2023年03月29日
病院名 | 聖路加国際病院 | 設立母体 | 民間病院 |
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エリア | 関東地方 | 病床数 | 520 |
病院名 | 聖路加国際病院 |
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設立母体 | 民間病院 |
エリア | 関東地方 |
病床数 | 520 |
コンサルティング期間 |
Newsweek誌「World’s Best Hospitals」ランクインの常連など海外からも評価される日本を代表するブランド病院の聖路加国際病院(東京都中央区、病床数520床)。2022年4月に「病院ダッシュボードχ(カイ)」を導入し、定義副傷病割合の向上や各種加算・指導料等の算定最適化などで早くも改善成果を出されています。
特に、救急医療管理加算の算定最適化では、徹底した「算定漏れゼロ」を目指した独自の仕組みを構築。年換算で2400万円増の改善成果を見込んでいます。データ分析に基づく経営改善活動を推進する同院の病院事務部本院医事課・附属クリニック医事課・聖路加メディローカス医事課の利根川崇マネジャー、同課企画係の佐藤えり氏、同課医事係の森昌江氏にお話を伺いました(聞き手はGHCコンサルタントでシニアマネジャーの湯原淳平)。
――「病院ダッシュボードχ」導入前に感じていた経営課題、導入の決め手を教えてください。
利根川氏:コロナ前後の両面で近年、厳しい経営環境になりつつあるという印象を受けていました。
コロナ前で言うと、例えば当院は前立腺や腎臓がんなどのロボット手術で強みを持っていたのですが、2017年辺りから徐々に症例数が減ってきています。症例がわずかながら周辺の他病院へ分散しつつあるという印象です。この傾向はほかの診療科においても感じているところです。
コロナ後では、繰り返す感染拡大の「波」の影響もあるのか、やはりコロナ前と全く同じ状況にまで戻ってきてはいません。
このような経営環境下では、「本来なら取れる加算をしっかり取る」など当たり前にやるべきことをまずは徹底的にやりたいという思いがありました。
そういう思いがある中、DPC分析ソフト「EVE」ではできないことが、「病院ダッシュボードχ」ならできる部分が多くあったため、導入を決めたという経緯になります。
具体的には定義副傷病割合、後発医薬品使用割合など経営に重要な影響を与える各種項目を他院と比較できることです。「この病名」「この薬」などの詳細なところまで比較できるので、改善に向けた具体的なアクションにつなげやすいです。救急医療管理加算など各加算・指導料等の算定割合を他病院と比較できる点も魅力的でした。
導入後、まず定義副傷病割合が大きく上がったことをきっかけに「もっと使い込んで改善の範囲を広げていこう」という機運が高まりました。
佐藤氏:これまで、他の病院がどの薬を何パーセントぐらい使っているのかなどは把握できませんでした。「病院ダッシュボードχ」なら「なぜ、この疾患の薬剤費は高いのか?」などの疑問を掘り下げて調べることができます。浮かび上がった疑問の要因を可視化できることは、具体的な改善アクションを考える上でかなり有益な情報になります。
資料作成の際、ビジーな表になりがちだという点も気になっていました。「病院ダッシュボードχ」は重要な情報が直感的に分かりやすく、複数の情報が簡潔かつ見やすくまとまっている点も魅力的でした。
――導入後の具体的な成果などあれば教えてください。
利根川氏:当院は救急車の受け入れ台数や緊急入院が多く、特に循環器科や脳外科などはかなりの症例数があります。そのため、救急医療管理加算の最適化で年間2400万円程度の増収効果を見込んでいます。
「病院ダッシュボードχ」でベンチマーク分析した結果、改善の余地が十分あることは分かったので、院内で救急医療管理加算を最適化する仕組みを構築しました。
具体的には、電子カルテにある臨床意思決定サポートシステム「Clinical Decision Support(CDS)」という機能を用いて、救急入院した患者のカルテを医師が開くと、救急医療管理加算の記録ができるテンプレートのポップアップが立ち上がるという仕組みを作りました。そこで医師のチェックがあったものについてしっかりと加算を取っていくという流れです。
毎週、この仕組みに医師がしっかりと記録をしているかをモニタリングし、もし記録をしていないドクターがいればすべて連絡を取り、改めてしっかりと記録するように依頼します。このやり取りを継続しつつ、毎月の請求のタイミングでは、1カ月分の救急医療管理加算の算定状況を振り返り、漏れがないかすべて確認した上で請求する。これをひたすら繰り返しました。
定義副傷病割合の改善では、「病院ダッシュボードχ」のベンチマーク情報を活用しながら、「この病名の時にはこのキーワードが定義副傷病名」という対応表を作りました。
まず、「病院ダッシュボードχ」で定義副傷病割合を他院と比較できるので、「他院だと副傷病名が付いているが当院では付いていない」というリストを出しました。このリストの中でも特に他院との差が大きい病名を全部抽出し、その病名に対してどのような定義副傷病名を付けるべきかを、すべて洗い出しました。その上で、改善すべき病名の定義副傷病名が付いたデータをすべて抽出し、これを全件チェックしていきました。
森氏:例えば、病名に「疑い」などが付いている場合は副傷病名を付けられないだとか、付けられそうな場合は各診療科にフィードバックして確認した上で副傷病名を付ける、など全件チェックはすべて目視で行っています。ただ、チェックすべきデータの抽出は医療情報課の協力を得て、毎月、自動抽出してもらえる仕組みができています。
利根川氏:これと同時に各レセプト担当にも「この病名の時にはこの定義副傷病名」という情報を周知。医師にもこの情報は共有しました。医師からの反響も良く、例えば「泌尿器のこの病名でこの定義副傷病名が付くと、点数がこれくらい上がる」と初歩的なところから説明することで、現場の理解も得ることができました。
定義副傷病割合の改善は半年以上取り組んできており、定義副傷病名登録割合は、活動前の登録率より6.6ポイント上昇し14.0%となり、概算で年間約1700万円の増収効果も出ています。
――すべてモニタリング、全件チェックなどかなり徹底した改善活動をされている印象です。
利根川氏:これまで、他の部署でも把握できるデータは全件ごそっと確認するスタイルで仕事をしてきました。そうしないと何が何にどう影響するかが分からない懸念を払拭できないためです。データの自動抽出を担う医療情報課の存在、定義副傷病割合などを担当している森、救急医療管理加算や肺血栓塞栓症予防管理料などを担当する佐藤の細かく丁寧な仕事にも支えられ、何とかこのスタイルを維持できています。
同時に必要なのは「継続」だと思います。毎週、毎月全件チェックはとても大変な作業です。ただ、それが一回だけだとか、ある期間だけだと、成果にはつながらない。成果は、一つひとつの地味で大変な作業の先にあるから、継続して続けることが非常に重要だと考えています。
加えてスピードも重要です。やろうと思ったらすぐに動いて、周囲を巻き込んで前に進めないと、それをやる意味や目的が忘れられ、これもまた改善につながりません。
――どのような体制で改善活動をされているか教えてください。
利根川氏:実行部隊としての主体は医事課企画係と医事係です。実際は、我々の部署だけではなく、医療情報課や各診療科などにも協力してもらいながら改善活動を推進しています。また、救急医療管理加算のような案件は監査に絡むので、組織的な主体は院内の「監査ワーキング」、定義副傷病割合のようなDPCコーディングの話は「DPCコーティング委員会」が主体となります。
先ほどご説明させていただいた救急医療管理加算で用いているCDSのテンプレートを作る際は、これを使う医師へ徹底的にヒアリングし、要望や意見をテンプレート(以下写真)に反映させました。例えば、できるだけクリック回数を少なくした方がいいだとか、医師に意味が伝わりやすいよう的確かつ短い文言にするだとか、そういう細部にこだわりました。
このようなヒアリングをさせていただく医師がDPCコーティング委員会のメンバーだったりすると話がしやすいです。例えば、何か改善活動をする際、この医師が所属する診療科でテスト稼働するなどの協力もいただけます。もちろん、委員会等とは無関係であっても、この医師から話が聞きたいという時は積極的にお声がけさせていただきますし、大抵の場合はご協力いただけるという点は、当院の強みの一つだと感じています。
――データに基づく改善活動における今後の目標があれば教えてください。
利根川氏:次はクリニカルパスをやりたいです。約600あるパスで設定されている項目を全件、「本当に最適かどうか」を徹底的に調べて、さらなる改善を図っていきたいです。
――お話を伺っていると、すべての改善活動において、「全件」「徹底的」などのキーワードに基づくデータの見える化や仕組み化を重視されている印象です。そのほかに改善活動で気を付けていることがあれば教えてください。
利根川氏:もちろん、必要なデータは最初に全部用意するのですが、それと同じくらい現場の声をしっかりと聞くことを重視しています。
徐々に皆が同じ方向を向けるような調整が必要になることも少なくありません。調整役として、常々経営サイドも現場サイドも皆が納得できる形に調整したいと思っていますが、調整する上で最も大切なことは、目的を決して見失わないということです。
現場の声はしっかりと聞きますが、一方で必ず「でも、やらないと駄目じゃないですか」という話もします。そうして、あとは何とかするしかないですよね(笑)。調整は、潤滑油という側面もありますけれど、それよりも大切なことは徹底的に全部やるという姿勢と、やり遂げるパワー。そこに尽きます。
――本日はありがとうございました。
湯原 淳平 (ゆはら・じゅんぺい) | |
コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、GHC入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。日本経済新聞や週刊ダイヤモンドなどメディアの取材協力も多数。総務省 経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー。 |
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