事例紹介

2024年07月30日

DPC特定病院群に指定、決め手は明確な針路と「縦割りNG」の意識醸成―名古屋市立大学医学部附属東部医療センター(1)

病院名 名古屋市立大学医学部附属東部医療センター 設立母体 公立大学法人
エリア 東海地方 病床数 498
病院名 名古屋市立大学医学部附属東部医療センター
設立母体 公立大学法人
エリア 東海地方
病床数 498
コンサルティング期間

厚生労働省は2024年6月より、名古屋市立大学医学部附属東部医療センター(名古屋市千種区、498床)を、大学病院本院に準じた診療密度を有する「DPC特定病院群」に指定しました。救命救急医療と感染症医療を特色とする同院はこれまで、DPC特定病院群の要件に届かない状況が続いていました。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた2023年度から「本気」の改革を推進し、見事1年目でのDPC特定病院群に指定されました。決め手は何か。大手信之病院長ら経営幹部や経営改善の担当職員の話を伺うと、大手氏の「本気でDPC特定病院群を取りに行く」と明確な針路を示した大号令と、「縦割りは病院にとってマイナス」との職員の意識醸成がカギだったようです(聞き手は当社コンサルティング部門アソシエイトマネジャーの水野孝一)。

経営改善のコアメンバー
経営改善のコアメンバー(左端は当社コンサルタントの水野孝一)

「本気でDPC特定病院群を取りに行く」

――当社サービスをご活用いただくまでの背景や経緯などについて教えて下さい。

大手氏:当院は2017年度までDPC特定病院群(当時はDPC病院II群)であったものの、翌年にはDPC標準病院群(同III群)になりました。その後はDPC特定病院群の実績要件はギリギリ基準に届かないという状況。周囲の病院の医療提供体制が大きく進化していく中で、相対評価に基づくDPC特定病院群は真剣に取り組まなければ、絶対に取れません。これまで、このギリギリを越える戦略の策定と「何としても指定される」という意識付けができていなかった。

病院長の大手信之氏
病院長の大手信之氏

そこで大学病院化で院内が新体制になったのを機に、DPC特定病院群と県指定のがん拠点病院を目指す方針を打ち出しました。年々、国は考え抜いて診療報酬を厳格化していく中で、「我々も叡智を結集させないと、この大きな流れに太刀打ちできない」との危機感もありました。

ただ、我々だけではできることにも限界があるという中で、「」を導入し、コンサルティングも活用することで、DPC特定病院群に向けた経営改善が一気に進みました。「」は本当に良くできたシステムだと思っています。

――ありがとうございます。なぜ経営改善が一気に進んだのでしょうか。また、「」のどのような点をご評価いただけましたか。

大手氏:一番のポイントは、「」を利用して皆の意識を同じ方向に向かせることができたということです。

例えば、医師などの医療専門職は、自分たちの専門だけにしか興味がなく、経営の話をしても全く理解を示さないという事例は、どの病院にもあるのではないでしょうか。事務に関しても、極端な縦割り意識で自分の仕事しかしないという事例も然りです。このような状態では、絶対にうまくいかない。

そのため、まずは「本気でDPC特定病院群を取りに行く」と大号令を発しました。また、院内の意思決定プロセスを統一して、各部門の部長の責任を明確にし、病院部長会の院内ガバナンスにおける立ち位置を明確にして、すべての情報を部長会に集約・討議、そして決定事項は部長会を起点にして院内に発信することにしました。もちろん病院長の考えも部長会で伝達します。各診療科や部門のローカルルールに基づく意思決定をなくす、これを徹底しました。

診療科に十分な数の医師や看護師を配置するなどの人材補填も経営改善に大きく影響していますが、事務部門の人的充実も経営に大きく影響します。その視点において現在の事務部門が最高の布陣にあるということも大きいです。以前と比較すると3倍くらいパワーアップしているように感じ、医療現場全体が同じ方向を向くための強力なサポートを全力で行ってくれています。

この良い状態をさらに後押ししてくれているのが「」。今まで使っていたシステムとは比較にならないくらいに操作がしやすく、分析結果も分かりやすく、何をどうすればいいのかイメージしやすい。「」のデータや資料を軸とすることで、院内が同じ方向を向く一助になってくれています。

」は3つの異なる視点で使える

林氏:まさにアメリカの経営学者であるチェスター・バーナードが提唱した「バーナード組織の3要素」である「共通目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」を満たすための道筋を病院長が示してくれました。それを事務が支え、「」が後押ししてくれたと感じています。

副院長で経営戦略室長の林香月教授
副院長で経営戦略室長の林香月教授

私自身は2023年4月に経営戦略室の室長を拝命したばかりですが、初学者でも使いこなせる「」を活用したことで、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」で病院経営を理解できるようになってきたと感じています。病院経営に関することをよくインターネットで検索しますが、するとGHCの解説記事が検索結果に表示されることが多いので、このような公開されている情報も活用させてもらっています。

――「虫の目」「鳥の目」「魚の目」とは具体的にどういうことでしょうか。

」で他病院との経営状況を比較する際、病床数や診療科など各種設定因子条件を入力することにより、詳細な比較検討が可能です。こうしたミクロ視点での活用が「虫の目」です。

一方、分析結果は分かりやすい図表による見える化で感覚的に把握できます。病院長の医局会での情報発信などにより、病院全体の経営状態を多くの職員が俯瞰でき、全職種の理解も得やすい。こうしたマクロ視点が「鳥の目」。さらにこうしてミクロとマクロの視点でベンチマーク分析し、医療制度と全国の病院の経営状況を理解していく中で、中長期的な課題の発見や将来展望ができる視点も身につきます。こうした潮流を把握できるところが「魚の目」と考えています。

属人化を排す院内マニュアルを作成

――ありがとうございます。「」は具体的にどう活用されているのでしょうか。DPC特定病院群指定の決め手は何でしたか。

水野氏:各実績要件について、自院の値と大学病院本院群の(最低値の)値を確認することがメインです。また、「院長ヒアリング」の進行の見直しにも活用しました。「院長ヒアリング」については、従来の予算要望機能に加えて、各診療科の診療実績をデータで示し、長所・短所、課題や改善点などの共有と方向性提示等のディスカッションを行える場へと変更しました。

経営課の水野史一氏
経営課の水野史一氏

具体的には、「」を用いて各診療科の特性を把握。その上で、労力対効果の高いものに狙いを定めて深掘りして資料作成し、例えば在院日数管理を進めていただくような意識共有を図りました。

DPC特定病院群の指定については、2023年度の早い段階でどの実績要件に絞って戦略を打つかが検討でき、「院長ヒアリング」を活用するなどしてトップダウンとボトムアップとの双方で診療科と情報共有・方向性共有ができたことが大きかったです。最後の3か月(2023年7月~9月)の追い込みでは、林副院長から「実績要件3」や「実績要件4」に焦点を絞り、病院部長会の場で全診療科へレクチャーしていただきました。

――「」を活用するにあたり、工夫した点はありますか。

水野氏:こういったソフト・ツール類の操作や資料作成業務は、これまでの経験則で属人化しがちであると考えています。そのため、同時に多数の職員が利用できるよう、「ダッシュボード活用マニュアル」を作成し、事務部門の中で共有しました。結果、複数人で同質の資料を作成することができ、資料作成業務の属人化を避けることができたことのみならず、資料の「方向性」の属人化をも避けることができるようになりました。

「事務はどんな部署にもかかわらないと駄目」

大手氏:水野さんとは名古屋市立大学病院で一緒に病院機能評価対応もやっていたのですが、その時の印象は「『もっと病院を良くしたい』と決められた業務以外のことも率先して行う少し変わった人だな」です(笑)。一般的に公立病院の事務職は縦割りで、目の前の決められた業務以外には手を出さないことが多いですから。

ただ、こういう縦割りを意識しなかったり、揺るがない熱意で周囲を動かせたりする人材がいるからこそ、今の事務が非常に良い状態にあると感謝しています。また先程も指摘しましたが、組織は緩みやすく、すぐに違う方向を向く人が出てきてしまうので、そうならないようにソフトやツールを用いての情報共有、適切な判断、対応を統一化する意義は非常に大きいと思います。

水野氏:医事課のスタッフも「縦割りは病院にとってマイナス」との意識で「それは必要だからやっていこうか」と言ってくれました。周りが応援して協力してくれたので、今の良い環境を作ることができていると感じています。

清水氏:正直、水野さんについていくのは大変ですよ(笑)。ただ、彼の真っ直ぐなところや熱い気持ちは正しいし、公立病院には必要なことだと思います。私は民間病院出身なのですが、この病院に来て最初の印象は「ものすごい縦割りだな…」でした。前職では「事務はどんな部署にもかかわらないと駄目。事務だけでは病院を動かせない」と言われ続けてきたので。

医事課の清水悠氏
医事課の清水悠氏

一方で「事務だけでは駄目」という認識は、DPC病院である当院にきてからさらに高まっています。出来高病院では医事システムに入力されているものが収入のすべてといっても過言ではないので医事課だけでも漏れなく入力さえしていれば何とかなる部分はあったのですが、DPC病院は集患する疾患や在院日数管理などで日当点や係数が変化し入力漏れをなくすだけでは経営改善を図ることができない部分が大きいので医事課だけではどうしようもできません。

ですから、水野さんが指摘する「縦割りは病院にとってマイナス」と認識して行動することは、DPC病院における事務の大きな課題の一つだと思います。

連載◆名古屋市立大学医学部附属東部医療センター
(1) DPC特定病院群に指定、決め手は明確な針路と「縦割りNG」の意識醸成
(2) 目指すはさまざまなブランドの集合体、針路が分かれば病院は動く


水野 孝一(みずの・こういち)

コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。