事例紹介

2022年03月29日

8つの指標で課題を「見える化」 医療の質の向上への取り組みにより3カ月間で390万円の増収確保 藤枝市立総合病院

病院名 藤枝市立総合病院 設立母体 公立病院
エリア 東海地方 病床数 564
病院名 藤枝市立総合病院
設立母体 公立病院
エリア 東海地方
病床数 564
コンサルティング期間

人口減少が進む20年後の生き残り策を模索するため、藤枝市立総合病院(静岡県藤枝市、564床)では「経営分析室」を立ち上げようと準備を進めています。

同病院では、GHCの「(カイ)」を2021年に導入すると、診療報酬の算定率向上や集患対策の具体化に早速成果を上げています。短期間で成果を生み出すポイントはどこにあるのでしょうか。

経営分析に第一線で挑戦する皆さんにお聞きしました(聞き手はコンサルタントの水野孝一)。


左から十鳥係長、下田事務部長、田中室長、望月様
左から十鳥係長、下田事務部長、田中室長、望月様

1.「地域の受診動向」身近なデータが手に入る

――「」を導入したきっかけをお聞かせください。

下田事務部長 わたしが着任した2年前、経営戦略会議に出てくるのは患者数など診療科別の経年データがメーンでしたが、われわれが入手したかったのはもっと身近な、この地域の患者さんの受診動向に関するデータでした。

静岡県中部のここ「志太榛原医療圏」では大きな人口減少がまだ起きていないのに、当院の新規入院は減っているからです。もともと受診してくださっていた患者さんがほかに流れているのでしょう。それを防ぐには、患者さんの受診動向を把握して原因を突き止め、改善策を考えなくてはなりません。

」では、どのエリアのどの先生からの紹介率がどう動いているか詳しく分析できます。それが最大の魅力でした。

2つ目は、DPC(診断群分類)ごとの課題を指摘して、コンサルタントが改善策をアドバイスしてくれることです。

十鳥係長 」を知ったのは、長野県松本市の相澤病院で2020年に研修生として勉強をさせていただいた際、見せてもらったのがきっかけです。

当院では他社のDPC分析ソフトを導入済みだったので「」にはそれにはできないことを求めました。特に、紹介患者さんの割合を紹介元や診療科別などで「見える化」する「地域連携分析」の機能を集患に生かせるだろうと考えました。

新規入院のうち、わたしが注目したのは初めて入院される予定入院の患者さんが増えているのか、減っているのかでした。本当の新規が増えないと先細りが避けられないからです。病床がリピーターで埋まっているのではないかと何となく感じていたので改めて分析すると、実は新型コロナウイルスの感染が広がる前の19年度から減少していたことが分かりました。

2.短期に退院時リハビリテーション指導料が大幅向上

――診療報酬の算定強化対策も進めているそうですが、きっかけは何ですか。

十鳥係長 GHCの水野孝一さん(コンサルタント)と海老原淳さん(セールスマネジャー)が課題を箇条書きにしてくれたのがきっかけです。

――どのような課題を指摘されたのでしょうか。

診療報酬の算定と集患対策に関するものです。診療報酬では、21年4月~6月の算定実績から、▽認知症ケア加算▽肺血栓塞栓症予防管理料▽薬剤管理指導料▽退院時リハビリテーション指導料▽特別食加算-の算定率について指摘をいただきました。

そのうち退院時リハビリテーション指導料を「」で分析すると算定率は41.7%、400床以上の204病院のうち153番目という成績でした=図1=。

退院時リハビリテーション指導料

そこで、リハビリテーションの種別ごとに算定率を出してどこに課題があるのかを現場のセラピストと確認しました。また、診療報酬の算定要件である「在宅」の範囲を再度確認したことも大きかったです。セラピストの多くは、在宅=自宅退院と理解していたため、ここを修正しました。さらに、現場のセラピストが退院予定者を電子カルテから抽出し、科内に掲示し意識を高めてくれたことも改善につながったと思います。

――経営改善の効果はどれだけありましたか。

年間ベースに換算すると、退院時リハビリテーション指導料だけで100万円程度の増収を確保できました。リストアップされた5つのうち認知症ケア加算を除く4項目では、21年4-6月だけで約390万円の増収です==。

改善効果(収入)年間ベースで約390万円の改善

3.「」は母集団がハイレベル

――導入してすぐ成果を出せたポイントは何ですか。

十鳥係長 経営戦略会議が2009年に立ち上がり、経営改善に取り組む必要があるという危機感が病院全体の下地としてありました。GHCがそこへ課題を示してくれたのが一つです。

下田事務部長 とはいえ、図表をただ見せるだけでは何も伝わりません。それを使って病院の現状を担当者が如何に上手く伝えるかが成功のポイントでしょう。

十鳥係長 私が心掛けたのは、お金の話を現場にはしないことです。患者さんを診ている現場のスタッフに診療報酬の話をすると負担に感じてしまうからです。今回も、どれだけ増収できたか金額のことは一切話していません。

その代わりに医療の質の改善に取り組むことの大切さを強調しました。これは相澤病院で学んだことです。例えば退院時リハビリテーション指導料の算定率が上がったのは、患者さんが退院後にご自宅等でもリハビリに取り組めるように指導することの大切さをセラピストに訴えた結果です。

――「」を使った感想はいかがですか。

下田事務部長 ユーザー特典として年2回発行される「経営分析レポート」の視覚的な分かりやすさに驚きました。「病床機能適正化」など8つのKPI(成果指標)をA~Eにランキングする「経営成績表」(詳細はこちら)で現状を把握して、成績のエビデンスも確認できる。病院の現状を知ってショックを受けたドクターもいたでしょうが、実態を直視するのに役立ちます。

十鳥係長 診療報酬の算定率をベンチマーキングする際、他社のソフトに比べクリックの回数が少ないのが助かります。また、「」ではベンチマーキングの母集団が他よりハイレベルだと感じています。

4.「スコア分析」機能で逆紹介先の候補をリスト化

――集患対策は進んでいますか。

十鳥係長 アクションとしてはまだ少ないのですが、大きく2つあります。まず、患者さんをどれだけ獲得できているか、バブルの大きさで示す「スコア分析」の機能を使ってエリアごとの増減を集計し、院内広報で各部署に伝えています。さらに、どの先生から紹介していただいた入院患者さんが増えているか、減っているかも集計して、エリアのデータと組み合わせて地域医療連携室に提供しています。

先日は、着任して間もないドクターが患者さんを地域の開業医の先生から紹介してもらうため、地域の開業医の先生方をリストにしてほしいと地域医療連携室から相談されたので、「」のデータを基にピックアップして同伴で回ってもらいました。こうした動きも少しずつ広げていきたいと思います。

下田事務部長 新規入院の減少は原因がある程度分かっています。一つは、待ち時間の長さ。一方、紹介率が低下しているのは、紹介患者さんへの対応の遅さや返書の内容への、地域の開業医の先生方のご不満があるのでしょう。われわれはそれらの課題をデータで「見える化」して改善を進めています。成果をセールストークに使えるようになれば、新規入院の増加や紹介率の向上を期待できるでしょう。

藤枝市立総合病院の外観
藤枝市立総合病院の外観

――そもそも皆さんが経営分析に取り組むことになったきっかけは何だったのでしょうか。

田中室長 「これからの病院経営には経営分析が重要だ」と、2020年にトップダウンで動き出しました。病院が生き残るには、地域の医療や自分たちの状況をビッグデータから客観的に把握することが不可欠なので、経営分析室を立ち上げることになりました。

現在は、わたしが担当する「医療情報分析室」が事務部長の下にあり、そのライン上に「経営分析室準備係」があります。準備係は係長の十鳥と係員の望月の2人体制で、経営分析の大切さを現場に理解してもらうため実績を積み重ねている段階です。医療の再編が進む20年後の生き残りを見据え、将来の病院像を模索しようと思います。

5.「」で課題を見つけ出す

――望月さんは、院内の業務を効率化できるシステムを開発されたとお聞きしています。どのような仕組みですか。

望月様 例えば褥瘡ハイリスクケアの処置が必要な患者さんを検索するためのシステムです。従来は電子カルテのデータから看護師がピックアップしていました。そこで、普段どのような条件でピックアップしているのかを確認し、「麻薬の注射を持続点滴で実施」「褥瘡ハイリスクケア管理加算を未算定」などに該当する患者さんを検索できるようにしました。

電子カルテの注射オーダーのデータと褥瘡ハイリスクケア管理システムのデータを組み合わせ、特定の時間に自動でエクセルデータにまとめる仕組みです。看護部では、そのデータから患者さんをピックアップしています。

――経営改善を進める上で課題は何だとお感じですか。

十鳥係長 国が3年ごとに行う「患者調査」のデータと「」のデータをどうリンクさせるか、考えています。ナショナルデータベース(NDB)のオープンデータをそこに取り込む手もあるでしょう。実現すれば、もっと戦略的に対策を打てるはずで、SEとしての実務経験がある望月と相談して検討しています。

――望月さんは、これから経営分析を進める上でどのような課題があるとお感じですか。

望月様 院内のデータを活用してどんなことができるか、一部の部署としかまだ意識を共有できていませんし、現在は「」のデータから課題を見つけ出し、それを解消するためのプログラムをつくる形が中心です。そのラインに限らず、現場からもっと声を掛けてもらえるように活動の場を広げたいと考えています。

――最後に、GHCへのご要望はございますか。

十鳥係長 機能評価係数IIのうち保険診療係数は、診断群分類ごとの患者数など「DPCデータによる病院指標」の公表が要件ですが、あのレベルの情報を見て病院を選ぶ患者さんや地域住民がどれだけいるのか。GHCが蓄積してきた豊富なデータを使って、医療従事者と患者さん双方の目線で情報提供できたら素晴らしいと思います。

――本日はありがとうございました。


水野 孝一(みずの・こういち)

コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。