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2010年01月06日

ユーモアの気持ちを持つということは、場の空気を考えるということ

有限会社プレジャー企画 代表取締役、NPO法人日本ホスピタル・クラウン協会 理事長 大棟耕介 氏



日本ホスピタル・クラウン協会理事長の大棟耕介さんのインタビュー、後編です。 (前編は、こちら


――ホスピタル・クラウンの場合、通常のショーとは違って、より個人と対峙する形ですよね?

理想は1対2です。 1対多、1対2、1対4など、いろいろなパターンがあります。同じ1対4でも、立ち位置によっても変わるんですね。4人の真ん中に立てば360度気にしなければいけません。 ただ、1対1はなるべく避けるようにしています。というのは、1対1というのは、お互いに対立してしまう形なんです。ファイティング体制のようなもの。そういう意味で1対2だと、三角形になるので安定します。間を作ることができるし、力を逃がしあえるんです。 また、物理的な立ち位置だけではなく、心理的な立ち位置もあります。たとえば、クラウンは“下に潜る”ことが得意。僕はプロのクラウンですし、世界大会で金メダルを取ったこともあるので、もちろん技術はあります。でもあえて、失敗したり、相手に教えてもらったりと、“引き”のパフォーマンスをすることで、相手が元気になるようなコミュニケーションを進めることができます。これは、スキルだけではなく、知識や経験も揃っていないとダメなんですね。

――ほかにも気をつけていることはありますか?

やりすぎない、ということです。腹八分目くらいで出る。「つづき」を残すんです。ホスピタル・クラウンの活動では、定期的に病院に通います。でも、僕らがいるときには楽しいけれど、いなくなったら寂しいという状態になったら意味がありません。僕らが帰ったあとに、4人部屋であればそれぞれのカーテンを開けさせることができたり、子どもと親の関係がよりよくなったりすればいいなと思うのです。たとえばカラフルな風船をぽんと置いていくだけでも、僕らが帰ったあとにも余韻が続きますよね。

――そういったスキルや知識は、患者さんと接する医療者も学ぶべきところがありそうですね。

ただ、医療者はやることがたくさんありますからね。最優先すべきは、当然、医療技術を磨くこと。その上で余裕ができたら、患者さんとのコミュニケーションのとり方ももっと考えていただければいいのではないでしょうか。といっても、みなさん、本当に忙しく働いていらっしゃるので、僕がえらそうにいえることはないのですが…。 言えるとすれば、ユーモアの気持ちを持つということは、場の空気を考えるということ。そして、知識や技術、検査などの数値データのみに頼ると、患者さんの表情や声の調子、会話から情報を取れなくなってしまいます。これはクラウンでも同じですが、技術的にゆとりができれば、その分、相手を観察することができるようになるわけです。

――今、ホスピタル・クラウンの活動は、NPO法人として、クラウンのエージェント会社であるプレジャー企画とは分けて行っていますよね。

本当は通常法人でやりたいとは思っていますが、現状、無償で訪問しているので別会計にしているんです。寄付を募ったり、企業さんから応援していただいたりしていますが、年間800万円もの赤字があります。 ただ、ボランティアという言葉は使わないようにしています。あえて「ゼロ円の仕事」と言っているんです。ボランティアというと、やる側も受け入れる側もお互いに甘えが生じてしまうでしょう。やる側もプロ意識に欠けるし、病院側も受け入れ態勢が甘くなってしまう。

――今はどのくらいの病院で活動をされているのですか?

北海道から鹿児島まで35病院を定期的に訪問しています。来年度には、56病院にまで増える予定です。訪問先の先生たちが法人会員になってくださったり、看護師さんが個人的に賛助会員になってくださったりもしていますが、ゆくゆくはお金をいただいて訪問する形にシフトしたいとは思っています。公的病院であれば予算に組み込んでいただいたり、民間の病院であれば院内環境をよりよくするために「お金をかけてでも導入したい」と考えていただければ嬉しいですね。 ただし、そのためには、お金を払ってでもきてもらいたいと考えていただけるように、僕らが確実にスキルをあげなければいけません。お金ありきではなく、スキルをあげることが先ですね。

――今後、ホスピタル・クラウンの活動は、今後、より拡大されるんですね。

それだけニーズがあるので。語弊があるかもしれませんが、正直なところ、病院にいきたいと思ったことはないんです。子どもたちがいるからパフォーマンスをするというだけ。 ただ、ホスピタル・クラウンをやっていてよかったと思うことの一つが、すごく丁寧になること。クラウンとして1対2、ときには1対1で向き合うので、極限に丁寧にならざるを得ない。ショーのような華やかなものとは180度違う、ゆっくり丁寧にやることが求められる場。そういう意味では非常にいい経験の場にもなっています。




日本ホスピタル・クラウン協会  http://hospital-clown.jp/

プレジャー企画  http://www.pleasure-p.co.jp/

大棟耕介氏オフィシャルホームページ  http://www.pleasure-p.co.jp/ohmune/index.htm



広報部
広報部

事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。