事例紹介

2018年06月27日

【病院事例】「改善風土」根付き黒字転換 全員参加を実現、“徹底分析型”経営戦略会議|関東中央病院

病院名 公立学校共済組合 関東中央病院 設立母体 公的病院
エリア 関東地方 病床数 403
病院名 公立学校共済組合 関東中央病院
設立母体 公的病院
エリア 関東地方
病床数 403
コンサルティング期間 3年間
Hospital Management - Consulting Services
  • ・チーム医療向上
  • ・診療科パスアセスメント
  • ・病床管理
  • ・集患・地域連携

 2017年度、公立学校共済組合 関東中央病院(東京都世田谷区、403床:一般315床、精神50床、地域包括38床)は9年ぶりに営業収支が黒字に転換しました。新家眞病院長の指揮の下、ここ数年で院内に改善風土が根付いたためです。手術症例数が増加、また加算や指導料・管理料の多くの項目で算定率が大幅に向上し、日本トップレベルの算定率になった項目が登場。積極的な夜間対応や地域連携で患者数も増加しました。

左から澤田、中野入院係長、新家病院長、中畑副院長、相澤薬剤部長、中村

 同院では数年前より「地域医療支援病院の取得」や「ベッドコントロール会議の開始」等、急性期病院として取り組みを実直に行ってきました。そして、2017年度より経営改革の1つとして、「“徹底分析型”経営戦略会議」を開始しました。黒字達成を加速させたこの会議では、黒字達成に向けての目標数値や具体的手法、その進捗管理等を、データ分析を行い徹底的に定量化していきました。中でも他病院との違いをデータで可視化するベンチマーク分析が効果的であり、ベンチマーク分析を起点に、PDCAを回していくことで、徐々に改善風土が醸成。部署間の垣根を超えた全員参加による経営改善がなされ、今も継続されています。同院の経営改革の軌跡について、新家病院長、中畑高子副院長兼看護部長、相澤学薬剤部長、医事課の中野憲吾入院係長にお話を聞きました(聞き手は澤田優香、中村伸太郎)。

院内を変えた3つの戦略とワーキング・グループ(WG)

――これまでの経営改善をどのように振り返りますか。課題や障壁に対してどのような取り組みをされましたか。

新家氏:当院は十分に患者を集められていないということが、大きな課題でした。

新家病院長

 以前は、患者受け入れに関して各診療科にローカルルールのようなものが存在し、救急患者や紹介患者をスムーズに受け入れにくい体制になっていました。また、地域連携も不十分な状況にありました。そこで、2015年に院内の既存委員会とは別に、副院長たちをトップとした(1)救急WG(内科系、外科系)、(2)地域連携WG、(3)ベッドコントロールWG――を立ち上げ、患者を断らないスムーズな受け入れ体制の構築を目指しました。

 救急WGでは、夜間のみ稼働する「オーバーナイトベッド(10床)」の運用を開始したことが大きかったです。地域連携WGでは、連携先になりえる開業医へのヒアリングを積極的に実施しました。すると、徐々に改善効果が見え始め、当院の果たすべき役割がまだ地域内で十分にあることが分かってきました。まだまだ課題はあるものの、患者が増えるのと並行して、ベッドコントロールWGも機能してきました。

 今では看護部の力強い協力もあり、ベッドコントロール会議などさまざまな工夫が施され、現在は全ての職員が入院患者数をリアルタイムで意識できるようになり、朝と夕方、院内ポータルに表示される入院患者数を確認して積極的な患者の受入につなげています。

中畑氏:オーバーナイトベッド(現状救急病床)に関しては、当初は平日夜間だけで運用開始しましたが、土日まで拡大させるなど次々と取り組みを進めていきました。2015年12月から2年以上運用してきたことで、「夜間でもあそこなら大丈夫」という認識が地域に根付き、患者を呼び込む大きな起点になったと感じています。

中畑副院長兼看護部長

 また、2017年度に黒字転換できたのは、この3年間GHCと一緒にさまざまな改善活動をしてきたことで、院内に改善風土が醸成された結果でもあると感じています。

 特に、経営戦略会議で職員の目標が具体的な数値として定まったことは重要でした。これまで行ってきた改善活動はすべて、GHCより実現可能な目標値が提示され、その根拠、他病院との比較状況、具体的な取り組み方法、行動スケジュールが分かりやすく可視化されていました。その分析結果をみて、納得感のある目標値を決めることができました。

 進捗管理と問題の共有が図れたことも大きいです。経営戦略会議は、月1回行われるのですが、そこで中野入院係長を中心に進捗管理を丁寧に行ったことで、今残っている問題は何なのかが明確になりました。さらに、それぞれの目標値や進捗状況を常に「病院長名」で院内へ発信し、各種会議でしつこいほど確認することで院内全体に周知徹底できたことも大きかったと思います。

経営視点の薬剤部、部門間つなぐ医事課

相澤氏:薬剤部としては、GHCが各診療科と行う診療科ミーティングに当該病棟の担当薬剤師も参加させていただけたことが大きいと感じています。結果的に病棟薬剤師はすべて、経営改善に向けた何かしらのミーティングに出席しているという状況になり、薬剤管理指導料などについて他病院と比較して自病院がどのような状況にあるのかを、部内で共有することができました。

相澤薬剤部長

 加えて、現状の算定率をどのように改善していけばいいのか、具体的な対策案も理解することにより、スムーズに対応できたかと思います。さらに病院全体の経営改善に向けて薬剤部がどう動いていけばいいのかを議論する場があったことも、非常に有意義でした。薬剤師1人1人が自分たちの受け持つ病棟や診療科さらには病院全体の経営を向上させるにはGHCのノウハウをどのように活用すればいいのかという、より踏み込んだ意識や視点を持つきっかけになりました。

※データ期間:2017年4月~2018年3月退院症例

中野氏:わたしも中畑看護部長がおっしゃるように、経営戦略会議の場で最初に個別の目標値ごとの担当者を明確にし、1年間の進捗管理を継続したことが大きかったと感じています。この会議を通じてしっかりとした根拠に基づいてプランを立て、実行し、検証し、改善するというPDCAサイクルを回せたことは黒字化に大きく寄与したと思います。

医事課の中野入院係長

 PDCAサイクルを回していくために、各部門とはかなり密に議論の機会を設けました。その中でさまざまなご意見をいただき、勉強させていただきました。例えば、看護部には加算強化に向けて各種資格の取得も推進していただくなど、議論を通じてお互いの意識が向上し、あらゆる部門や診療科の努力が集結することで改善活動が進んだのではないでしょうか。

中畑氏:医事課は大きな推進力になりました。従来は「この加算取れるんじゃないの?」などと看護部の方から確認することもありましたが、今では医事課の方からさまざまな提案があるので、私たちとしては安心して頼ることができます。

新家氏:これまで「普通の病院」という基準や目安がなかったので、人や部門によって意見がバラバラで、何かを改善しようにもなかなか前に踏み出すことができなかった。それが「黒船効果」というのでしょうか、GHCが「こういうデータがある」「他の病院ではこうしている」と情報をくれるので、自信を持って議論ができるし、院内へ迅速に情報発信できるようになりました。単なる院長の思い付きではないということを明確に示せることは、非常にありがたいことです。

改善風土が活気と当事者意識を向上

――改善風土が根付いてきたというお話がありましたが、院内の雰囲気はどうでしょうか。

中畑氏:かなり変わったと思っています。経営改善を徐々に進めていくことで、患者も増えて院内の雰囲気も変わり、90%以上の稼働率でも現場は受け止めて、頑張ってくれるようになりました。急激な変化ではなく、徐々に変化していったことが良かったのでしょうね。

中畑副院長兼看護部長

 そのことが分かる典型例は、毎朝の病床会議。そこではベッドの空き状況や当日の入退院予定が一目瞭然になるのですが、「今日はうちの病棟が空いているので、日中の急患が来たらうちで受けます!」と現場レベルの看護師が言ってくれるようになったんです。つまり、急患の押し付け合いがなくなり、むしろ取り合いになったわけで、私はその光景を見て、ようやくここまできた看護師の意識の変化を嬉しく感じると同時に、当事者意識を持って病床管理を行う看護師の力を実感しています。

相澤氏:薬剤部では、ここ数年で経営に対する意識がものすごく高まってきたと感じています。例えば、新設された加算などに関して「これを取るためには、こうしたらいいのではないか」というような議論が部内で日常的に出てくるようになりました。

中野氏:同じ目標を持ち、院内共有を徹底したことで部門の垣根がなくなりつつあるのではないかと思っています。各部門の関係者が皆、同じ方向を向いて、同じように動いているので、何でも話せる雰囲気になってきたと感じています。

新家氏:垣根がなくなりつつあるというのは、事務部門がフットワーク軽く潤滑油になってくれていることが大きいです。赤字だった頃と比べると、各部門に活気が出てきた影響もあるでしょう。

 例えば、かつての看護部には医師が踏み入ってはいけない大奥のようなイメージでしたが、中畑看護部長はそんなことはなく、どんなことでも見せてくれるし、また、言ってくる。だから経営幹部と現場の看護師との距離が縮まり、結果的に看護師のやる気も大きく変わってきました。

中畑氏:院長が定期的に各部署を回っていることも現場のやる気に影響していると思います。誰かではなく直接、院長が現場を見て、現場の話を聞いてということがやる気に繋がっていると思います。

新家氏:以前は患者数や病床稼働率について経営幹部だけが気にしているようなものでしたが、最近は多くの職員が意識するようになりました。増患や加算強化など増収を中心とした経営改善の効果が数値となって現れてきている影響で、今では費用削減についても職員の意識が変わってきているように感じています。

各論で成果積み、全体を飛躍させる

――今後の課題やコンサルティングに期待することなどがあれば教えてください。

新家氏:GHCのコンサルタントはフットワークが軽くて、経営幹部が意思決定した方針を現場レベルの取り組みにすぐ落とし込んでくれ、「これをやると1年間で500万円の増収になります」などの具体的な数字を示してくれる。大きな会議での総論だけではなくて、各診療科や部門に対して他院事例等を参考にした超具体的提案により各論でしっかりと成果を出しながら、全体を改善するというスタイルがいいと思っています。また、様々な取り組みにおけるKPI(評価指標)の設定にあたっては、ベンチマーク分析や他病院の取り組み事例を示してくれるので、院内の多くの関係者が納得し、同じ方向を向くことができました。

新家病院長

 例えば、GHCの診療科別ミーティングを受けたことで、医療資源投入額(医療材料、薬剤など)が減少しました。1つ1つの診療行為に対して、第三者的な立場で同規模病院とのベンチマーク比較を示されると、医師は素直に、かつ、敏感に反応するものです。院内の限られた情報をベースに医事課職員のみで説明するよりもはるかに効果が大きかったと思います。

 今後の課題としては当然、健全経営の維持です。そのためには、地域の実情にあったサービスの提供が必要であると考えます。医療制度改正や診療報酬改定などの情報をいち早くキャッチするとともに、地域医療構想に沿った機能の維持・転換についても柔軟な対応をしていくことが必要であると考えています。当面の目標としては、東京都がん診療連携拠点病院を目指すべく体制整備を図っています。

 今はたまたま家庭教師の当たりが良くて、ある程度までは改善できたという状況。ですから、家庭教師がいなくなると、また駄目になってしまうかもしれません。いずれは家庭教師がいなくても、自分たちだけで改善していける組織にしなくてはならないと考えています。ただ、いきなり全部を自前ではできないとは思うので、最低限これだけは自分たちだけでやるということを決めて、それだけはしっかりとやりきる体制や環境をまずは整えていきたいと思っています。やるべきことをしっかりとやり、外部の力もポイントで借りつつ、常に進化し続けるような組織を目指しています。

「ともに歩む」に安心感

中畑氏:経営改善で実際に動くのは私たちなのですが、GHCのコンサルタントは一緒に汗を流し、苦労してくれていると、いつも感じます。それがすごく良かったかなと。今後については、簡単にはできないと思いますが、コンサルティングで受けた様々取り組み手法をできる限り技術移転してもらうことで、“独り立ち”していきたいと思っています。それと当院のもう一つの課題はスピードです。特に意思決定するスピードや意思決定されたことをやり切るまでのスピードは、もっと速めないといけないと思っています。

左から中野入院係長、新家病院長、中畑副院長、相澤薬剤部長

中野氏:現場に深く入り込み、細かいところまで指導いただくことは引き続きお願いしたいと思う一方、ずっとそれに頼りすぎるのもどうかと思っています。GHCのノウハウを勉強させてもらい、それらを応用して自分たちだけで改善活動を進めながら、どうしても自分たちだけでは解決できない課題がでてきたら、GHCにご相談させて頂くような関係を築いていきたいと考えています。

相澤氏:自分たちだけでは分からなかった他病院の算定状況などのベンチマークや、同規模の他病院の取り組みや工夫などを知れたことが大きかったと思います。今後も薬剤部としてさまざまなミーティングに参加して、色々と勉強していければと思っています。

――本日はありがとうございました。


中村 伸太郎(なかむら・しんたろう)

コンサルティング部門マネジャー。東京工業大学 大学院 理工学研究科 材料工学専攻 修士課程卒業。DPC分析、財務分析、事業戦略立案、看護必要度分析、リハ分析、病床戦略検討などを得意とし、全国の病院改善プロジェクトに従事。日本病院会が出来高算定病院向けに提供するシステム「」の社内プロジェクトリーダーも務める。