2022年10月05日
病院名 | 社会医療法人財団慈泉会相澤病院 | 設立母体 | 民間病院 |
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エリア | 甲信・北陸地方 | 病床数 | 460 |
病院名 | 社会医療法人財団慈泉会相澤病院 |
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設立母体 | 民間病院 |
エリア | 甲信・北陸地方 |
病床数 | 460 |
コンサルティング期間 | 2013年~ |
Hospital Management - Consulting Services |
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経営環境の変化に対応できる強い組織をつくろうと、相澤病院(長野県松本市、460床)では「ビジョン推進達成制度」を2022年度に導入しました。この制度は、院内に174(同一法人の事業体を含む)あるすべての部署が3年後の自分たちのビジョンとそれを実現するための目標を設定し、達成を目指す仕組みです。年次の実績を踏まえて目標を修正することで、柔軟な対応が可能になります。医療制度が毎年のように見直される中、院内に「挑戦の風土」が芽生えつつあるといい、病院改革の大枠を決める経営戦略部では手応えを感じています(聞き手はグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)のコンサルタントでマネジャーの冨吉則行、コンサルタントの水野孝一)。
-相澤病院での経営改善の推進体制からお聞かせください。
相澤統括部長わたしたち経営戦略部の戦略企画室がある程度の方向性を打ち出し、院長・副院長・統括部長クラスで構成される経営会議などが最終決定します。
経営戦略部会には、わたしと村山副部長、武井室長のほか、広報企画室長、外国の患者さんの受け入れ計画をつくる国際課の課長、医療のICT化を担当するDX(デジタルトランスフォーメーション)推進室長と推進役、医療サービスセンター長を兼任する看護師、事務・戦略担当副院長らが参加しています。
それぞれの立場から上がった改革案を週1回検討し、経営戦略部として各会議・委員会に戦略の見直しを提案します。例えば新しい医療機器を導入するなら、広報の観点でどんな戦略を打ち出すかを話し合います。
-GHCからはどのようなコンサルティングを受けましたか。
武井室長データ分析は主に戦略企画室が担当しますが、人員に限りがあるので、GHCに月1回支援してもらっています。ほかの病院に比べて算定が少ない加算・指導料や管理料などの弱点を指摘してもらい、その後は我々が院内の調整をしながら改善を目指すイメージです。
GHCには、ベンチマーキングや情報収集などプロジェクトの一部に協力してもらうこともあります。例えば認知症ケア加算や入退院支援加算などを届け出て業務が定型化されると、振り返りを行う機会はなかなかありませんが、実際の算定状況を毎月報告してもらうことで、改善策を現場と話し合うきっかけになっています。
武井室長2021年には、「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)の改善を長期間支援してもらいました。看護必要度の基準は診療報酬改定のたびに厳しくなるので、それを維持するには詳細な分析が不可欠です。
2022年度に行われた看護必要度の評価票の見直しは、「モニタリング・処置等」のA項目から「心電図モニターの管理」が評価の対象から外れるなど、ドラスチックな内容でした。それによって大きな影響を受けた急性期病院もあるようですが、当院では問題なくクリアできています。早めに取り組んだ効果を感じています。
-病院の経営方針を決めるための分析ではいかがですか。
武井室長当院では現在、救命救急入院料を算定しているECU(救命救急治療室)の移転を計画しています。院内にはハイケアユニット(HCU)や脳卒中集中治療室(SCU)もあって、これらのユニットで治療が一段落した患者さんは、一般病棟や回復期リハビリテーション病棟へ転棟していただきます。
ECUの移転は、患者さんのそうした流れを整理してユニットや病棟の能力を最大限発揮できるようにするためで、患者さんのフローのデータをGHCに出してもらいました。
内視鏡手術の分析も助かりました。内視鏡手術は当院の得意分野の一つで、実績がありますが、最近は経鼻内視鏡や鎮静内視鏡への需要が高まっています。そこで、院内に実際、どれだけ需要があるのか調査してもらいました。
経鼻内視鏡や鎮静内視鏡に切り替えることで時間的な制約が生じるので、今のオペレーションのまま稼働できるかの見極めに必要な分析を2021年にお願いしました。数カ月単位で分析を進め、説得力のある報告を上げることができました。
相澤統括部長GHCとの毎月のミーティングでは、こちらが見落としていることに気付かせてくれます。GHCのコンサルティングは新しいことを次々提案するわけではなく、本来はこうあるべきだという「あるべき論」を示してくれます。我々では難しいそういう部分をカバーしてくれるのが助かります。
-相澤病院では2019年にも病棟再編を行いました。
相澤統括部長そうです。当時は患者さんの受け入れに当たって診療科ごとの専門性に偏り過ぎていた上に、病棟ごとの病床数が多くありませんでした。そのため、男女別の患者さんの受け入れが制限され、認知症がある患者さんの受け入れが難しい状況でした。
病棟再編に踏み切ったのはそれらの課題を解消するためで、▽診療科ごとの運営にこだわり過ぎず共有ベッドを増やす▽1病棟当たりの病床を増やす▽看護職員の総数は変えず配置を手厚くする―という方針を決めました。
ただ、現場を説得するには新規の入退院や転棟・転室が病棟ごとにどの程度あり、病棟を再編することで効率がどれだけ高まるかをデータで示す必要があります。
看護必要度の基準を維持できるかも課題でしたが、病棟によって業務量の大きな差が出るのは避けなくてはなりません。そのため、看護必要度の高い患者さんの数が病棟ごとにどう変わるかも院内のデータでシミュレーションし、GHCにアドバイスを求めました。
-相澤病院では、「ビジョン推進達成制度」を新たに導入したとお聞きしています。
武井室長そうです。当院では2021年まで、病院全体や部署ごとの目標を1年置きに設定していましたが、理事長と話し合い、1年ごとではなく、中期的な経営方針と部署ごとの目標を設定することになりました。そのための体制づくりを今、進めています。
中期的な経営方針を部署ごとにどう立てるかを村山副部長と相談し、「ビジョン推進達成制度」を導入することになりました。
-これはどのような制度なのでしょうか。
村山副部長ビジョン推進達成制度では、3年間の「ビジョン」と目標を部署ごとに設定し、達成を目指します。日本の医療制度は毎年のように変わります。そのため目標を毎年再設定し、振り返っていたら、次のことにすぐ対応しなくてはならずPDCAサイクルを回すのが困難です。それをうまく回すには3年くらいの幅が必要だという判断で、理事長の指示の下、2022年度から手探りで始めました
この制度の導入には、目標の設定に実効性を持たせる狙いもあります。目標の達成度を賞与にリンクさせると手に届く目標を設定しがちで、何かに挑戦しようとする雰囲気が生まれにくい風土になりかけていた印象がありました。
-まだ始めたばかりということですが、成果は見えていますか。
村山副部長
ポイントは、年次ごとの目標をどう数値化するかです。例えば、新しいプロジェクトの準備が必要なら1年目には全体の20%を、準備が整う2年目に70%の達成を追うようなイメージです。3年をかけて達成を目指すので1年間の目標よりも高い目標を設定することができ、部署ごとに設置された「推進担当者」が達成をサポートします。
各部署のリーダーはやはり手に届く目標を立てがちとなりますが、例えばわたしが目標設定に関与する場合は「もう少し上を目指そう」と提案しています。
3年後のビジョンや目標を設定するなら、自分たちの後任の育成も考える必要があるという声もあり、人材育成に配慮する風土は確実に醸成されつつあります。
-各部署がつくったビジョンはどのような内容ですか。
相澤統括部長わたしが担当する医療安全の部門のビジョンは、「病院全体に医療安全の風土を定着させる」です。そのための計画をつくり、目標を立てて達成を目指します。ビジョンは、ふんわりとしたものになることが多く、自分たちの組織を3年後にどうしたいかが分かるビジョンを描くように村山副部長を含む各推進担当者が指導します。
村山副部長わたしたちからすると、接点があまりなく、普段、どういうことをしているのかが分からない部署が結構ありました。リーダーがつくったビジョンを見てもイメージがわかず、修正を繰り返して具体化しました。
相澤部長が説明した医療安全部門のビジョンを例とすると、医療安全の風土が醸成されつつあるとすれば、具体的に何が変わったらビジョンに近づいたと感じるのかを明確にすることで数値指標を一緒に考えるというイメージです。
各部署のビジョンや目標は、事業計画とリンクするものも目立ちます。例えば内部疾患のリハビリテーション科では、慢性心不全の患者さんを継ぎ目なくサポートする仕組みづくりを掲げました。循環器内科も慢性心不全に着目し、在宅患者さんへの支援を充実させる方針です。
やることが大きくなると、部署単独での達成が難しくなります。企業の場合、部署採算を求めるような取り組みはセクショナリズムを強めかねないと指摘されますが、私が担当した相澤病院では他部署の協力が不可欠な目標を設定することが多いので、そういう弱点をカバーできると思います。
-この制度にはメリットしかないような印象ですが、課題はありますか。
村山副部長現場の努力をどう評価するかがポイントでしょう。ここを間違えるとスタッフの意欲を削ぎかねません。
相澤統括部長3年計画を立て、PDCAサイクルを各部署でうまく回せるのかが最終的な課題です。各部署の意識が変わって、村山副部長などの推進担当者の関与なしに部署ごとに目標を立てPDCAを回せるようになればこの制度の意義が出てくるでしょう。
-本日はありがとうございました。
冨吉 則行(とみよし・のりゆき) | |
コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。 |
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水野 孝一(みずの・こういち) | |
コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。 |
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