事例紹介

2022年01月17日

医師増員、外来に大なた 「結果として」II群に 姫路日赤病院が進める改革

病院名 姫路赤十字病院 設立母体 公的病院
エリア 近畿地方 病床数 560
病院名 姫路赤十字病院
設立母体 公的病院
エリア 近畿地方
病床数 560
コンサルティング期間 2006年~
Hospital Management - Consulting Services

姫路赤十字病院(兵庫県姫路市、560床)は、大学病院本院並みの診療機能を持つ「DPC特定病院群」への移行を2016年度に実現。その背景では、入院患者さんの早期退院支援や、外来医療の役割の明確化にいち早く取り組むなど、病院改革を進めてきました。医師数は8年間で50人、入院での診療単価は1.5倍に増えるなど、病院機能の強化は着実に高まりました。

医師の働き方改革と偏在解消、地域医療構想の実現を同時に目指す「三位一体改革」によって、院内での改革も正念場を迎えそうです。

今回は、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)と共に病院改革の先陣に立つ佐藤四三院長に、GHCのコンサルティングの強みやこれまでの歩みをお聞きしました(聞き手は、GHCマネジャーの冨吉則行、アソシエイトマネジャーの佐藤貴彦)。

佐藤四三院長(左)と冨吉
佐藤四三院長(左)と冨吉


■「仲良く、職場を明るく」が働き方改革

-医師の働き方改革をはじめ、偏在解消と地域医療構想の実現を同時に目指す「三位一体改革」が本格化し、病院の在り方も大きく変わりそうです。

「仲良くして働く場所を明るくする」。ラフな言葉を使えば、働き方改革はそれに尽きるでしょう。わたしがやってきたことはそれが全てです。医師の働き方改革や「三位一体改革」などと言われても、具体的に何をすればいいか恐らくイメージできない。

佐藤四三(さとう・しそう)氏
佐藤四三(さとう・しそう)氏:1979年東北大学医学部卒。岡山大学大学院医学研究科第一外科(現:医歯薬学総合研究科消化器外科)、日本赤十字社姫路赤十字病院を経て、2005年姫路赤十字病院第一外科部長、2011年同病院副院長。2012年岡山大学医学部臨床教授 、2013年から現職。専門は肝・胆・膵の外科疾患。

政府は、医師の偏在を解消させるために働き方改革を進めたいようですが、それが現場にとって何を意味するのか。実は非常に切実です。働き方改革を成功させた急性期病院には医師が自然に集まり、失敗したら機能を維持できず、慢性期に移行せざるを得ない。医師の派遣を大学に頼って乗り切れる話ではないし、ただの病院に医師を養成することなどできません。病院の機能分化はそうやって進むわけです。

ただ、今のままでは医師の偏在は解消できないでしょう。大学が医師を派遣する先の、最前線のわたしたち病院が変わらないと。それが結局、地域医療構想を実現させることになる。

-「あなたの病院は、がんはやめて肺炎だけカバーしなさい」と強引に転換させるだけでは、地域医療構想は実現しない。

それでは駄目でしょう。医師や医療従事者を集めて初めて医療を提供できるわけですから。

■講堂をつぶして入退院支援センターに

脳神経外科や整形外科の定期入院では、急患は別として退院日と転院先を入院時に決めるようにしました。診療報酬の入退院支援加算が評価する早期退院のはしりだと思います。2階にあった講堂をつぶして入退院支援センターをつくり、薬剤師や管理栄養士、歯科衛生士、臨床検査技師、リハビリスタッフを早い時期から配置しました。そうして体制を整え、入退院支援に近いことを外科からスタートしたのです。

現在の入退院支援センターの一室
現在の入退院支援センターの一室

当初は診療報酬を算定できませんでしたが、加算が後からついてきました。わたし自身、当時は部長として夜遅くまで働いていました。深夜0時過ぎまで外来で診察していたこともあります。医師以外ができる業務を他職種にシフトする必要性を強く感じていました。

-深夜まで外来診察ですか。

そう。患者さんは皆、文句も言わずにお待ちくださいました。手術室は午後5時以降もフル稼働。医師の業務負担を少しでも軽くするため、医師でなくてもできる業務は他職種にどんどんシフトしました。入退院支援もその一環です。その結果、平均在院日数は8日台に短縮できました。

-よほど優秀な回復期の病院が近くにないと入院期間を平均8日台にまで短縮させるのは難しいのではないかと思います。

優秀なリハビリテーションの病院が近くにありますが、そこには患者さんが集中していつも満床です。ただ、自分たちでリハビリまでカバーするのは無理なので、連携で対応するほかない。そのため、急性期の治療が一段落して引き続きリハビリが必要な患者さんは回復期の病院にどんどんお願いしています。それによってリハビリ医療のレベルを地域全体で底上げできれば、われわれも楽になるでしょう。

医療連携の基本は、患者さんにとってもわれわれ急性期病院にとっても、連携先にもメリットがある「三方良し」が基本です。それなしに連携などできるわけがありません。

■「具体策の落とし込み」こそポイント

-GHCのコンサルティングを導入したきっかけは何だったのでしょうか。

当時のことは詳しく知りませんが2006年、DPC対象病院になったのと同じタイミングでコンサルティングを依頼したと聞いています。

DPC制度に参加するメリットは、同規模の病院の中で自分たちがどの程度の位置にいるのかを客観的なデータで把握できることです。大切なのは、感覚で改善策を決めるのではなく、医療のプロセスやアウトカムをそれらのデータで数値化して課題を「見える化」してくれることです。自分たちの課題が見えなければ何も始まらない。GHCが毎月作ってくれる報告書のデータは、医療の改善策を考える大切な材料になりますし、病院の運営方針を院内外に理解してもらうための不可欠な要素です。正しい材料がないと、正しい判断やかじ取りなどできないでしょう。

-GHCのコンサルティングを利用し続けてくださるのはなぜでしょうか。

客観的なデータを根拠に病院運営の方向性を決めることはわたしにもできます。ただ、現場が具体的に何をすべきなのか、それを踏まえて落とし込むのは簡単ではありません。そこをカバーしてもらえるのは助かります。

もう一つは、それを基に具体策を現場に落とし込んでくれること。われわれが何をすべきか、どのコンサルタントもアドバイスの内容は恐らくそれほど変わらないでしょう。ただ、経営を改善するために新患を増やす目標を立てたとしても、そのために現場がすべきことが分からないと意味はありません。例えば、連携強化の結果として新患が増えるわけで、患者さんを増やすこと自体を目標にしても、何も始まらない。いちばん重要なのはそこだと思います。

■受付前にトリアージ、外来に“関所”

-これまでに進めてきたプロジェクトの中で印象的なものは何ですか。

わたしが2013年に院長になって、最初に始めたのが外来の運用見直しです。軽症の外来患者さんはどんどん逆紹介するようにしました。

もう一つ、病院を受診すると、患者さんは受付にまず行くのが普通ですが、うちではその前に、われわれの診察が必要かどうかをベテランの看護師がトリアージします。うちで診る必要がなければ、代わりの受診先を紹介する。医師や看護師など医療従事者の仕事が多過ぎたから、外来にいわば“関所”を設置したわけです。

外来運用の見直しをやり切った背景と経緯を語る佐藤院長
外来運用の見直しをやり切った背景と経緯を語る佐藤院長

紹介状なしに大病院の外来を受診した患者さんから定額負担を徴収する仕組みができたりして、外来医療の役割分担の考え方が今でこそ浸透しました。ただ、当時はトラブルも相当起きて、「患者さんを追い返すとはどういうことだ」と開業医の先生にお叱りを受けることもありました。

-それでもやり切った。

やり切りました。うちで診る必要がないなら、ほかにお任せするというのがわたしの考えです。かつては深夜まで外来を診ていたと話しましたが、そうでもしないと変わらない。ただ、そうした決断は院長にならないとできません。外来では、今でも1日に1,300人-1,400人を診ていますが、午後6時にはほとんど終わっています。

■8年間で医師50人増、診療単価1.5倍

-2016年度には、「DPC対象病院II群」(現在のDPC特定病院群)に移行しました。

II群になれればいいとは思っていましたが、実際は結果としてなっただけです。ただ、GHCはいろいろな案件でアドバイスしてくれました。

-II群への移行を実現させた最大のポイントは何でしょうか。

心臓外科をはじめ、脳神経外科、外科、内科、循環器科、呼吸器内科、外科、緩和医療内科などで医師を集めることに成功したことでしょう。わたしが院長になったころ、うちの医師数は150人ほどでしたが、今では200人ほどに増えました。

佐藤院長就任から医師が増員(地域連携パンフレットより)
佐藤院長就任から医師が増員(地域連携パンフレットより)

患者さんも増えました。退院患者数は、2006年ごろは月1,000人ほどでしたが、今は1,500人ほど。1.5倍に増えた計算です。診療単価もこの間に1.5倍に増えました。

総合病院を標榜しながら、当初は医師が少なく、手術もそれほどできていませんでした。だから、医師を集めるためにいろいろなことをやりました。心臓外科も新設しました。ほかの病気に心臓病を併発していることが術前検査で分かると、そちらをまず治療しなければ手術もできません。

だから、心臓外科が院内にないと、ほかの病院にお任せするしかない。患者さんにとっては、「総合病院なのになぜここで治療できないのか」とお感じになるでしょう。これでは総合病院とはとても言えません。そこで、医師を集めてチームを立ち上げて設備も新たにそろえました。

ただ、トラブルを避けるため、1年間は手術を一切させませんでした。医師以外のスタッフにはいろいろな病院で連日研修を受けさせました。

■外来単価が特定病院群トップクラスに

-データを見ると、姫路日赤病院は全国に160カ所近くあるDPC特定病院群の中で、外来の単価と医師1人当たりのがん外来診療数がトップクラスです。

ただ、1,500円未満の外来症例も多いので、その部分をこれからどこまで絞り込むかです。医療従事者の意識改革を地域全体で進めて、外来診療の役割分担をさらに進める必要があるでしょう。

-そのためには、院内だけでなく地域への発信も欠かせないですね。

そうです。地域包括ケアシステムを機能させるためにわれわれ基幹病院は、介護施設や福祉施設、行政などいろいろなプレイヤーと連携する必要がある。ただ、地域の基幹病院が同じ考え方で同時にスタートすることなどできるわけがなく、それぞれの病院がそれぞれの考えで試してみて、ある程度課題が見えてきた時点で、地域全体で対応を話し合うべきだというのがわたしの考え方です。

同院の外観
同院の外観

そのためにわたしがいつもアピールするのが、日本医療マネジメント学会が養成している「医療福祉連携士」(詳細はこちら)の活用です。医療・福祉分野で連携を推進するためのノウハウを身に付けたエキスパートを各病院の地域連携課に配置して情報共有すれば、地域包括ケアシステムの整備に大きく前進するでしょう。

-最後に、GHCのコンサルティングに対する感想をお聞かせください。

客観的なデータを使って、現場に対して医療の改善を的確にアドバイスしてくれていると思います。

-本日はありがとうございました。



冨吉 則行(とみよし・のりゆき)

コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。