2022年09月30日
病院名 | 下関市立市民病院 | 設立母体 | 公立病院 |
---|---|---|---|
エリア | 中国地方 | 病床数 | 382 |
病院名 | 下関市立市民病院 |
---|---|
設立母体 | 公立病院 |
エリア | 中国地方 |
病床数 | 382 |
コンサルティング期間 |
地方独立行政法人下関市立市民病院(382床)では、業務改善を支援する各種ツールやパソコンの単純作業を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の開発を内製化しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の立役者の、経営企画グループ 医療情報班の源順一さんは、2016年に民間病院から入職して、これまでに業務改善支援ツールを約180本、RPAを17体開発し、DPCの副傷病の登録漏れなどで成果を上げてきました。
同院の源さんに内製システム開発のポイントや経営改善活動の体制、ご自身の役割などについてお聞きしました(聞き手は当社コンサルタントの西田俊彦)。
当院で地域包括ケア病棟が稼働する直前の2016年9月に、「病院ダッシュボード」の「看護必要度分析」のみを導入しました。急性期の治療が一段落した患者を一般病棟から転棟させる適切なタイミングを判断するためですが、そうした判断支援ツールはその後、院内で独自に開発したので、外部の分析ツールを使うならそれよりもランクアップしたいと感じていました。
わたしが入職したころは、病床稼働率が60~70%程度に低迷していました。常に100%近くを維持していた前職の民間病院からは考えられないことですが、当時は「それが普通」というような雰囲気で、地域の中で当院がどの程度の位置にいるのか、まずは自覚する必要があると痛感していました。
そこで半年後の2017年4月、「病院ダッシュボード」の契約形態を「ベースパッケージ」(サービス詳細はこちら)に切り替えました。「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)だけでなく、病床稼働率や平均在院日数などの推移を俯瞰し、地域での立ち位置を見極められるからです。
「看護必要度分析」から「ベースパッケージ」に契約を切り替えてもコストはそれほど変わりませんし、いろいろな視点から分析できる方がベターだろうという判断です。
-地域包括ケア病棟への転棟のタイミングを検討するために経営分析ツールの導入をお考えになったのですか。
そうです。一般病棟で病状が落ち着いたら優先して地域包括ケア病棟に転棟していただくのが当院の方針だったので、幾つかの経営分析ツールを比較しました。
決め手になったのは、「病院ダッシュボード」のベンチマークに参加する病院の多さです。母数が大きいだけに納得感と信頼感がありましたし、2017年に全面リニューアルした「(カイ)」の多角的な分析の視点には、リニューアル前から魅力を感じていました。最終的に当時の経営企画グループ長の強い後押しで導入が決まったのです。
-病床稼働率は上昇しましたか。
実は、まだそれほど改善していません。
新型コロナウイルスの感染拡大で受診抑制が起きたほか、当院がある下関医療圏の環境によるところが大きいでしょう。山口県西部にある当医療圏では、人口25.2万人(2022年7月末時点)の中に、300~400床規模の公的な総合病院が4つ競合しています(図1)。直線距離1キロほどの範囲に同じような機能の病院が隣接している感じで、シェアの奪い合いが起きているのではと考えられます。地域医療構想を実現させるため、助言や集中的な支援を行う「重点支援区域」に国が指定し、4病院の機能分化・再編を促しているほどです。
そうした中で、病床稼働率の改善は生き残りに不可欠でしょう。ただ、これが急激に高まると病棟業務が一気に忙しくなってしまうので、業務の負担感を抑えながらいかに改善できるかがポイントだと感じています。
-病院の経営改善はどのような体制で進めていますか
病院の総合的な戦略は「総合戦略室」という部署で企画・立案しています。わたしも以前は当部署を兼任していました。現在はメンバーからは外れて参画できておりませんが、「病院機能向上委員会」に所属し、診療報酬や施設基準の届け出を検討したり、院内の臨床指標を管理したりしています。
最近では、幾つかピックアップした指導料ごとに編成した職種横断のチームで算定漏れ対策を検討・検証し、半期ごとに発表しています。これまでにわたしは「薬剤管理指導料」、「リハビリテーション総合計画評価料」、「認知症ケア加算」のチームに所属し、メンバーが実際に全国の各種学会で成果を発表しました。「」の多角的な分析にその時も助けられました。
-他にはどのような委員会に所属しているのでしょうか。
「DPC・コーディング委員会」では、診療科別・月別に診療稼働額(DPC・出来高別)および入院期間Ⅱ超え率を2カ月ごとに報告していて、その際の資料も「」で作成しています。ただ、データ分析に特化して推進する組織が院内にあるわけではなく、それぞれの部署の担当者が必要に応じて、内製ツールではできない分析を「」で行っているのが現状です。
例えば、集患担当は「」の「マーケット分析」と「地域連携分析」の機能を使って、渉外ルートの最適化を検討しているようです。ほかには「クリニカルパス推進委員会」の担当者が「パス分析」の機能で、入院期間の短縮や薬剤の見直しを検討しています。診療情報管理室では「係数分析」の機能で、機能評価係数IIの状況を把握したり、係数の変更をシミュレーションしたりしています。
わたし自身は医療情報班に所属する院内SE(システムエンジニア)で、各種ツールやRPAの内製化による業務改善などが本業です。実際にやっていることはずいぶんかけ離れている気がしますが、やりがいがあります。
-源さんがいろいろなことに関わるようになったのはなぜですか。
もともとは、現場から依頼を受けてツールを開発したり、分析のベースとなる数字を提供したりしていました。しかし、分からないなりに自分自身でも分析してみたいという気持ちが膨らみ、2018年に産業医科大学(北九州市)の「医療データ分析コース(インテンシブコース)」に参加してみました。
全くの門外漢にはやはりハードルが高く、各種講義やグループワークでは他院から参加されたメンバーに付いていくのがやっとで非常に大変でしたが、ケーススタディレポートで優秀賞を取ることができました。それをきっかけに、長崎で行われているデータ分析の勉強会「長崎医療介護人材開発講座」に講師として参加することになりました。この講座には現在も参加しつつ、地域での立ち位置とは何かについて学んでいます(それを自院で実践できる環境があまりないのが個人的な課題ではありますが、このようなスキルを磨いておくことが、後々に強みとして自分を助けてくれるかもしれませんので…)。
-これまでに各種ツールを約180本開発したほか、RPAは17体が稼働しているとお聞きしました。
これまでに開発したツールの一つが、副傷病の登録漏れを防ぐシステムの内製化です。
DPCコードの13桁目が「1」か「2」の「副傷病分岐あり」の症例割合を「」で分析すると、このツールを導入する前の2019年4月~2020年4月は月平均17.4%でしたが、導入後の2020年5月~2022年5月には23.6%に上昇していました(図表)。導入前の割合が低いのは、副傷病の登録漏れが多かったことを示唆する結果です。
例えば「胆管(肝内外)結石、胆管炎 肝切除術 部分切除等 手術・処置等2」(胆管結石)のDPCで「胸水」の副傷病がある場合、入院期間II(平均在院日数)は通常の8日から16日に延びます。それによって入院期間Ⅱ終了日までの総点数は2万552点から4万2,024点と大幅に増えるので、副傷病の登録漏れをなくすことは病院経営を大きく左右します。
医師からの依頼を受けてツールをつくったものの、その導入効果がどれくらいあるのか、いま一つ分かりませんでしたが、「」でそれを可視化することができました。
-医療の可視化はわれわれの得意分野なので、アグレッシブな取り組みのお役に立てて幸いです。各種ツールやRPAの開発を内製化しようとお考えになったのはなぜでしょうか。
院内にはさまざまな情報システムが稼働していますが、現場のニーズに完璧に応えられるシステムは存在しません。ニーズとのそうしたギャップは、業者による有償対応である程度は埋められますが、それが果たして最適解なのかは分かりません。そう考えると院内SEがコストを抑えつつ業務改善を実現させるには、ツールの内製化が必須だと思います。
当院に入職した2016年から各種ツールの開発に着手したのはそのためで、最大限のリソースを用いて業務改善に寄与することが自分のミッションだと考えています。
-源さんは普段どのような業務を担当されていますか。
まず、各種ツールやRPAの設計・開発など、現場で随時発生する要望に応えることがメインの業務なので、依頼には極力対応するように心掛けています。
1日の業務では、大半が深夜に稼働するRPAにシステムエラーが起きていないか、出勤するとまず確認します。RPAは単純な作業を繰り返すのは得意ですが、パソコンの環境のちょっとした変更にも弱く、すぐ止まります。そのため、操作ログやエラー情報を自宅のパソコンへ定期的に自動転送するなど、休日にも遠隔でチェックできるようにしています。
データ抽出も大切な作業です。膨大なデータが蓄積される電子カルテなどの「データウェアハウス」や院内のデータベースから、必要なデータを直接抽出しています。また、DPCデータ提出関連の業務も行っています。
ただ、データばかりを扱っていると技術一辺倒の職員になってしまいそうなので、「Gem Med」や「Leap Journal」などで医療業界のトレンドをチェックするように心掛けています。最後に、院内SEである以上、現場からのシステムに対するヘルプデスクは避けては通れない業務です。
-源さんがやりがいを感じるのはどのような時ですか。
医療情報班の他の職員は、プリンタなどのハードウェアを担当するCE(カスタマーエンジニア)業務が主で、院内SEとして各種ツールやRPAの内製を行っているのが自分だけ(ある意味「ひとり情シス」的状態)なので、責任感とプレッシャーを常に感じていますが、開発したツールが現場の業務改善に効果をもたらせたと実感できた時には、それ以上に大きなやりがいと達成感があります。
「データは21世紀の石油」だとよくいわれます。これからも、「データ」という石油を、「スキル」でガソリンに加工し、「業務改善」という車を継続的に運転していきたいと思います。
-本日はありがとうございました。
西田 俊彦(にしだ・としひこ) | |
コンサルティング部門コンサルタント。医師、小児科専門医、公衆衛生学修士、経営科学修士。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。神奈川県立こども医療センター等を経てGHC入社。臨床・研究活動の経験を生かし、現場視点でのカイゼン提案を得意とする(詳細はこちら)。 |
Copyright 2022 GLOBAL HEALTH CONSULTING All rights reserved.