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2010年07月12日

病院単位ではなく、地域単位でがん患者を診る――愛知県がんセンター中央病院 病院長 篠田先生

愛知県がんセンター中央病院・篠田院長 愛知県がんセンター中央病院 病院長 篠田雅幸先生


愛知県がんセンターのホームページをのぞいてみると、画面上部に「がんの知識」、「診療実績」といった項目があります。「がんの知識」は、その名の通り、各種がんに関する基礎知識や予防法、Q&A、国内外の学会で同院が発表した内容などを一般の方にわかりやすい言葉でまとめたもの。そして、「診療実績」では、がん種別に全国平均と比較した5年生存率や、ステージ別の5年生存率、ステージ別の症例数など、いわゆるアウトカムの情報を公表しています。このほか、今年7月からは、新たに「手術までの待機時間表」の掲載も始めています。 積極的に情報公開を行っている愛知県がんセンター中央病院の病院長・篠田先生に、医療における情報公開にあり方についてご意見をうかがいました。

――診療実績やがんに関する知識など、ホームページ上で公開されていますよね。病院と患者さんとの情報格差が広がりがちななか、情報を公開・発信することを非常に大切にされている印象を受けました。

そうですね。他の医療機関でも、実績などの情報を公開しているところは増えています。ただ、各病院がホームページで語っていることを第三者的に評価する仕組みが、今の日本にはまだありません。そして現状では、どのサイトを見ても、出てくる情報は似たり寄ったり。 一方で、がん医療に関しては、残念ながら、施設間で格差があるのは事実です。ところが、患者さんにとっては、それを見分ける術がありません。がんのアウトカム指標というと、5年生存率が代表的で、そうした情報を出しているところもありますが、本来は、その背景を説明しなければ比較することはできません。そしてそうしたベースラインを揃えなければ、数字だけが一人歩きして、患者さんは惑わされてしまうのではないでしょうか。一般の方へ適切な情報を発信していくための方法論は今後の課題です。

――いわゆる“ランキング本”では、症例数で比較していることが多いですね。

症例数の多さで医療の質の全てを語ることはできないのですが、されど症例数…といいましょうか。患者さんとしては、経験の少ない病院よりも、症例数の豊富な病院に行きたいと思うのは自然なことでしょう。ただ一方で、そうした病院は、患者さんが多い分、治療までの待機期間が長くなるというジレンマを抱えることになります。特定の病院に対応できないほどに患者さんが集まってしまったとしても、一施設でそのような状況をカバーするためのインフラ整備は容易ではありません。 最近感じているのは、病院単位でがん患者を診ることが、果たして正しいのか、ということです。そうではなく、地域で診る、ということを考えていくべきではないでしょうか。

――国は、「均てん化」をキーワードに掲げていますね。

どの施設を受診しても患者さんが不利益を被らないように、それぞれの医療機関が良質な医療を提供するための機能を向上させていかなければいけません。 私たちが行っているCQI(Cancer Quality Initiative)研究会のゴールは、まさにこの点にあります。複数のがん診療連携拠点病院が任意で集まって、DPCデータやがん登録データなどを活用したベンチマーク分析を通して、施設間で医療の内容にどのような違いがあるのか、ディスカッションを行っています。日本の医療界には、ピアレビューの習慣がありませんが、CQI研究会では、施設名をオープンにした上で、相互の医療内容をフランクに評価し合える環境ができています。 同じような規模や機能を持った病院が近くにあっても、意外とその具体的な医療内容は知らないものです。また、医療は、自分たちはこうしているという独善に陥りやすく、因習も引きずりやすい。それを打ち破り、標準化を進める手法がベンチマーク分析ですし、それにより自らの立ち位置を知ってもらうことが「均てん化」に向けた第一歩です。


愛知県がんセンター中央病院 〒464-8681 名古屋市千種区鹿子殿1番1号 病院長 篠田雅幸先生 病床数 500床



★関連バックナンバー 2010年6月16日:医療マネジメント学会ランチョンで、CQI研究会の取り組み紹介

広報部
広報部

事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。