2022年09月30日
知られざる経営の裏舞台にスポットを当てる本企画「Story」。今回は業務改善に資する約200本の内製システム(2022年8月時点)を開発する院内SE(システムエンジニア)で、地方独立行政法人 下関市立市民病院(382床)の経営企画グループ 医療情報班の源順一さん。
入院期間Ⅱ以内の患者は以下【期間Ⅱ終了日での退院・地ケア転棟を検討下さい】――。
入院期間Ⅱ超えの患者は以下【早期の退院・地ケア転棟を検討下さい】――。
下関市立市民病院の医師たちが使う電子カルテ上には日々早朝に、このようなメッセージが届けられます。実はこのメッセージの送信元はロボット。ロボットの正体は、ある院内SEが開発したRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)「DPC患者退院調整促進ロボット」です。
開発したのは同院SEの源さん。源さんは前職の民間病院から同院へ2016年に入職すると、こうしたRPAを17体、そのほかの各種業務改善ツールも含めると約200本のシステムを開発してきました。
そして改善の効果も出ています。例えば、病院の経営を大きく左右する副傷病の登録漏れについて、源さんが作成した内製システムの導入を機に、明らかに「漏れ」が減少していきました。
普段はSEとして活躍する源さんですが、その活躍の幅は広いです。
診療報酬や施設基準の届け出、院内の臨床指標などを検討・管理する「病院機能向上委員会」にも所属。同委員会では他にも加算・指導料の算定漏れ対策として、いくつか対策すべき加算・指導料をピックアップし、職種横断で編成された複数のチームがそれぞれ算定漏れ対策の検討結果を発表する活動も行っています。源さんが所属したチームは、何度か最優秀チームにも選ばれました。
同院では最優秀チームに選ばれると、全国の各種学会へ参加して、検討結果を発表したり、見聞を広めたりできるという仕組みがあります。源さんは「ただ学会に参加するだけではもったいない。自分の取り組みも発表してみたい」と考え、内製システムの取り組みなども発表しています。
さらには「もっと経営のことやデータ分析について知りたい」と考え、産業医科大学(北九州市)の「医療データ分析コース(インテンシブコース)」に参加。ケーススタディレポートで優秀賞を取ると、それをきっかけに、長崎で行われているデータ分析の勉強会「長崎医療介護人材開発講座」の講師としても活動。病院の経営やデータ分析に関して、院内外で活躍しています。
源さんは自らの幅広い活躍について、「院内にいるだけでは気づけないことが多い」と振り返ります。
病院職員の多くは、日々の目の前の業務をこなすことに精一杯。地域の特性や職種ごとの専門性も高いため、別の地域にある病院や、そこにいる職員たちが何をしているのかなど、周囲に目を向ける時間が限られがちです。そのため、どうしても院内で起こることがすべてのような感覚に包まれ、そのことが今ある状態からの「変化」の機会を逃してしまっていることもあるのではないでしょうか。
例えば、源さんが導入したRPA。源さんがRPA活用の可能性について初めて知ったのも、学会でした。すぐに院内でのRPA活用を検討するものの、当初はその可能性を理解してくれる人はおらず、導入費用の予算要求も通りませんでした。ただ、「他院でRPAを活用している」という事実があるため、自らの直感を信じて、現在のRPA導入業者のサポートを受け、PoC(実証実験)によるRPAのプロトタイプを作成、そのまま経営陣に対してプレゼンを行い、ゴーサインを力技でもぎ取りました。
「RPAやBI(ビジネス・インテリジェンス)などの知識やスキルは、すべて病院の外に踏み出すことで身につけました。コロナ禍以降は無料のウェビナーも増えたので、何かを学ぶための環境は整っていると感じています」
幅広く活躍する源さんですが、いわゆる院内の「本流」で経営改善やデータ分析にかかわっているわけではありません。立ち位置としては、あくまで院内SE。なぜそこまで経営やデータ分析にかかわろうとするのでしょうか。
「前職の病院でも内製システムを作っていましたが、病院には独自のデータ抽出方法やニーズなどがたくさんあります。現場からの要望にしっかりと自分のスキルで応えるためには、経営やデータ分析について、もっと知らないと太刀打ちできないと考えたからです」
「要望にしっかりと応える」という理念を持ち活躍できているのは、誠実に職務を全うしたいとの責任感から辿り着いた姿だったようです。源さんに仕事のやりがいについて聞いてみました。
「医療情報班の他の職員は、プリンタなどのハードウェアを担当するCE(カスタマーエンジニア)業務が主で、院内SEとして各種ツールやRPAの内製を行っているのが自分だけ(ある意味『ひとり情シス』的状態)なので、常に責任感とプレッシャーを感じています。ただ、開発したシステムが現場に改善効果をもたらし喜ばれた時は、それ以上に大きなやりがいや達成感を感じています」
広報部 | |
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