2009年12月09日
「医療は医学の中だけでは語れない」――参議院議員・古川俊治氏
参議院議員(埼玉県区選出) 医学博士・弁護士・慶應義塾大学教授
古川俊治氏
医師であり、弁護士であり、MBAホルダーでもあるという、多彩な側面を持つ古川俊治氏。2007年7月の第21回参議院議員通常選挙、埼玉県選挙区で当選し、今では参議院議員としてご活躍されています。
なぜ、このようなご経歴を歩むことになったのか。その根底には「いい医療を実現したい」という変わらない思いがありました。
――ご経歴を拝見させていただきましたが、医学部をご卒業して外科医として勤務されながら、慶應義塾大学の文学部、法学部をご卒業されていますよね。しかも弁護士資格も取っていらっしゃいます。これまでに何度も聞かれたことかと思いますが、なぜ、このようなご経歴をたどられたのですか。医療というのは医学の中だけでは語ることはできません。患者さんの人生観、価値観、人間観にかかわることなので、医学の中だけでは対応できないと感じて、そういった基本的なことを学ぶために、医師になって3年目のときに通信教育で慶應義塾大学の文学部に入りました。そして倫理学、社会学を学びました。ミッシェルフーコーについて書いた卒業論文は、本にもなりました。それだけ熱心にやっていたんです。
一方で、臨床も研究も積極的に行っていましたので、20代後半はまさに仕事と勉強に没頭していましたね。
そして次に法律を学んだわけですが、それは医療をやっていく上でやはり患者さんの権利の問題にぶつかるからです。当時は、ちょうど臓器移植が話題になっているころでしたが、臓器移植の問題は、医療と倫理、法律の三者を知っていなければ十分な議論が出来ない。そこで、倫理・社会学だけでなく、法律の勉強も始めて、さらに弁護士資格も取りました。司法試験の勉強は、1年だけで最初から決めて、外科医として手術を行った後で、夜9時ころから深夜の1時ころまで勉強する毎日でした。休日はすべて勉強に費やしていましたね。すでに子どもがいて、一年以上の継続は無理でしたので、集中して勉強をして、周りからは「史上最短勉強時間での合格」といわれました。
――すごいですね。そこまでのモチベーションはどこからきているのでしょうか。医学を前向きに活かしたかったんです。社会学も医療をよくするために学んだものであって、あくまでも目的は医療。患者さんにとって充実した医療を実現するためには、医学の中だけでは解決できない問題があるので、他の必要な領域を専門的に学ばなければいけないという発想だったのです。
司法試験に受かった後、2年間、司法修習生として実務を積みましたが、お金を儲けたいというわけでは決してなかったので、弁護士登録を行った後にまた医療の世界に戻りました。
そして取り組んだのが、低侵襲性医療です。患者さんにやさしい手術を行うということ。
ところが現場に戻ると、今度は、いい医療を考えるには、社会学、法律だけではなく、経済、経営もかかわってくることを痛感して、MBAを取得したんです。さらに、いい医療のためには、経済の問題だけではなく、最終的には制度を良くしなければならない、と感じて政治家になりました。
ですから、「いい医療を実現したい」という思いは一貫しています。
――今、政治家としてご活動されるなかで、日本の医療のあり方、制度のあり方をどのように変えるべきだと思いますか。今の日本の状況を考えると、多少は国民にご負担をしていただかなければ医療は成り立たないわけです。そのことをどう説明して、納得していただくか。
やはり医療費はもう少し底上げしなければいけないでしょうね。また、機能分化を行って、各種の病院と診療所などの役割をはっきりさせていく。そして、診療報酬の分配の仕方、ですね。病院の医療に、もう少し評価を厚くした方がいい。ただ、下手に診療報酬で誘導すると、大変なアンバランス、歪みが生じます。
たとえば、小児科や産科、救急医療に非常に手厚い配分をしたとします。そうすると、他がおろそかになる危険性があります。単に不足している分野に厚くするという観点ではなく、全部の疾患に対応できる環境がなければいけない。そのためには、それぞれの疾患体系の中で、患者さんにQOLに真に役立っている治療を評価するような、適切な診療報酬体系を考えていかなければいけません。そして、医療提供者がしっかり学んで技術を上げる余裕を持てるような報酬体系を考えなければいけないですよね。経営が大変というのでは、技術以前の話ですから。
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広報部 |
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