2018年09月01日
病院名 | 岐阜県総合医療センター | 設立母体 | 公的病院 |
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エリア | 東海地方 | 病床数 | 604 |
病院名 | 岐阜県総合医療センター |
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設立母体 | 公的病院 |
エリア | 東海地方 |
病床数 | 604 |
コンサルティング期間 | 9年5か月 |
岐阜県の高度急性期医療をDPC特定病院群として支える続ける岐阜県総合医療センター(岐阜市、一般604床)。2014年に立ち上げた院内の経営分析チームが、プロのコンサルタントレベルの経営改善提案を次々に行い、院内の改善風土を高めています。院内の分析スタッフやチーム育成に多くの経営者が頭を悩ます中、同センターはどのようにして分析チーム立ち上げを成功に導いたのか――。滝谷博志理事長兼院長と分析チームにお話を伺いました。
岐阜県総合医療センターは、救命救急センター、がん医療センター、心臓血管センター、周産期医療センター(母とこども医療センター)、小児医療センター、女性医療センター――の6つの医療をセンター化し、重点医療として取り組んでいます。中でも救命救急センターは24時間体制で稼働し、年間6000件の救急車やドクターヘリを受け入れています。
同センターは1909年岐阜衛戍病院として創設。岐阜陸軍病院、国立岐阜病院を経て、1953年7月岐阜県に移譲され、病床数130床の岐阜県立岐阜病院として開院しました。その後、2006年に岐阜県総合医療センターへ名称変更し、2010年に地方独立行政法人化しました。
グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が経営のご支援をさせていただくようになったのは独法化直前の2008年。当時、副院長だった滝谷理事長の指揮の下、DPC対応やコスト削減などさまざまなご支援をさせていただきました。
DPC制度発足当初からDPC特定病院群(当時はDPCII群)と位置づけられ、DPC特定病院群を維持し続ける同センターですが、2014年に滝谷理事長が現職に就任される際、ある重要な決断をしました。経営分析チームの立ち上げです。
滝谷理事長が経営分析を担うチームを院内で編成することにこだわるのは、今後、診療報酬のマイナス改定や地域医療構想の進展などで、経営環境が今まで以上に厳しくなると想定されるためです。厳しい経営環境の中では、大胆な経営改革を、スピード感をもって推進できる院内の分析チームが必要不可欠だと判断しました。
滝谷理事長が分析チームの立ち上げで注意したことは、大きく3つあります。
1つ目は人選です。こだわったのは、分析チームの一員として、当事者意識を持って取り組める職員であるかどうか。というのも、チームは通常業務をしながらの兼務になることは避けられなかったため、本気になって取り組める職員であることは必須条件でした。そのため、具体的には「経営分析に興味がある」「分析に関する素養が高い」――の条件をクリアできる職員を選び出し、理事長自ら直接、分析チームへの参画を依頼しました。
こうして選出された初期の分析メンバーは、医師(呼吸器内科)、理学療法士、放射線技師、薬剤師、事務職2人の計6人から成る組織横断的な理事長直轄のチームでした。現在は事務職5人、理学療法士2人、臨床検査技師、放射線技師、薬剤師の計10人のチームとなっています。
2つ目の注意点は、メンバーを見ていただければ分かる通り、組織横断的な他職種での編成にこだわったことです。経営分析は事務職が担うイメージが強いですが、「現場を知らない事務だけのチームでは、現場の要望などを細かくフォローしきるには限界もある」(滝谷理事長)ため他職種編成にこだわりました。
実際、他職種の幅広い知識や経験、分析の切り口を得ることで、現場の納得感も向上します。そのため、分析資料の作成やプレゼンは事務職、分析の切り口や診療科別ミーティングの際のアドバイスなどは医療職が担当するという役割分担が、今でも明確に分かれています。
最後に、分析チームの立ち上げを、できるだけソフトランディングさせるという点にもこだわりました。具体的には、最初から分析に関するすべてを分析チームで行うのではなく、GHCと役割を分担し、徐々にGHCの関与を減らしていくという手法で進めています。
立ち上げ当初は、分析の基本や資料作成の方法を身に付けるところから始めたため、分析トレーニングに集中。分析内容やプレゼン資料の流れなどの理解が深まってきたところで、分析・資料作成はGHCが担当する一方、現場でのプレゼンは分析チームで行う――といった具合です。
担当コンサルタントの本橋は、「分析チームが単独でも分析業務、改善推進のファシリテーションなどに対応できるようになったため、段階的にGHCの関与を減らすことができました。今では分析チームが作成した資料の事前確認、修正・追加、分析報告会前の事前打合せは行うものの、分析や資料作成などの最初の段階からほぼすべてを分析チームで遂行しています。次第に場数も増え、改善提案のレベルも着実に向上しています」と胸を張ります。
実際、直近で行った循環器内科との会議では分析チームの提案が好評を博し、「特に心不全の状況についての議論が盛り上がり、『改善目標を設定したので、1年後に再度データを出してもらいたい』とのリクエストもいただいています」(事務局経営企画課企画財務担当主査の原瀬史靖氏)とのこと。毎年実施するクリニカルパス大会では、分析チームの資料が各診療科や各病棟が提案内容を検討する上で欠かせないものとして定着しつつあり、「各方面からさまざまなリクエストをいただいています」(同)。
ただ、このように院内に改善風土が根付くまでは苦労も多かったようです。組織横断的な他職種チームで現場の声を意識し、ソフトランディングさせるという滝谷理事長の戦略もあってか、医師など現場の医療職の理解は得やすかったようですが、コンサルタントが担当する品質に負けない分析や資料作成という点ではハードルが高かったようです。事務局経営企画課情報システム担当課長補佐の高橋克明氏は「慣れないうちは分析も資料作成も苦戦続きで、気がついたら院内で朝を迎えるということが何度もありました」と打ち明けます。
滝谷理事長は、「正直、ここまでできるようになるとは思っていませんでした。手探りながら、分析チームのメンバーは本当に頑張ってくれたと感謝しています。いち早く兼業ではなく専業のスタッフを配置し、『経営戦略室』のようなセクションを作ることが最終的なゴール」と分析チーム立ち上げを振り返るとともに、今後の展望を語ります。
本橋は、「院内で分析チームを立ち上げ、その活動を継続できている事例は少ないのが現状です。ただ、自院の分析を自院でしっかり行うというのは、本来あるべき姿。経営環境が厳しさを増す中、分析スタッフやチームの育成は、これまで以上に急性期病院にとっての重要な経営課題になっていくでしょう」と指摘します。
DPC特定病院群を危なげなく維持し続ける岐阜県総合医療センター。DPC特定病院群のトップランナーが院内に分析チームを抱え、今後、次々と降りかかる経営課題へどのような対処をしていくのか――。次の一手に注目が集まります。
滝谷理事長にGHCの人材育成コンサルティングを振り返っていただき、どのようなメリットがあったのか、また、分析チームを機能させるための秘訣などをお聞きしました。
――2014年の院長就任時、院内の「分析チーム」立ち上げが重要な経営課題の一つと位置づけられました。
GHCとは長い付き合いで、結果も出してもらっていました。ただ、副院長時代からずっと思っていたのは、「院内で経営分析ができるチームをしっかりと作らなければ、これからの急性期病院は環境変化に対応しきれない。外部に頼っているだけではきっと限界がくる」ということです。そこで院長就任を機に、思い切って院内に分析チームを立ち上げることを決意しました。
経営分析に必要な初歩的な知識やスキルの習得から始めたのですが、正直、ここまでできるようになるとは思っていませんでした(笑)。今では、院内の職員で構成される分析チームが、自分たちでしっかりと分析し、その結果を各診療科の現場スタッフたちへプレゼンし、行動変容やクリニカルパスの改善を促すというレベルにまでなってくれています。手探りながら、分析チームのメンバーは本当に頑張ってくれたと感謝しています。
――分析チームが機能するようになった最大の要因は何でしょうか。
要因は複数あるかと思いますが、やはり大きかったのは分析チームの人選だと考えています。院長直轄のプロジェクトということで、私自身が「頑張ってくれるであろう人」を選び、説得して回りました。人選の際に気を付けたことは、「経営分析に興味がある」「分析に関する素養が高い」という条件を備えた人であるかということです。条件を満たす職員に分析チームを託すことができたので、初期メンバーの多くが今でも残ってくれています。
もう一つ挙げるとすれば、他職種のチームにしたということではないでしょうか。事務だけでは、現場の要望などをフォローしきるには限界もあります。他職種の幅広い知識や経験、分析の切り口を得ることができたということは、大きかったと思います。
――分析チームが機能しやすくするために気を付けたことなどはありますか。
GHCと人材育成のコンサルティング契約をしたので、やらざるを得ない状況にしたというところくらいでしょうか(笑)。分析チームは本当によく頑張ってくれていて、正直、彼らのボランティア精神のようなところに支えられていたところは否めません。ですから、分析業務に使った時間外手当はしっかりと付けられることにしています。
また、当院の医師たちは、高度急性期を担うDPC特定病院群に属しているという意識が高いからなのか、分析チームの話にしっかりと耳を傾け、「正すべきところは正そう」と考える医師が多く、分析チームはやりやすかったかもしれません。一方、医師たちが耳を傾ける要因としては、ベンチマーク分析で分かる「自分たちの立ち位置」を知りたい、という興味があったのでしょう。
――DPC特定病院群の維持についてはいかがでしょうか。
当初からDPC特定病院群を維持し続けている病院はあまり多くないと思いますし、これからも維持を大きな目標としていきます。ただ、これについてはそれほど心配しておりません。当院では毎月、院内全体で診療科別に実績要件の中の診療密度などの項目についてチェックし続け、院内には嫌というほどDPC特定病院群の維持に向けた姿勢が根付いているからです。
――今後の課題を教えてください。
地域医療構想という視点では、我々は高度急性期病院という立ち位置が明確なので、そのための役割を果たすというところに尽きます。そのための道筋をしっかりと計画を立て、推し進めていくためにも、経営分析は欠かせません。
やはり今後の課題は、引き続き院内の経営分析です。「分析チーム」と呼んではいるものの、スタッフ全員が本業を持った上での兼務なのが現状です。やはり兼務だと、やれることに限界があります。
経営戦略の立案までを含めた経営分析全般を専門とする部署にすることが、最終的なゴールだと考えています。いち早く「経営戦略室」のようなセクションを作り、兼業ではなく専業のスタッフを配置し、病院経営に必要なありとあらゆるデータを分析し、その上で当院が進むべき大きな戦略を企画し、実行支援ができるような組織に育て上げていきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。
冨吉 則行(とみよし・のりゆき) | |
コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。 |
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