2021年03月25日
ここ最近、病院にも「経営企画」部門の新設が増えています。“経営陣の懐刀”とも言える経営企画は、病院の事務方の中でも経営陣に最も近い花形ポジションの一つです。本稿では、1から学ぶ「経営企画」入門として、その目的と仕事・業務内容、必要な基礎知識、求められる素養・スキル、それらに紐づく主な課題、改善事例などをご紹介します。
Contents
みなさんは「経営企画」と聞いて、まず何を思い浮かべるでしょうか。
・院長や事務長の“影武者”として現場と伴走している
・昼夜データと向き合い、改善点を探している
・膨大な資料を読み込み、院長や事務長のプレゼン資料を作成している
上記以外も含めて、人それぞれさまざまな印象を持っているかと思います。それもそのはずで、経営企画ほど、病院によって業務内容や意味合いが異なる仕事はありません。
ただ、いずれも共通しているのが、「病院の経営や運用の改善」をゴールにしていることです。ゴールは一緒なのですが、病院のリソースや地域の状況などによって、そのゴールへたどり着く方法が異なります。経営陣の意向なども大きく影響します。そのため、経営企画に多種多様な印象を持つ人が多いのでしょう
上記の通り、経営企画の役割・体制は、病院ごとに独自色が強すぎます。そのため、実際に現場の経営企画を担う担当者が「他の病院の経営企画がどのようなことをやっているのか知りたい」という声は、我々コンサルタントにとってはよくお聞きする「病院あるある話」の一つと言えます(「地域連携」も同様ですが、その詳細は別の機会にお話します)。
病院ごとに経営企画の役割・体制は多種多様ですが、我々コンサルタントの感覚ではおおよそ3つの役割・体制(図表1)に分けることができます。
タイプ | 担当 | メリット | デメリット |
トップ型 | 院長・事務長など | ・検討から実行までがスピーディーになる ・経営方針と合致した提案ができる |
・データ分析が不足することがある ・現場が実現困難な提案のことがある ・個人(経営者)の能力に依存してしまう |
兼任型 | 医事課など | ・専門知識を生かした企画が可能になる ・自部門の改善はスピーディーにできる |
・経営企画業務の優先順位が低くなりやすい ・部門を横断した提案が困難なことがある ・改善における権限が不明瞭になることがある |
専任型 | 経営企画 | ・経営企画業務に専念できる ・部門横断的な調整役になれる ・病院全体のことを考えた企画がしやすい |
・人材確保が困難な場合がある ・業務内容が不明瞭になることがある |
まずあるのが、院長や事務長のような経営幹部が、経営企画の機能を担っているパターンです。分析や資料作成業務は医事課の職員へ依頼するものの、分析の切り口や具体的な改善策を自ら練り上げます。
経営幹部が十分に時間を確保し、戦略的に推進するのであれば、うまく機能させることもできます。しかし、データの裏付けがなかったり、現場が実行困難な提案も採用されやすく、十分な効果を上げることは難しいです。
また、個人の能力に依存するところが多いので、担当する経営幹部の異動や退職で「経営企画」の機能が一気になくなるというリスクも伴います。
次に、「経営企画」の機能を医事課などの部署が兼任しているパターンもよくお見かけします。医事課のほか、診療情報管理課、情報システム課、看護部門が兼務しているというパターンもあります。
このパターンにおいては、メインの業務に優先順位が置かれ時間を確保できないことも多く、また部門を横断した調整に苦労することもあり、しっかりとした成果を得ることは難しいでしょう。
他部門のサポートを得られず、残業して改善提案資料を作成し、それを伴って医療現場に赴いても、話半分で猛反発を受けて疲弊し、本業のモチベーション低下にも影響する――という事例もよく見かけます。こうした事例を見るたびに、トップ型含めて「経営企画」が片手間では実現困難であることを実感します。
「経営企画室」「経営戦略室」などの名称を持ち、基本的に他の業務を掛け持ちはせず、「経営企画」に専任するパターンがこれです(関連サービス『病院経営の戦略組織構築(経営戦略室の立ち上げ)』)。400床以上の病院で整備されている印象ですが、実態としては担当者が一人で、実は他の業務も抱えているという病院も少なくないのが現状です。
実のある経営企画を推進するには、責任を明確にし、ある程度の権限を付与し、やるべきことがしっかりとできるだけの時間を確保できる組織体制が重要でしょう。
続いて経営企画の仕事・業務内容について見ていきます。
前述した通り、病院によってその内容は大きく異なりますが、多くの病院の経営企画担当者とお話する中でまとめると、(1)経営企画の立案や調整などを行う「企画・調整」(2)主に財務の視点から各種調整を行う「財務・経理」(3)外部組織から医薬品や医療材料などを購買する「渉外・購買」――の3つの仕事・業務内容に整理できます。
経営企画の仕事の軸となるもので、まさに経営に関する「企画」業務全般を指します。例えば、中期経営計画の作成や各種委員会の院内プロジェクトの起案や進捗管理などです。病院の規模や解決すべき課題の難易度によっては、当社のような専門コンサルティングファームと連携する場合もあります(関連サービス『地域医療構想下のビジョン・戦略の策定』)。
企画した経営戦略の実現に向け、部門間の「調整」を行うことで全体最適を図ります。診療部門と看護部門などの部門間、診療科間などで、役割分担や人的リソースの配分など多様な調整業務を行います。病院によっては予算配分の役割が大きくなることもあり、その場合は後述する「財務・経理」の色合いが濃くなります。
調整するのは院内だけではなく、院外との調整である「渉外」もあります。病院グループ内の調整や、主に地域連携室が担う近隣の医療機関との連携を除くと、そのほとんどが後述する「渉外・購買」の役割としてメーカー・卸との医薬品・医療材料の購買交渉になります。
事務長の直属や経理部門が母体などの場合は、企画・調整よりも「財務・経理」の色合いが濃くなることもあります。企画・調整は院長や事務長、医事課など別の人や部署が担い、財務・経理業務に重きを置くようなパターンです。
企画・調整を主に行う役割であったとしても、予算なしに経営企画の実現はありえません。経営企画に求められる役割に応じて濃淡はあるにせよ、経営企画担当者は少なからず財務・経理の知識やノウハウの習得は欠かせないでしょう。
取引先やパートナーをはじめとする院外のステークホルダーと交渉し、利害調整を行うことも経営企画の役割の一つです。ただ、医療機関の場合はそれが医薬品や医療材料の購買であることが多いです。医療材料1つの僅かな価格差が、数百万、数千万円のコストに反映されるため、メーカーや卸との価格交渉は、病院経営の欠かせない役割です(関連サービス『DPC病院のコスト削減』)。
病院によっては経営企画と切り離され、「用度課」などの別部署で運用されていることも多いです。
それでは改めて経営企画の仕事・業務に必要な能力について考えていきます。本稿では、「企画・調整」が経営企画の主な仕事・業務であるとして掘り下げていきます。
我々コンサルタントは、病院の経営企画立ち上げや、経営企画に所属する人材の育成支援を通じて、度々「経営企画に必要な能力は何か」を問われる機会が多いです(関連サービス『人材の育成・組織強化』)。その際、我々は「『データ分析力』と『課題解決力』の2つです」と答えています。
一般的な戦略系コンサルティングファームと異なり、我々は「成果」にこだわる「実行支援型」のコンサルティングを行っています。経営企画の計画だけを一緒に考えるのではなく、「それが実現可能なのか」「それを最短で最大の成果を出せる方法はなんなのか」を常に考え、経営企画の実行とその際のボトルネック解消までを考えてご支援しています(※関連のお役立ち資料準備中)。
そのような観点で考えていくと、使える医療ビッグデータのすべてをフル活用し、データの分析結果を重視する「データドリブン」の経営企画の立案が、最も実現可能性が高く、最短で最大の成果を出す方法になります。そのためにはデータ分析力が欠かせません。
データ分析力があっても、その分析結果に基づいた企画が、医療現場の実情を無視した内容では、関係者の理解は得られません。関係者の業務状況、価値観、立場、タイミング、交渉の順序など、さまざまな課題に配慮した上で、計画を実現に導く課題解決力は、経営企画に求められる能力の両輪の一つです。
前述の経営企画の役割・体制の分類に、経営企画に必要な能力の分類を組み合わせると、図表2のように整理できます。以下でこの中身についてもう少し詳しく解説するので、この機会に自院の状況を当てはめてみて、A~Lのどこに課題があるのかを確認してみてください。
役割・体制 | 分析力 | 課題解決力 | ||
分析前 | 分析後 | 思考 | 行動 | |
TOP型 | A | B | C | D |
兼任型 | E | F | G | H |
専任型 | I | J | K | L |
経営企画に必要なデータ分析力は、「基礎知識」と「分析スキル」の大きく2つに大別されます。これは別の機会に詳しく解説しますが、ここでは図表2に基づいて、分析に課題がある場合の2つのケースについて触れます。
分析に課題があるケースのほぼ半分の原因が、十分に時間を確保できていないという分析以前の問題です。その多くが「医事課が兼務で分析をしている」など片手間でやらざるを得ない組織体制に起因しています。こうした場合は「病院ダッシュボードχ(カイ))」のような経営分析ツールを活用することも有効な手段です。
一方、データ分析の結果が具体的な成果につながれば、本人のモチベーションも向上し、院内の理解も得て分析時間の確保につながるという好循環に入ることも少なくありません。そうならない大きな原因は、後述する分析後に大きな課題があり、そのことで時間を捻出しても院内の理解を得られず、データ分析から徐々に遠のいていく――という悪循環の構図がよく見受けられます。
課題の残りの半分は、「分析したものの院内の理解を得られない」という分析後の問題です。我々がこうした事例における実際の分析結果を拝見させていただくと、それらが「命なき分析」であることが大半です。
命なき分析とは、そのデータ分析の結果が「だから何?」で止まってしまう情報だったり、分析結果としては面白いものの、解決すべき課題とリンクしていなかったりする分析を指します。経営企画に使える「命が吹き込まれた分析」には、最低限の基礎知識と分析スキルが必要です(別稿で解説します)。その上で目の前の課題と向き合い、「今必要な情報は何か」を常に問いかけて分析する姿勢が欠かせません。
経営企画には、分析結果から導き出されたデータに基づき、実現可能なプランを作成し、そのプランに基づいて院内を動かすことも求められます。これも別の機会で詳しく解説しますが、ここではこうした課題解決でつまずきがちな問題を2つに分けて確認します。
「分析結果は完璧」「提案する企画も正論」にもかかわらず、医療現場から猛反発を招き、せっかくの計画を実行できないというケースは、よく見聞きします。こうしたケースは大きく「思考」と「行動」のいずれかに問題があることが大半です。
思考においては、提案先の関係者の業務状況、価値観、立場、タイミング、交渉の順序などが考慮されていない「戦略性の欠如」が主因。目的は提案内容に納得してもらい、行動変容を起こさせることなのですから、提案内容の正当性に加えて、行動変容せざるをえないストーリーをしっかりと練り、事前の根回しなども欠かせません。
行動においては、個人のコミュニケーション能力に依拠すると考える人が多いのではないでしょうか。しかし、我々が成功している経営企画の担当者を見る限り、必ずしもすべての担当者のコミュニケーション能力が特に秀でているとは感じません。高いコミュニケーション能力がプラスに作用することは否定しませんが、「成功」の核になるのは別のところにあると言い切れます。
詳細は別稿に譲りますが、主なコミュニケーションツールとなる「資料」「プレゼン」の内容に成功の秘訣があります。課題解決力を個人のコミュニケーション能力がすべてと考えるのではなく、まずは正しいコミュニケーションツールのあり方を確認することが先決です。
経営企画の仕事・業務内容をより具体的にイメージしていただくため、当社でご支援させていただいた経営企画の改善事例について、「トップ型」「兼任型」「専任型」それぞれのタイプの成功事例をご紹介します。また、すべての成功事例に共通するデータ分析を活用した課題解決の手順については、お役立ち資料(準備中)をご確認ください。
「病院ダッシュボードχで急性期らしさを追求した結果、気がついたらDPC特定病院群になっていた。病院長自身が活用することでの改善効果は計り知れない」――。前田征洋病院長にお話を伺いました。
・気がついたらDPC特定病院群、「病院長が使う」の改善効果は計り知れない
理事会を軸とした経営改善体制を仕組み化することで、改善活動に参加する関係者の「全員野球」を促し、短期間ながら成果を上げました。その舞台裏について、児玉琢磨事務長、清島尚医師、小塚初美医事課長に聞きました。
・「全員野球」促す仕組み化で収益大幅改善、コンサルタントを有効活用
病床管理の見直しや加算算定の適正化などにより、年換算で1億円相当の経営改善を実現しました。改善活動の取りまとめ役をしてきた総合企画室(経営企画に相当)の三谷厚志氏による資料を引用しつつ、成功要因を解説します。
今回は1から学ぶ「経営企画」入門として、基本的なポイントを見てきました。経営企画は企画・調整が主な仕事・業務内容であり、「データ分析力」と「課題解決力」の2つが欠かせない能力であることを確認しました。
次回からは、このデータ分析力と課題解決力についてもう少し噛み砕いて解説していきます。
連載◆コンサル講座「DPC病院の経営」
(1) 1から学ぶ「経営企画」入門
(2) 経営企画に欠かせない「データ分析」の基礎
(3) 成果を出す経営企画のプレゼンテーション術
(特別編) 検索で勝てる・勝てないホームページ、病院経営者が知るべき5つのポイント
株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師。大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学修士課程を修了し、大阪大学医学部発バイオベンチャー企業、クリニック事務長兼放射線・臨床検査部長を経て、GHCに入社。地域連携、病床戦略、DPC分析を得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードχ」の設計、マーケティング、カスタマーサポートを担当。新聞や雑誌の取材・執筆多数。
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