2010年12月10日
オバマの医療改革実現は、増税とコストカットがカギに?――「医療経済学を語る」Vol.1
8日(水)、米国の医療経済学者2名を招致し、「医療経済学を語る」と題した講演会を開催いたしました。日頃から親交のある方々を招待させていただきましたが、全国から多くの方々にお集まりいただき、活況におわりました。ありがとうございました。
招致した米国医療経済学者は、アキよしかわのスタンフォード大学時代の教え子であり、20年来の友人でもある、ジェイ・バタチャーヤ(Jay Bhattacharya)氏(スタンフォード大学医学部経済学科准教授)、ビル・ヴォート(Bill Vogt)氏(ジョージア大学経済学部准教授)です。二人は米国を代表する気鋭の医療経済学者として活躍しています。
この講演会では、米国の医療経済学者がオバマ政権の医療改革をどのように評価しているのか、そして彼らが日本のDPCをどのように捉えているのか、フランクに語ってもらいました。日本の政策提言や診療報酬の見直しを行う上で、医療経済学の分析手法は今後も重要性を増すものと考えられます。
まずは、ジェイ氏の講演を紹介します。ジェイ氏は、「米国における医療制度改革の現在」と題して、医療制度の違いや現在取り組まれている医療制度改革について紹介してくださいました。
米国では、日本と違って皆保険制度が採られておらず、一部に公的医療保険制度(高齢者向けのメディケア、低所得者向けのメディケイド)が用意されているのみで、一般的には民間保険に加入した上で医療を受けています。そのため、貧困を主な理由として健康保険に加入していない人が多く、適切な医療を受けられないなどの医療問題が顕在化しています。オバマ大統領はこの問題に対し、大統領選挙中から公約として皆保険制度の導入を目指してきました。
現在、オバマ大統領が進めようとしている医療制度改革がめざしているのは、主に次のようなことです。
・3500万人の無保険者の保険加入
・保険市場の適正化、再構築
・州政府、連邦政府両方の医療に関する財政問題解決
これらの実現のためには、当然ながら財源の確保が問題となり、「メディケアのコストカット」、「高収入者に対する増税」、「特定の医療行為や薬剤に対する増税」、「雇用者の医療費負担の義務化」が解決方法として考えられているそうです。
「連邦政府として、増税とコストカットに大なたをふるえるかどうかが大きな分かれ目」とジェイ氏は指摘します。
オバマ大統領の目指す医療改革を実現するには、大規模増税、大幅な医療のコストカット、製薬会社や医療機器会社への規制強化が必要となりますから、国民に容易に受け容れられるものではありません。しかし、増税とコストカットが進まない場合は、医療費の増大から政府の赤字は一挙に膨らみ、3,500万人の無保険者の保険加入を達成することは困難になるでしょう。
現在、オバマ大統領の支持率は下降線を辿り、皆保険制度にも逆風が吹いている状況をふまえ、ジェイ氏は医療経済学者の立場から、「現状を見る限りでは、すべてを実現するのは困難だと思う」としつつも、日本の皆保険制度を例に上げ、実現の糸口はあるはず、とも。
日本では皆保険が当たり前で普段は気にもしていませんが、こうした話をうかがうと、世界に誇る優れた医療制度であることに気づかされます。
「今後GHCとともにアメリカ及び日本の医療を取り巻く状況を分析し、両者にとって適切な医療政策を実現するためのヒントを得ていきたい」と、これからの展望について語ってくださいました。
次回はVol.2として、ビル氏の講演をお伝えします。
広報部 |
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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