GHCブログ

2010年02月15日

DPCデータの活用で独りよがりな考えを排除――福岡済生会総合病院・岡留院長【前編】

社会福祉法人恩賜財団済生会済生会福岡総合病院●院長 岡留健一郎先生


1998年に院長職につき、今年で13年目を迎える、済生会福岡総合病院院長の岡留健一郎先生。病院の核であるチーム医療を推進するには、全職員が共通の価値観を持つことが大切と説きます。そして、そのために先生が重視されているのが、人材育成と情報の共有化。 病院のトップとして13年間走ってきた今、「ようやくベースができあがり、これからは発展」と話す岡留先生に、どのようにベースを築いてきたのか、そして今後、どのように発展させていくのか、うかがいました。 (前編・後編にわけてお届けします)

――2006年からDPC対象病院になり、GHCはその約2年後からかかわらせていただいています。

DPCデータを活用することによって、無駄がなくなりました。もともとクリニカルパスを導入して効率化と標準化に努めていましたが、DPCデータでベンチマーク分析をすることで、自院が他の病院と比べてどの辺にいるのか、客観的に把握できるようになったことは大きいですね。 データを使うことで、独りよがりな考えがなくなるわけです。

――DPCデータを活用する場合、分析結果を現場にフィードバックする、情報を院内で共有することが、改善がうまくいくポイントの一つです。先生は、以前から院内全体で情報を共有することを、組織を運営する上で非常に重視されているとうかがいました。

皆で情報を共有するということは、共通の価値観を生み出すということなんです。なぜ、共通の価値観が大事かというと、病院はチーム医療で成り立っているからです。チーム医療を行ううえで、情報を皆で共有できていれば、動きがシンプルになります。複雑な動き、無駄がなくなり、安全面の向上にもつながります。

――情報共有の仕組みとして、院内LANを活用されているそうですね。

そうですね。特に、各委員会での議事録はすべて院内LANから誰でも見ることができるようにしています。幹部会の報告や各セクションの運営会議など、すべての議事録です。こうしたものを読んでもらうことで、今、病院の中でどんな課題があり、どういう方向に進んでいこうとしているのかということを全員で共有しています。すべてを口コミで伝えることはできませんので、情報源は院内LANしかありません。今、65%程度の人がちゃんと見てくれているようです。

21世紀の病院経営のキーワードとして、よく挙げられるのが、チーム医療、安全、患者中心、情報公開です。私はこれらに加えて人材育成も非常に重要と考えています。組織は、「これでいい」と現状に満足した時点で、発展が止まります。新しい人材を発掘し、トレーニングを積む。この繰り返しが必要です。病院は人の集まりですから、特に人材育成が重要です。 私がそう考えるようになったきっかけは、ドラッカーの言葉でした。彼は、病院は非営利組織であると言いうんですね。ある程度の利潤はもちろん必要ですが、むやみやたらに儲ける必要はない、と。非営利組織とは何かというと、一つの大義のために組織全体で動くということ。それを実現するには、やはり共通の価値観が必要。そして、それを理解できる人材を育てるということが非常に大事だと私は思っています。独りよがりの判断をする人にはとにかくなってほしくない。組織を念頭に置いた動き方をしてくれ、と常に伝えています。

――先生は医師の行動基準として3つの指標を掲げているそうですね。①病院全体の動きを把握した上での診療科の方針設定・実践、部下をまとめる統率力といったマネジメント実践能力、②チーム医療の推進や診療録の適切な記載といった基本行動、③組織人としての基本行動――という3つですが、求めるハードルは高いですよね。

ええ、高いです。こういうことをクリアしてほしいという私の願望が含まれています。

――そうした人材を育成する仕組みはどのようにされているのでしょうか。

まず、各セクションで勉強会を行っています。その際には、どういう希望があるのかを拾い上げて、そのニーズに似合う講師を全国から呼んでいます。どんどん交流してもらって、参加者全員に感想を聞き、次に生かします。そういう一つひとつの日々の積み重ねが大事かなと思うんです。

――医師には多面評価も導入されているんですよね。

55名の年俸者を対象に導入しています。個人評価では、個人の感想に左右されてしまいます。ですから、一人の医師に関与する、看護師、コメディカル、事務部門も含めて、50~60人が評価を行っています。より多くの方が評価することで、客観性を担保しています。そして医師同士は評価しません。好き嫌いがはっきりしていますから(笑)。 また、評価基準が大事ですので、評価者には事前に「どういう基準で評価を行うか」というレクチャーを行っています。好き嫌いで判断しないでほしいので、そういう感情が少しでも含まれるのであれば「ND(Not Determined)」で提出するように伝えています。 評価項目は、先の3つの行動基準を基に、11項目ほど。 来年で導入開始から5年になりますので、看護部門の管理職にも広げていこうかと考え中です。


~後編では、地域連携や先生ご自信のモチベーション維持の秘訣について語っていただきました~

広報部
広報部

事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。