事例紹介

2019年11月12日

【病院事例】聖隷浜松病院が「月間手術件数」過去最高を更新!データ分析を駆使した地域連携の推進と、コストの最適化が収益改善の鍵

病院名 聖隷浜松病院 設立母体 民間病院
エリア 東海地方 病床数 750
病院名 聖隷浜松病院
設立母体 民間病院
エリア 東海地方
病床数 750
コンサルティング期間

 医療の質と患者満足度の向上への取り組みが評価され、Newsweek誌の「World’s Best Hospitals 2019」に選ばれた聖隷浜松病院(静岡県浜松市、病床数750床、岡俊明院長)。医療の質を評価する国際規格「JCI(国際的医療機能評価機関)」も国内で5番目に取得。日本病院会の前会長である堺常雄氏が院長を務めた病院としても知られ、国内はもちろん、海外からも評価される日本を代表するブランド病院です。

聖隷浜松病院の外観

聖隷浜松病院の現状と課題

 年間1万件を超える手術件数、平均在院日数も10日台と短く、高度急性期病院として、幅広く、かつ筋肉質なメリハリのある医療を、地域を守る最後の砦として提供し続けています(詳細は「数字で見る聖隷浜松病院」)。

 そんな聖隷浜松病院も、昨今のさらなる在院日数短縮を目指した医療政策の影響を受けています。同院では、戦略的な集患に基づく地域連携の強化が大きな課題として設定。データを用いた増患によっていち早く成果を上げられました。また、もう一つの大きな病院経営における課題として、全国的に問題視されている「売り上げの伸び以上のコスト増」という問題にもいち早く対応を始めています。

 こうした中、2019年5月からグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が提供する多機能型経営分析システム「」を導入。紹介患者の入院や手術への移行率などをデータで瞬時に確認できる「地域連携分析」(「」の基本機能の一つ)などを活用し、早くも月間新規患者数目標を達成、月間手術件数で過去最高を更新するなど、成果を出しつつあります。また、「売り上げの伸び以上のコスト増」という問題に対しても、医療材料の購入価格をベンチマーク分析できる「材料ベンチ」(「」のオプション機能)を用いることで、導入半年で、約500万円のコスト削減を実現しています。

 今回は「地域連携分析」を活用されている同院経営企画室の望月卓馬室長、「材料ベンチ」をご利用されている同院資材課の弘島隆史課長にお話を伺いました(聞き手はGHCコンサルタントの水野孝一)。

左から経営企画室の望月卓馬室長、資材課の弘島隆史課長、経営企画室の黒田ゆみ氏、GHC水野


院長が直接訪問、導入3か月で成果

――本日はよろしくお願いします。2019年の5月から「」を導入いただきましたが、どのような経営課題を背景とした判断だったのでしょうか。

望月氏:高度急性期の病院はどこも同じ課題を抱えているかと思いますが、在院日数の短縮に伴って、入院患者数が減り、病床稼働率が低下しています。

 そのため、いかに多くの新規患者を獲得できるかが非常に重要であり、今年度の最も大きな経営課題であると認識しています。

望月氏

 ただ、既存の経営分析システムでは、新規患者を獲得するための分析に時間も手間もかかりました。分析は、それ自体が目的ではなく、ゴールは多くの新規患者を獲得することです。そのため、分析時間を効率化して短縮し、分析から導き出した戦略・戦術の実行により多くの時間を充てられるような体制を構築したいと考えていました。その検討の中で、最も当院の抱える課題解決に適していると判断したのが、「」の「地域連携分析」だったわけです。

 「」なら、システムにログインするだけで簡単に欲しい情報にアクセスし、合理的な意思決定をするためのデータを短時間で収集することができます。

地域連携分析」の機能については、紹介患者のデータをGHCに提出するだけで、DPCデータと紐付け、紹介患者がどれだけ入院・手術に至ったかを簡単に知ることができます。しかも、紹介患者が入院や手術に移行した実績データは、診療科ごとに、それぞれ紹介元のクリニックなどの医療機関ごとに把握できます。

今までもこうしたデータを院内で作成することはできたのですが、データ作成に時間がかかり、その時間をできるだけ実行に割り当てたいと考えていました。「地域連携分析」を導入したことで、入院・手術へ移行する患者データをベースに、どのクリニックとの医療連携を優先すべきかを、合理的な判断の上で企画し、効率的な外回りをすることが、今まで以上にスピーディーに展開できるようになりました。

――「」を選んでいただけて、大変光栄です。新規患者獲得に向けた地域連携の取り組みでは、具体的にどのように活用されたのでしょうか。

望月氏:2019年4月以降、当院の岡院長が、月20件のペースで周囲の開業医を訪問しています。院長が直接訪問するようになってから約3か月の7月以降、すでに成果も出始めています。期初に定めた昨年実績を上回る紹介初診患者数(初診料算定患者数)の月間目標は、7月から達成し続けています。また、同7月に過去最高の手術件数を更新しています。


3部署連携で明確な戦略、目標を共有

――わずか3か月で成果を出されたのは驚きです。院長自ら訪問されていることにも驚きましたが、どのような経緯で院長が直接訪問されるということになったのでしょうか。

望月氏:新規患者の獲得を今期の最大の経営課題として掲げている以上、「時間を確保できれば、可能な限り自ら責任を持って訪問する」と院長から提案がありました。

――訪問先は院長が選ばれているのですか。

望月氏:訪問先については、現場サイドで決定しています。

 当院の地域連携については、▼経営企画室▼地域医療連絡室▼学術広報室――の3つの部署が連携して推進しています。経営企画室が入院や手術へいかにつなげるかという入院医療の経営改善の視点で考え、地域医療連絡室が紹介患者の外来枠を管理しているので、いかに紹介患者を増やすかを担当し、学術広報室がパンフレットなどの広報ツールの作成やウェブマーケティングを実施する、という役割分担です。

 この役割分担を踏まえて、月1回以上は地域連携の戦略を練る3部署合同のミーティングを行っています。ここで決定した内容を訪問にも活かしています。

――この訪問先を決定する際のツールの一つとして、「」をご活用されているのですね。

望月氏:そうです。例えば、当院の強みの一つである消化器内科であれば、経営企画室は入院や手術につながっている医療機関への訪問をまず先に考えます。一方、地域医療連絡室は、消化器内科であれば外来枠を一定数満たさないと入院につながらない診療科なので、その視点なども踏まえて訪問先を決定していきます。訪問当日には「」で出したデータと、学術広報室が作成したパンフレットを持参して院長に同行しますし、院長には訪問先の選定理由や現状のデータなどの情報も伝えています。

――これを踏まえて、学術広報室はどのような動きをするのでしょうか。

望月氏:学術広報室は、選定した訪問先へ持参すべき最適な広報ツールを検討します。当院の強みの一つである小児科では、小児神経科、小児外科、てんかん科などの診療科情報をまとめた「小児科セット」という広報ツールを用意しました。これがご訪問先の先生方に、当院の強みを知っていただくためにより効果的であると思い、先ほどの消化器内科の訪問にも応用し、今後は「内科セット」を作ろうという動きにもなっています。


いつでも自由にアクセス、正確に経年比較できる

――3部署いずれも非常にレベルの高い取り組みを実践されていますね。「」をご活用された成果としてはどのようにお考えでしょうか。

望月氏:4月以降の訪問の成果が徐々に数字に表われているので、「」は一連の取り組みを支えるツールの一つとして機能していると言えます。具体的にどのように機能しているかという点では、必要なデータへいつでも自由にアクセスできるようになったことが最も大きいです。

 これまで、地域連携の戦略を練るためのデータは、地域医療連絡室のスタッフへお願いして出してもらう必要がありました。地域医療連絡室は外回りも多いので、すぐに必要なデータへアクセスできないことも少なくなかったですし、何より他部署へ自分たちが欲しいデータ出力をお願いすることへの心理的な壁もありました。それが今では自分たちの好きなタイミングでデータを見られるようになったので、データ分析から戦略立案までの流れが非常にスムーズになったと実感しています。

――お役に立てているようで良かったです!「地域連携分析」を活用した今後の課題などあれば教えていただけますか。

望月氏:地域連携分析」の機能としては、現状でも十分に使いこなせていると感じています。今後については、過去のデータと比較しながら、しっかりと成果を見ていくフェーズで使っていく予定です

 実はこれまで、この「成果」を見るのも一苦労でした。なぜなら、データの経年変化を確認することが難しい環境にあったためです。例えば、データ出力を依頼するスタッフによってデータの出力形式が違ったり、同じスタッフであっても、1年前と違う出力形式でデータが出てきたりすることもありました。

 それが「地域連携分析」を導入したことで、今後は同じ形式でデータを比較することが容易になったので、しっかりと成果を検証し、PDCAのサイクルを今まで以上に早く回し、改善のスピードを上げていければと思っています。


年間で500万円のコスト削減、即座に投資回収

――ありがとうございます。続いて、同じくご活用いただいている「材料ベンチ」の状況についても教えて下さい。すでに明確な収益貢献も出ていると聞いています。

弘島氏:まず、導入の背景からご説明しますと、医療の高度化に伴い、特に手術で使う医療材料のコストが上がっています。収益も上がっているのですが、それ以上にコストも上がっているので、材料コストの削減も大きな経営課題の一つになっています。

弘島氏

 これまで、メーカーから聖隷福祉事業団グループならではの特価を匂わせるような「聖隷価格」などのキーワードを頻繁に耳にし、「聖隷浜松病院は医療材料を安く購入できている」と信じ込んでいるところもありました。ただ、「聖隷価格」には何の根拠もありません。聖隷福祉事業団グループ間では、医療材料の購入価格の情報共有も行っていないので、なおさらです。そのため、「本当に安く購入できているのか?」という疑問が、今回の「材料ベンチ」を導入した出発点となっています。

――「材料ベンチ」を導入してみて、いかがでしたか。

弘島氏:医療材料の種類や製品によってばらつきはあるのですが、中には想像していた以上に高く購入しているものもあり、正直、驚きました。やはり、こうしたデータがあると、「本当に安く購入できているのか?」という疑問はすぐに解決できますし、価格交渉をする際の明確な根拠になり、説得力もあります

 現在、購入量や額が大きい医療材料を最初のターゲットにし、順次、適正な購入へ向けて改善活動を行っています。

 ここ最近では、診療材料Aの購入を見直しました。これまで、あるメーカーの商品を9割くらい使っていたのですが、「材料ベンチ」で調べたところ、かなり高値で買っていることが判明したんです。当院の診療材料Aの購入量は全国トップクラスなので、すぐにメーカーと価格交渉し、当院と同じ規模の購入量がある病院と同レベルの購入額になりました。年間で400~500万円のコスト削減なので、これだけで今年度の「」の購入コストはペイしたことになります(笑)。


重要なことはステークホルダーとの関係のバランス

――素晴らしいですね!一製品だけでこれだけの金額であれば、今後は相当なコスト削減が見込めそうです。

弘島氏:ただ、メーカーとの価格交渉を行っていく上で難しいのは、気になる価格の製品すべてが価格交渉の対象にはなりえないということです。例えば、最安値で購入している病院は、メーカーと共同研究をしているなど、何かしらの理由があることも多々あります。ですから、まずは明らかに高い製品に関しては、せめて平均はクリアしようという動きをしています。

 一方で、平均よりかなり安く購入できている製品も存在します。こちらが高く購入している製品もあれば、メーカーがかなり頑張っている製品があることも事実です。ですから、当院とメーカーの関係を継続的に維持できるような、全体としてのバランスをどう保つかという視点が、非常に重要なのです。


現場のモチベーション向上にも寄与

――なるほど、単にコスト削減という視点だけでは、資材課の役割を果たせないのですね。

弘島氏:そうです。また、「材料ベンチ」の価値は、医療材料の購入価格が分かるようになったことでのコスト削減だけではないと思っています。それは、資材担当としてのモチベーションの向上にもつながるということです。

 これまで、価格交渉の成果を正確に知る術はありませんでした。購入価格のベンチマークができず、ブラックボックスに包まれていたからです。それが「材料ベンチ」を使うことで、自らの価格交渉によって本当に安く購入できているかどうかを確認できるようになりました。もし最安値を達成していれば、それは資材担当として大きな励みになります。実際、私が価格交渉を担当した製品が最安値を実現しているのを発見したときは、大きなやりがいを感じることができました。このことは、現場の資材課のスタッフたちにとって、コスト削減と同じくらいの大きな価値になっていると感じています。


中長期的な目標達成するために必要な短期的な成果

――コスト削減ばかりに着目してしまいますが、そうした視点も重要であることには気づきませんでした。

望月氏:経営企画室から見たメリットについても補足させてください。

 地域連携の推進という視点に立つと、明確な成果を出すまでに早ければ半年、1、2年かかることもあります。その一方で、経営層としては、短期的な成果が出せないものを「継続」と判断することは難しい。そういう状況の中で、「材料ベンチ」が導入5か月で数字を出してくれたので、経営層からのお墨付きももらえました。つまり、中長期的な経営課題を解決するという視点においても、「材料ベンチ」は大きな役割を果たしてくれたと思っています。

 「材料ベンチ」が突破口を開いてくれたので、引き続き地域連携や手術室の改善などでも「」を活用し続け、トータルで見てペイしていることはもちろん、購入費用の何倍もの価値を生み出していきたいと思っています。

――経営課題のバトンをつないでいくイメージですね。

弘島氏:そうでうね。そのサイクルを回すためにも、全体としてのバランスと継続が重要なのです。


聖隷福祉事業団での共同購入活用も視野に

――「材料ベンチ」のさらなる活用や今後の展望などがあれば教えて下さい。

弘島氏:手術の材料など命に直結するものはできるだけ現場の意見を反映させたいですが、ガーゼなど必ずしも命に直結するわけではないものに関しては、聖隷福祉事業団で共同購入するような展開も考えていきたいです。

 


――本日はありがとうございました!引き続き「」をご活用ください。


水野 孝一(みずの・こういち)

コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。