2015年09月17日
病院名 | 新潟県立新発田病院 | 設立母体 | 公立病院 |
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エリア | 甲信・北陸地方 | 病床数 | 478 |
病院名 | 新潟県立新発田病院 |
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設立母体 | 公立病院 |
エリア | 甲信・北陸地方 |
病床数 | 478 |
コンサルティング期間 | 3年間 |
400床を超えるDPCII群病院でありながら、2014年10月から急性期を脱した患者の受け皿として「地域包括ケア病棟」に一病棟を機能分化させた新潟県立新発田病院。思い切った経営改革を決断し、医療と経営の双方の質向上に導いた背景には、堂前洋一郎院長の徹底した現場主義と、院内を動かすための「仕組み化」がありました。
コンサルタント冥利に尽きる―。訪問した新発田病院の帰途、GHCアソシエイトマネジャーの湯原淳平は15年8月、喜びをかみしめました。経営コンサルティングを約3年前から担当する同病院に黒字化のめどが立ったためです。
新発田病院は、478床(一般403床、精神45床、感染4床、ICU20床、NICU6床)の県北部の基幹病院。近くには急性期病院がほかにないため、「最後の砦」として地域の救急患者をほぼすべて受け入れています。そのため、病床稼働率が極めて高く90%を超える月も多いといいます。
救急病院だけでなく、急性期を脱した患者の受け皿となる後方支援病院が少ないこともあり、入院期間が比較的長いことが問題になっていました。ただ、入院期間の短縮をやみくもに目指しても、病床稼働率が低下して空床が増えれば、全体的な医業収益の減少につながる可能性もあります。
院内のこうした課題と地域性を考慮して、湯原が提案したのは、地域包括ケア病棟の導入による院内での病床機能分化の推進でした。
自病院内に後方支援病棟を持つことで、急性期医療の質を落とすことなく、急性期病床の新たな受け皿を創出することができます。最適化された急性期病床は、平均在院日数の短縮と「重症度、医療・看護必要度」の向上が見込めることで、これまで算定してきた10対1入院基本料を、より手厚い報酬の7対1入院基本料で算定する可能性も見えてきます。実際、地域包括ケア病棟導入に向けた一連の取り組みやクリティカルパスの改善などが奏効し、同院は14年5月から7対1入院基本料を算定しています。地域包括ケア病棟は14年11月から算定しました。
回復期の病棟ができることは、医療の質と患者満足度の向上にもつながります。しっかりとした機能回復訓練や在宅復帰支援を受けられるかどうかは退院後のADL(日常生活動作)向上にも直結しますし、急性期と在宅療養の架け橋が整備されたことで、患者の安心・安全を高めることにもなります。
いいことずくめに映る地域包括ケア病棟の導入ですが、課題も多くあります。
14年4月からの新制度ということもあって、地域包括ケア病棟への理解は全体的にまだ低く、特に院内の理解を得ることが難しいと言われます。創設されて間もないため導入の前例も少なく、ましてや申請するのは200床以下の中小病院がほとんど(関連記事『地域包括ケア病棟、1年間で少なくとも1.4万床に-GHC調査』)。基幹病院による導入例がほぼない中で、「急性期を脱したばかりの患者に対応できるのか」「単科で活躍してきた看護師が混合病棟で務まるのか」など、院内からの反発は容易に予想されます。経営者が導入に足踏みする可能性も高いようです。
しかし湯原は、同病院での地域包括ケア病棟の導入を、「堂前院長のリーダーシップと実行力があったので、スムーズに実施できた」と振り返ります。
堂前院長が就任したのは13年4月。長年、経営改革の必要性を感じており、副院長時代にはDCM(DPC、クリティカルパス、材料)の総責任者を務めました。12年6月に湯原が初めてコンサルティングに訪れたキックオフ・ミーティングでは、「これからは医療の質を落とさず、経営のことも意識しないと生き残れない。一緒に頑張っていこう」と院内に呼び掛け、病院改革をけん引してきました。
就任後は病院改革を全部署に通達。「DPCII群の維持(クリティカルパスの充実、病床の区分化などで)」「外来機能の充実(外来の再編、外来化学療法室の拡充、外来手術センターの開設などで)」などと、在任中に目指す方向性を「院長方針」として、はっきりと打ち出しました。定期的に開く「院長講話」でも、病院改革の方向性を繰り返し現場に伝えました。さらに週1回は、看護部長と事務長を引き連れて各部署を訪れ、現場の声に耳を傾け、「院長方針」を実践できているか確認する仕組みを作り上げました。
病床機能の分化では、看護部門の病棟責任者として「看護師長」がいる一方で、医師側の責任者がいないことに注目。そこで、「病棟長」として各病棟に医師を置き、地域包括ケア病棟の導入に向けた病床管理に医師を巻き込む仕組みを用意しました。また、地域包括ケア病棟をスムーズに導入するため、病室単位で算定する従来の「亜急性期入院医療管理料」でまず運用を開始。ある程度の経験を積んでから地域包括ケア病棟を導入するという段取りを踏みました。
15年度には一連の改革で単月黒字が続き、通年でも黒字を見通せるようになった新発田病院。堂前院長は、病院改革について、「重要なのは大きな声を出すことではなく、明確な意思表示をすること」と振り返ります。
明確なメッセージを現場に何度も送り、頻繁に足を運ぶという徹底した現場主義と、改革を実行に移すための「仕組み化」により、改革への「うねり」を、着実に形にしてきました。堂前院長は「院長として当たり前のことをしただけ」と笑いますが、大声で語らずとも、「自分たちの病院を変える」という熱い想いを胸に、明確に意思表示してきた堂前院長の「当たり前」は、病院で働く人たちを変え、そこでの医療と経営の質を変え、地域の医療を大きく変えようとしています。
思い切った経営改革で劇的な経営改善を果たしつつある新潟県立新発田病院。改革を指揮してきた堂前院長に聞きました。
GHC:あらためて、今回の経営改革をどのように振り返りますか。
堂前院長:院長は、病院をどの方向に向けて、どうしていくかという方向性を示すべき存在だとわたしは考えています。病院幹部たちはこれからの方向性をなんとなくは分かっていますが、それが一般職員にまでは浸透していないという問題意識を持っていました。前院長の時代に、GHCのコンサルティングを導入し、医療材料のコスト削減などですぐに成果を確認はできましたが、何より「一般職員にまで経営方針が浸透していない」点にいち早く着手すべきだと考えていました。
わたしが院長になって最初に考えたのは、組織図をきちんと共有しておくべきだということです。特に、今後は病床機能の分化を進める中で、病床管理を医者が管理していない点に着目しました。病床管理に看護師長はいるけれど、大きな発言力を持つ医師がそこいないのはおかしいと、就任直後の13年4月、各病棟の管理責任を担う「病棟長」という医師のポストを作りました。
それ以来、病棟のことは病棟長と看護師長で責任を持って実施してもらっています。外科系と内科系の副院長2人と、病棟長と看護師長が毎日午後4時ごろ、病棟ごとの病床管理をしっかりと議論して決めています。
目的と方針さえ決まれば、経営は後戻りできません。そのため、院長の目的と方針を明確に示そうと、「院長講話」を定期的に実施することにして、わたしの在任中に実施すべきことを「院長方針」にまとめて全部署に配布しました。これは進展状況や新たな問題意識などを毎年、更新しています。ちなみに、新発田病院の今年の目標は「病院の自律と自立」です。
GHC:地域包括ケア病棟を入れた効果も見えてきています。今期は黒字化しそうですか。
堂前院長:「院長方針」は全部やり切りました。おそらく、黒字になるでしょう。
GHC:「院長方針」は黒字化に向けて、練りに練った戦略だったのですか。
堂前院長:ごく当たり前の戦略です。戦略としては、それしかやりようがなかったので。重要なことは、経営者として大きな声を出すのではなく、経営者として「わたしはこうしたい」「こうしていく」と明確に意思表示することです。
GHC:「大声を出さずに…」というのは思い入れのある哲学ですか。
堂前院長:自分のやりたいことを分かってもらえないと、何も伝わらないし、進みません。やはり、ひたすら話しかけてのコミュニケーションなんです。院長になってからは、事務長と看護部長を引き連れて院内の部署を毎週、回っています。たっぷり2時間くらいかけて隅々を。
最初に、「外来に緑が少ない」と事務長に言ったら、翌日には観葉植物が置いてありました(笑)。事務長と看護部長を連れて院内を歩くと、話が早いんです。事務長はその日すぐ業者に連絡を取ってくれたようです。
こうして院内を見て歩くと、病棟の雰囲気や働いている人の気持ちなどが、手に取るように分かります。整理整頓が行き届いているかどうか、棚ひとつ見るだけで病棟ごとの状況が分かります。この病院には古くからいますから、ほとんどの看護師は知っていて、「どう?」と声を掛けるだけでもかなりの情報が入ってきます。
GHC:経営者が現場感覚を持つことが重要だと。
堂前院長:現場だよ、経営者がしっかりと現場を見ないと。医療を提供しているのは現場の人たちですから。
GHC:「地域包括ケア病棟」の導入は地域での前例もほぼなく、リスクもありました。決断を後押ししたのは何でしたか。
堂前院長:当然、重要な決断なので悩みました。導入できなければ10対1に落ちる可能性もありましたし、病院経営への影響は相当のものです。ただ、それでもこの病院のことを考えたら、それが最適な選択だという信念はありました。ですから、不退転の決意で臨み、駄目だったらすべての責任はわたしが取るつもりでいました。結果的には、綱渡りの連続を見事、渡り切ることができました。
GHC:地域包括ケア病棟は、目の前の経営改善だけではなく、将来的な布石にもつながったのではないですか。
堂前院長:混合病棟への布石を打てたことが、最大のメリットかもしれません。わたしは、大きな病院こそ、訪問看護をやるべきだと思っています。地域包括ケア病棟の看護師たちは、急性期をしっかりと経験してきた看護師、夜勤はできないけれど優秀な看護師たちです。現状、そこまではできていませんが、こういう看護師たちなら、急性期を脱した患者の在宅療養を支えることも十分にできます。訪問看護はもちろん、日帰り手術のケアなど何でもできます。この地域では、そういう所に大きな活路があると思っています。
GHC:湯原のコンサルティングはいかがでしたか。評価できる点はありましたか。
堂前院長:全部ですよ、全部(笑)。院長として働くにあたり、正確な最新情報を伝えてもらえたからこそ、しっかりとした戦略を練り、院内に伝えるべきことをかみ砕いて伝えることができました。
GHC:本日はありがとうございました。
新潟県立新発田病院
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