよく、寒川氏も積極的にデータ分析の結果から課題を提示したり、診療科の医師からも分析依頼がきたりするなど頻繁に両部門がやり取りをしています。「病院ダッシュボードχは、経営状況を俯瞰して課題がすぐに分かります。ウェブブラウザ上で操作できるため、持ち運びができるノートパソコンから利用できるなど、診療科への説明の際の使い勝手もいいです。経営状況のデータ分析に興味がある医師も多いので、今後は各診療科の医師も病院ダッシュボードχを直接活用できるようにしていく方針です」(寒川氏)。
病院ダッシュボードχの導入時、二宮克行事務長は「データに基づく数字を武器に、事務部門も各診療科の医師としっかり向き合って改善活動を推進していってもらいたい」と考えていたため、寒川氏の現状の取り組み状況は想定通りの展開と言えそうです。
一方、導入当初に想定していなかった事態も発生しました。新型コロナの感染拡大です。
ただ、コロナ禍においても同院の「地域になくてはならない病院になる」の軸がブレることはありませんでした。地域における自病院の役割分担を明確にし、その役割に徹していきました。
入院が必要になる中等症以上のコロナ患者は、ICU(集中治療室)や集中治療専門医など専門的かつ十分な医療資源が必要となるため、400床以上の大病院が受け入れることが望ましいとされています。そのため、同院はコロナ患者対応で大病院が診られない高齢患者などの通常医療の受け皿になるという立ち位置を明確にしました。
2020年6月には、PCR検査や感染が疑われる患者を安全に診療できる隔離室を神戸市内で最も早く敷地内に設けるなどして、受け入れ時のトリアージ体制を整備。患者の安心・安全はもちろん、院内の医師や看護師たちの感染リスクを軽減しつつ、安心して通常医療を行える環境を整えました。隔離室の設置にあたっては、新たに専任の看護師の採用も行いました。通常医療と感染疑いの患者に対応する医療を明確に分けたのは、従業員というステークホルダーにもしっかりと配慮した「顧客マインド」あっての判断です。
全国的に救急搬送の受け入れ拒否が散見された状況にも対応。2019年から救急搬送の体制強化を行っていたこともあり、積極的にコロナ禍でも救急搬送を受け入れていきました。
コロナ禍での救急搬送を受け入れ始めてから、寒川氏ら事務部門の関係者たちはあることに気づきます。
救急搬送する救急隊員は、搬送後に診断が確定するまで、わずかな待ち時間があります。その待ち時間に目を向けた寒川氏らは、社会全体の情報が錯綜している中、手探りで搬送先を探し続ける隊員たちの疲弊を感じ取ります。また、そんな隊員たちに十分とは言いづらい接遇をする医療スタッフたちの言動も目に付きました。
救急隊員というステークホルダーに対して、現状が適切な対応なのか――。
こうした疑問から、寒川氏らは救急隊専用の待機部屋を設置。待機部屋には、おしぼりなども用意しました。さらに、隊員たちが院内スタッフに直接言いづらいことを書いてもらうため、連絡ノートを作成しました。隊員たちが何に困っているのか、その本音を引き出し、着実な改善につなげていくことが目的です。いわば病院と救急隊の「交換日記」を軸にした、神戸百年記念病院を選んでもらうための仕組み作りをしたのです。
狙いは的中。「交換日記」にはこれまで気づかなかった課題が綴られていきました。これら課題を改善の糧としつつ、一方でこの「交換日記」には救急搬送の際に有益な情報も集まっており、その情報を見たい救急隊員が定期的に同院を訪れ、さらに情報が書き込まれて蓄積されるという好循環に入りました。
結果、緊急入院の症例は増加。症例数も収益も全国トップレベルの増減率になる原動力になりました。救急隊というステークホルダーにも「顧客マインド」を持って接したことが奏効しました。
コロナ禍でも症例が増加した背景には、院内に根付く「顧客マインド」がありました。「地域になくてはならない病院になる」をベースにした顧客マインドが、この難局を逆にチャンスに変えました。
寒川氏は「今後はデータ分析を軸に、在院日数短縮や単価向上、稼働率向上をセットで改善していきたいです。紹介患者や逆紹介患者のテコ入れもしていく予定です」と抱負を語ります。コロナ禍の初期には、市民講座をYouTubeで配信したり、検診付きセミナーを実施したりするなど、どんな状況下でもスピーディーに時代に合わせた施策を実施できる風通しの良い神戸百年記念病院。常に「顧客マインド」を持って、新しいことにチャレンジし続ける同院を、今後もデータ分析の側面からご支援させていただきます。
広報部 | |
事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。 |
Copyright 2022 GLOBAL HEALTH CONSULTING All rights reserved.