2008年09月06日
全がん協の生存率公表は、あくまでもスタート
群馬県立がんセンター●手術部長・がん登録室長 猿木信裕先生 昨年10月、全国がん(成人病)センター協議会が、胃がん・肺がん・乳がん・大腸がんにおける施設別の5年生存率を、施設名を明らかにした上で公表しました。現在、全がん協加盟施設のうち、15病院が公表に同意し、ホームページ上に部位別の生存率を掲載しています。この前例のない画期的な取り組みは、新聞等の一般メディアで大きく取り上げられましたが、実は公表までには3年の年月を要したそうです。
今回は、厚生労働省がん研究助成金「地域がん専門診療施設のソフト面の整備拡充に関する研究」班の主任研究者を務め、生存率公表に向けて準備を進めてきた、群馬県立がんセンターの猿木信裕先生に話をうかがいました。
――準備期間に3年を要したのは、数字だけが先走ったり、ランキングにつながったりといった、公表後の影響を懸念されてのことですか? データの精度がまだ揃っていなかったということですね。数字の裏、背景を表すデータまで公開しなければ、意味がないわけです。これまでにも自院のホームページ上に生存率を掲載していたり、いわゆる“ランキング本”で一覧表示していたりしますが、背景を示すデータがありません。たとえば早期の患者が多いため生存率が高くなっているのかもしれないですし、生存率の数字だけ見ても判断できないわけです。
ですから、今回、全がん協で生存率を公表したのは、公表モデルを示すことが目的の一つでした。特に宮城県立がんセンターの公表の仕方が、一番のモデルになると思います。
――公表に至るまでには、全がん協の内部でもやはり反対の声もあったわけですよね? そうですね。反対というよりも時期尚早ということでした。実際、公表までに3年間かかりましたが、それまでデータ精度の向上を各施設にお願いし、ホームページの原案を作成して、理解してもらいました。
今回、全加盟施設のデータを一斉に公開するのではなく、基準を満たした施設のうち、同意を得られた施設のみ、公開するという形式をとっています。現状、追跡率90%以上、病期判明率60%以上、症例数100例以上を基準にしていますが、まだまだ甘い。また、それぞれの病院のデータが本当に正しいのかは、データを作成している病院でなければわからないというのも事実です。
――そもそもがん登録の取り組みはずいぶん前から言われていて、1981年には全がん協でマニュアルも作成されています。にもかかわらず、なかなか取り組みが進まなかった理由は何なのでしょうか?義務になっていなかったということですね。がん登録のデータを整備するには、かなりの労力が必要です。がん診療連携拠点病院の指定要件として義務化され、また毎年、補助金が出るようになって、ようやく浸透してきたというわけです。ただ、生存確認調査(予後調査)の仕組みはまだ確立されていません。5年生存率を出すには、5年後の患者さんの生死状況を確認しなければならないわけですが、近年、がん登録を始めた施設はその大変さをまだ十分理解されていないと思いますので、今後、大変かもしれません。
――今後の目標について教えていただけますか? 昨年、ホームページ上で公表したのは、「モデルをお示しした」というスタートにすぎません。ただ、公表後、院内の情報の精度を上げようという取り組みを始めた病院もあります。ホームページに明記させていただいた公表指針に従った形式での開示が、今後、がん診療連携拠点病院、そして全国の病院へと広がっていくことを期待しています。またがん登録のデータが診療の質をはかる指標と結びつくことにより、がん医療の質の向上に結びつけばいいなと思います。
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広報部 |
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