事例紹介

2024年12月13日

【病院事例】分析システム活用などデータ軸の経営改善で今上半期2000万円増収|聖隷三方原病院

病院名 聖隷三方原病院 設立母体 民間病院
エリア 東海地方 病床数 940
病院名 聖隷三方原病院
設立母体 民間病院
エリア 東海地方
病床数 940
コンサルティング期間 2015年11月~

 社会福祉法人聖隷福祉事業団の高度急性期病院の一つである聖隷三方原病院(浜松市中央区、940床)が、データを軸にした経営改善を推進しています。山本貴道病院長就任から約1年。当社の経営分析システム「(カイ)」などを用いた院内の可視化に基づく高度急性期の病床管理や各種加算・指導料等の最適化などにより、今上期で少なくとも約2000万円の増収を実現しました。山本病院長の新体制で経営戦略を担う総合企画室の室長兼事務次長の冨元有史氏と、同じく総合企画室をシステム面で支える村田崇匡氏に、データを軸にした経営改善をどのように進めてきたのかを伺いました。

冨元氏(中央)と村田氏(右)。左は当社水野

「すべてのスタートは可視化が柱」

 データを軸にした経営改善を始めた最初のきっかけは、山本病院長が就任した2023年7月。山本病院長は、聖隷浜松病院で経営改善を担当する副院長として活躍していたこともあり、BSC(バランス・スコアカード)を軸にした経営管理手法の採用など、病院長就任から早々に各種経営改善策を打ち出しました。その土台作りとして欠かせなかったのが、データを活用した院内状況の可視化です。

 冨元次長によると、これまで聖隷三方原病院は組織内での協力・連携・協働については強みがある一方、その活動内容の可視化が十分ではなく、目標設定や活動の振り返りがしづらい状況でした。

 冨元次長は山本病院長とともに聖隷浜松病院で経営改善を担当していたこともあり、院内のどこをどう伸ばせるかを検討する上で欠かせないDPCデータ等を用いた現状の可視化を重視しました。「すべてのスタートは見えにくくなっているものを可視化することが柱」(冨元次長)と考え、それを実現するためのツールの一つとして当社サービス「病院ダッシュボードχ」をご検討いただき、2024年4月の導入に至りました。

「同じ目標に向かって取り組む事務と現場」の土台となったBSC

 改善活動を主に推進するのは、冨元次長が管轄する経営戦略の企画・実行などを担う「総合企画室」。冨元次長は聖隷浜松病院から法人本部を経て2023年10月に聖隷三方原病院の総合企画室に赴任。その1か月前の同年9月にシステム面で総合企画室を支える村田氏が参画。翌年2024年4月には他施設で地域連携や広報に豊富な経験をもつ係長の鈴木知美氏と広報担当2人の計5人の現メンバーがそろいました。

 総合企画室は医事課や各診療科、各部門との連携も積極的です。総合企画室がダッシュボードによって院内の状況を俯瞰し、病院長と優先順位を決めてさまざまな改善活動を推進していきます。診療報酬に関する改善については「医事企画」の視点から医事課として改善活動を展開することもあれば、総合企画室と連携して動くこともあります。

 他部門連携をBSCが大きな後押ししている側面もあります。例えば、リハビリテーション部門や薬剤部門などは、経営にかかわる目標を自律的に設定し、その目標を達成するためにはどう進めていくか、随時、総合企画室と連携しながら経営改善を展開しています。これについて冨元次長は次のように説明します。

 「BSCを取り入れてから、各部門がより主体的に動いていただくようになりました。我々は目標設定に生かせそうなデータこそ提供するものの、具体的な目標設定は各部門で行っていただきます。自分たちで決定した目標に向けた進捗をデータで見える化したことで、多くの部門での経営への参画意識も上がり、達成感やモチベーション向上にもつながっています。

 例えば、『今月はかなり頑張ったので良い経営数字になっているのではないか』『こんなに頑張ったのにあまり数字に表れていないのはなぜか』などと問い合わせていただける先生も増えてきました。その都度、状況や理由を説明するやり取りを通じて、事務も現場も一緒にそれぞれの経営改善の勘所が分かってきて、一緒に成長し、同じ目標に向けて取組みを推進していけるようになります」

俯瞰での課題発見から深掘りまでできる「病院ダッシュボードχ」

 データ活用による経営の見える化は、イントラネットを用いた経営の重要指標の共有から始めました。まずは最重要指標となる病床稼働の状況や病棟別の稼働目標とその進捗など。そのほかにも新規患者数、紹介患者数、市民公開講座の参加者数、ホームページ閲覧数、救命救急室や手術室の利用状況、医療スタッフの確保数などが毎日、共有されています。

 「」を用いた分析結果は、主に幹部会や診療部長会などの主要な会議で共有されています。「」は、加算・指導料等の算定状況などを青(上位25%タイル)、黄(中位)、赤(下位25%タイル)のシグナルで全国の病院と比較した自病院の立ち位置を確認することなどができます。その情報を各診療科や各部門に情報として提示し、何をどれだけ伸ばせるのかを検討してもらいます。

「病院ダッシュボードχ」TOP画面(画面はダミーデータ)

 具体的には、「チーム医療plus」の機能を用いて診療科別に算定状況をベンチマーク分析し、シグナルで改善の余地がある加算・指導料等を確認します。その上で、課題がありそうな加算・指導料等については、どの病棟のどの疾患が原因なのかを、細かく症例別に分析できる「症例スコープ」などを用いて特定していきます。各診療科や部門はこうした情報をBSCの作成や進捗確認に利用していきます。改善余地が大きな課題については、総合企画室から改善提案していくこともあります。

「病院ダッシュボードχ」のオプション機能「チーム医療plus」のTOP画面(画面はダミーデータ)

経営人材の育成ツール、独自システム構築のヒントにも

 「」で得た知見を、院内オリジナルのシステムやツール開発にも活用しています。

 村田氏は前職ではシステム系のサービス企画などを担当していたこともあり、病院の経営企画はいずれ挑戦してみたいと考えていました。ただ、一般企業と比べて病院の経営は特殊であることもあり、どこからどのように手を付ければいいか迷うこともありました。「病院経営の基本や医療現場が何を知りたがっているのか、当初はその勘所が分からなかったのですが、『』を使うことでその勘所を把握できるようになりました」(村田氏)。

 「」は重要な経営指標が何であり、それを改善するにはどうすればいいのか、改善したときの増収効果はどれくらいかなどを図表やグラフを使って直感的に分かる設計になっており、一つひとつの指標の定義などもマニュアルで細かく解説されています。つまり経営人材の育成ツールとしての役割も持っているのです。経営改善の基本や経営トレンドなどをコンパクトにまとめてほぼ毎月解説するGHCミニウェビナーもご活用いただいています。

 さらに村田氏は「」で学んだ知見を生かした独自システムを院内に構築。電子カルテと連動した専用端末を確認すると、診療科別にDPC入院期間の状況がリアルタイムで確認できるようになりました(図表)。DPC入院期間IIを超えそうな症例の退院を促すような活用につなげています。また、同じく診療科別に手術枠の稼働実績を把握できるシステムも開発(図表)。どの診療科のどの手術枠に改善の余地があるのか把握できるようになりました。「情報システムの知識とデータ分析に長けたデータサイエンティストが部内にいると、経営改善のスピードが格段に上がります」(冨元氏)。

図表:独自開発した診療科別にDPC入院期間の状況が確認できるシステムのイメージ(提供:聖隷三方原病院)

図表:手術枠稼働の最適化に向けた院内資料。右の表が独自開発した診療科別に手術枠稼働の実績が確認できるシステムのイメージ(提供:聖隷三方原病院)

年間4000万円の増収も

 データの見える化を軸とした経営改善を推進した結果、「」を導入してからの4~10月の7か月で、救命救急室や集中治療室など病床稼働、一部の加算・指導料の最適化だけで2000万円強の増収効果がありました。年間では4000万円程度の増収を見込んでいます。


 今後は院内に向けてDPC制度のさらなる理解を促す情報発信や、クリニカルパスの改善につながる情報提供など、さらに踏み込んだ改善活動に着手していく予定です。


水野 孝一(みずの・こういち)

コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。