2023年02月16日
望月卓馬氏(聖隷浜松病院経営企画室室長)
病院の経営環境は厳しさを増しています。こうした中、コスト管理の意識もより厳格になりがちではないでしょうか。ただ、経営改善につながらない過度な管理は、職員の士気低下につながります。また、必要なデータ収集・分析にも時間を要します。必要最低限の労力で着実な経営改善をもたらすにはどうすればいいのか――。そのためには、目的に見合った「解像度」のデータ収集を、適切な手法で実行することが欠かせません。本稿では当院の関連取り組み事例の一つをご紹介いたします。
新型コロナウイルス感染拡大、医師の働き方改革――。病院の経営環境を激変させる事態が続く一方、不安定な世界情勢を背景に物価高や光熱費高騰、安定しない医療資源の供給状況もあり、厳しい状況下での事業運営が求められています。
当院は高度急性期病院として高度専門治療に力を入れています。手術件数や化学療法件数が増加し、各診療科における収益が増加する一方、高額医薬品や高額診療材料の使用が増えたことで、費用も大きく増加しているのも実情です。そこで診療科別に費用増加の状況を「見える化」する必要がありました。そこで活用したのが「病院ダッシュボードχ(カイ)」の機能の一つである「粗利分析」(図表)です。
「粗利分析」は、収益から薬剤費と材料費を除いた「粗利」を分析できます。「診療科別」「MDC2別」「MDC6別」「DPC別」「年月別」に落とし込んだ分析も可能です。これによって、診療科別の費用のうち、薬剤費と材料費の比率も分かります。薬剤費や材料費に費用がかかる診療科は以前より把握しておりましたが、経年変化や傾向を分析するのに、手間がかかりました。この粗利分析により簡便に、診療科ごとの特徴が分かるようになりました。
「粗利分析」を選択した理由はいくつかあります。
まず、データの精度を担保するためです。これまで、薬剤費と材料費に関する情報を標準化した手法で継続的に収集していなかったのですが、その背景には「個人」に手作業でデータ収集を託すと、人によって収集の手法や手順が異なることで、精度にバラツキが生じる可能性があったからです。
また、そのデータを収集する職員が異動したり退職したりして変更になると、同じ収集手法や手順によるデータの継続性という部分も怪しくなります。
やはりデータ精度を担保するには、同じ方法で継続的にデータ収集し、しっかりと経年比較できる「粗利分析」のようなシステムを活用することは必要でしょう。
次の理由は、用途が診療科ごとの正確な費用を知ることではなく、診療科ごとの費用の特徴と課題を知ることだったということです。
正確な費用を徹底的に調査するということであれば、ほかの手法やサービスがあったかもしれません。ただ、先ほども述べた通り、今回の目的は高額薬剤等の利用増加に伴う費用の見える化です。これであれば、DPCデータを使った「粗利分析」のような機能を用いて、どの診療科がどのような費用傾向があるのかをつかむことが大切です。
例えば、「この診療科は今年○○薬剤の使用が増えた」「この診療科は今年○○手術が増えている」という背景とデータが合致することが大事だと思います。病院には複数の診療科や部門があるので、データの自動抽出は絶対条件の一つと言えるでしょう。
最後の理由は使いやすさです。「粗利分析」もそうですが、「病院ダッシュボードχ」は全般的にサポートに詳しく聞かなくても、表示されるデータの図表を見れば直感的に何を意味しているのかが分かりやすいですし、分からないことがあっても注記やマニュアルに詳しく説明が書かれているので、画面を見たり操作したりして迷うことがほとんどありません。
コスト意識が高まる中、どのようにして現状を可視化すべきか、その手法を選択する機会も増えるかと思います。ただ、その際に意識すべきは、目的を明確化し、その目的に見合った「解像度」のデータで現状を可視化することです。ただでさえ多忙な病院経営の現場で使える時間は限られています。当院の取り組み事例が貴院の経営改善の一助になれば幸いです。
聖隷浜松病院経営企画室室長。2006年聖隷浜松病院放射線部入職。診療放射線技師として10年間放射線診療業務に従事。2016年より同事務部経営企画室にて病院経営支援、プロジェクト推進、管理業務に従事。2019年より現職。診療放射線技師、医療経営士。
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