事例紹介

2023年10月31日

組成わずか1年のチーム軸に3700万円増収、パス改善や加算算定最適化などで|加賀市医療センター

病院名 加賀市医療センター 設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方 病床数 300
病院名 加賀市医療センター
設立母体 公立病院
エリア 甲信・北陸地方
病床数 300
コンサルティング期間 2021年~

病院再編・統合の成功事例とされ、地域のデジタル化と規制改革を強力に推進する「デジタル田園健康特区」の病院としても注目される加賀市医療センター(300床)。経営改善においても、わずか1年で驚くべき成果を残しました。2022年4月から経営改善チームを育成する「経営人財育成プログラム」を受けた職員たちが軸となり、クリニカルパス作成や加算・指導料等の算定最適化などを通じて、年換算3700万円以上の増収効果をもたらしました。コンサルティングや「(カイ)」を導入するまでの背景や経緯について、加賀市病院事業管理者の清水康一氏、加賀市医療センター病院長の北井隆平氏にお話を伺いました(聞き手は当社コンサルティング部門シニアマネジャーの冨吉則行)。

左から加賀市医療センター病院長の北井氏、加賀市病院事業管理者の清水氏、冨吉
左から加賀市医療センター病院長の北井氏、加賀市病院事業管理者の清水氏、冨吉

経営改善にベンチマーク分析は欠かせない

――当社のコンサルティングや病院ダッシュボードχを導入される前の経営課題や背景、経緯などについて教えてください。

清水氏:当院は「加賀市医療提供体制基本構想」に基づき、加賀市民病院と山中温泉医療センターが統合し、2016年に新設した病院です。統合前の両病院は、必ずしも経営が良いとは言えず、救急搬送は6割程度しか受け入れることができず、結果、加賀市の救急患者の4分の1は市外に搬送されるなど救急医療体制にも問題がありました。

清水康一(しみず・こういち)氏
清水康一(しみず・こういち)氏:金沢大学医学部卒業。金沢大学を経て2005年に富山県立中央病院の外科部長。2017年に富山県立中央病院の院長に就任。2020年から現職。

新病院になってからは「救急搬送を断らない体制」を掲げ、救急搬送の応需率は99%で、年間救急搬送の受け入れは石川県で3番目に多い約3000件超という状態です。

ただ、まだまだ経営面での課題はあります。私は2020年4月に当院の事業管理者に就任しましたが、前職(富山県立中央病院の院長)で経営支援をお願いしていた冨吉さんから連絡を受けて、当院でもまたお願いすることにしました(『富山県立中央病院、「余裕のII群維持」までの経緯と対策』参照)。DPC分析ソフト「EVE」は導入しているものの、使いこなせる人がいないというような状況だったからです。

やはり、経営改善を行っていく上で、ベンチマーク分析は欠かせません。時系列で自病院の変化を確認することも必要ですが、さまざまな観点から同規模の他病院データと比較検討していかなければ、改善点が分からず、改善活動を進めることができないからです。

ナンバー2たちによる「経営改善会議」をスタート

 

北井氏:前職は福井大学医学部准教授でした。大学病院ではありましたが経営はひっ迫しており、毎月の経営会議などにも参加しておりました。物流管理部長も拝命し、病院経営全般の知識や流れ、細かな経営分析にも慣れ親しんでいました。

北井隆平(きたい・りゅうへい)氏
北井隆平(きたい・りゅうへい)氏:福井医科大学卒業。福井大学医学部脳脊髄神経外科准教授などを経て2019年に加賀市医療センターの脳神経外科部長。2022年4月から現職。

当院には2019年7月に脳神経外科の部長として赴任したのですが、その時の印象は「経営のことがあまり考えられていない」というものでした。現場に近い経営の会議もなく、職員が最低限知っておくべき経営の数字さえ知らないという状況。そのため赴任後しばらくして、清水先生に「経営に関する会議を開催したらどうか」と提案させていただきました。

経営改善会議を開催する上でこだわったのは、各部門のナンバー2を集めたことです。この考え方は、前職の大学の経営会議で取り入れられていました。各部門のナンバー1では意見を言いづらい空気になり活発な議論ができず、ナンバー2以下だと反発されてしまう。ところが、ナンバー2であれば現場で最も活躍し、現場の事情もよく分かっているので、しっかりと経営について議論するにも最適な立ち位置なのです。

いざ経営改善会議を動かしてみて思ったのは、統合前の2病院での独自ルールが色濃く残っているということでした。このようなローカルルールを見直していくのは、院内の職員だけでは難しい。そこでGHCのコンサルタントという第三者の立場から、「全国の病院のデータと比較した結果、見直した方が良い」と改善を促すと、スムーズに関係者の理解を得ることができました。

当初、個人的にはコンサルタントの活用には懐疑的でした。前職では主に大学の職員で改善活動をしていましたが、GHCのコンサルティングを通じて、大学病院と一般的な急性期病院における経営改善の手法はかなり違うということに気づきました。そういう意味でも、今ではコンサルティングを導入して非常に役立っていると感じています。

人財育成をメインにした3つの理由

――コンサルティングのメニューとしては、院内で経営改善を推進する人材を育成する「経営人財育成プログラム」をメインに置きました。何が狙いだったのでしょうか。

清水氏:大きく3つあります。

一つ目は、さまざまな職種の職員に「経営」の意識も持ってもらうことです。経営人財育成プログラムを走らせることで、経営の意識だけではなく、医療経済の仕組みも知ってもらう。そうすることで、経営のことは何でもトップダウンでやるのではなく、ボトムアップからでも経営にかかわれる環境ができます。そのような環境であれば、現場職員のモチベーションもあがります。

データ分析結果による提案事項と収支改善見込み金額
図表1:データ分析結果による提案事項と収支改善見込み金額(提供:加賀市医療センター)

もう一つは、院内のさまざまな業務への応用です。改善活動の結果をしっかりと数字で見える化し、数字に基づいて次のアクションに取り組むという姿勢は、あらゆる部署のあらゆる職種の業務にも通じることです。

最後に、多職種が集まって話し合うことが当たり前という風土を根付かせたかったということがあります。医療安全の観点から言っても、何か疑問があっても医師に指摘がしづらいというのはおかしい。日頃から多職種が集まり、どのような職種、立場の職員であっても、自由に発言ができる――。そういう訓練の場にもなればいいと考えました。

――プログラムの参加メンバーを集めるのにご苦労されなかったですか。

北井氏:最初のメンバーは募集人数20人に対して18人の職員がすべて自らの希望。上司からの命令で参加したという人は一人もいませんでした。

経営人財育成プログラムの参加者内訳(平均経験年数17年)
図表2:経営人財育成プログラムの参加者内訳(平均経験年数17年、図表提供:加賀市医療センター)

情報公開が改善の出発点

――かなり多くの手挙げがあったという印象です。問題意識をお持ちの方が多かったということでしょうか。

清水氏:そこまでは分かりませんが、やはり当院は2つの病院が統合して新設された病院なので、課題は至るところにあります。例えば、クリニカルパスの適用が極めて低いなど、それぞれのやり方が根強く残っているというような課題が、統合から8年経った今でも残っています。

北井氏:同じ診療科の同じ検査でA先生のパス、B先生のパス、C先生のパスというようなことがあるわけです。そうなっている理由をきいても、よく分からないものばかり。どの病院でも「自分のやり方が一番正しい」と考える医師や看護師はいます。それを否定するわけではないのですが、共通化できるところは共通化することで、関係する職員の労力は減ります。ですから、院長就任を機に、医局会などでパス整備の必要性を何度も繰り返し言い続けてきました。実際に手を動かすのはプロジェクトのメンバーたちですが、大きな方向性を示すのは、清水先生や院長である私の仕事です。

――院内の改善体制と、その中でのプロジェクトチームの役割について教えてください。

北井氏:先ほど述べた経営改善会議で議論した内容を、各部門のナンバー1が集まる「管理者会議」で承認を得るという流れです。当初は管理者会議の参加者たちが経営改善会議の存在を面白く思わないのではないかと心配しましたが、大きな反発はありませんでした。各部門のナンバー1とナンバー2の関係が比較的良好なことと、清水先生が目を光らせていることも影響しているのではないでしょうか。

プロジェクトチームのメンバーは、経営改善会議のメンバーとも一部被っていますが、プロジェクトチームが経営改善会議の議論に必要なデータをそろえ、月に1度、経営改善会議で議論しています。

経営改善会議で大切なことは、数字を明らかにし、何が問題なのかを考えることです。しっかりと情報開示をし、その数字を管理者会議のメンバーはもちろん、院内の多くの職員たちにも見てもらいます。中堅以下の職員にも情報を知ってもらい、そのことで何か反応があれば、経営改善の素質がある職員をあぶり出すことにもつながります。やはり情報公開が改善の出発点なのです。

コミュニケーション改善の場としても機能

数字に表れない部分でも、今回のプロジェクトの好影響が出ています。例えば、今回のプロジェクトチームで、非常にとっつきにくいと思われていた職員と一緒に仕事をすることになったのですが、次第にそのような誤解は解け、垣根なくさまざまな相談ができるようになりました。院内のコミュニケーション改善の場としても機能してくれたと思っています。

清水氏:今までは「こういうデータを出して欲しい」とお願いしても、すぐに出してもらうのが難しいという状況でした。プロジェクトチームのメンバーが、「病院ダッシュボードχ」のようなツールでデータ分析し、さまざまな課題を発見できるようになりました。改善活動を推進するための具体的な手法をマスターしてくれたことは良かったと思います。

経営人財育成プログラムの研修内容
図表3:経営人財育成プログラムの研修内容(提供:加賀市医療センター)

北井氏:先日もプロジェクトチームの会議に出席したのですが、「病院ダッシュボードχ」を使って必要なデータをすぐに出せるようになったメンバーの姿に驚きました。

――当社のコンサルティングはいかがでしたでしょうか。

清水氏:他のコンサルティング会社とは考え方や手法が違うのではないかと思います。GHCはDPCデータの半分くらいを持っていると聞いていますが、それだけのデータを使って、全国の病院と診療内容の比較をするというのは、とても自病院だけではできない。

院内研修会の様子
院内研修会の様子。この日は冨吉による「病院収益をあげるために、集患×単価向上」と題した講演会を行い、加賀市医療センターの経営改善を担う職員たちに向けて、実際のデータに基づいた症例数の増やし方と単価の上げ方を学んだ

北井氏:先ほども述べた通り、医療のコンサルティング会社のイメージが悪かったのですが、その印象はガラリと変わりました。GHCのコンサルティングは、はっきりと言うところは言うのだけれど、そこまで目立たない絶妙な立ち位置で色々とアドバイスしてくれるなという感想です。冨吉さんは声も大きいし、何かをやる時に押すところは押すのですが、反発が出てきそうだったりすると、すぐにスッと引くところは引くんですよね。その絶妙なバランスと、1か月に1回という訪問頻度も良いと思います。

清水氏:経営改善と儲けることは全く別物ですよね。大切なことは医療の質を担保することであり、求めているのは赤字にはならない経営改善をどうするかということなので。

――今後に向けて一言いただけますでしょうか。

清水氏:コロナの影響が完全になくなってからどうなるか。コロナ前と全く同じような環境に戻ることはないと思うので、その環境に対応できる体制を今からどれだけ整えられるかが重要だと思っています。

加賀市医療センターの外観
加賀市医療センターの外観

北井氏:今度の改定は医療保険の診療報酬、介護保険の介護報酬、障害福祉サービスの報酬の3つが改定される「トリプル改定」ですよね。かなり多くの解釈の問題が出てくると予想しています。そういう問題をコンサルティング会社に気軽に聞けるというのは心強いです。

――本日はありがとうございました。


冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。

菊池 将平(きくち・しょうへい)

コンサルティング部門コンサルタント。東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業。信州大学大学院医学系研究科医科学系専攻病態解析診断学修士課程修了。NTT東日本関東病院臨床検査部での臨床検査技師を経てGHC入社。DPC分析、コスト削減のほか、これまでの経験を活かした検査部門の分析などを得意とし、公立病院から民間病院まで、幅広い経営カイゼンに携わる。