2023年02月16日
病院名 | 聖隷浜松病院 | 設立母体 | 民間病院 |
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エリア | 東海地方 | 病床数 | 750 |
病院名 | 聖隷浜松病院 |
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設立母体 | 民間病院 |
エリア | 東海地方 |
病床数 | 750 |
コンサルティング期間 |
病院ダッシュボードχ |
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国内はもちろん、海外からも評価される日本を代表するブランド病院の聖隷浜松病院(静岡県浜松市、病床数750床)。「病院ダッシュボードχ」の「地域連携分析」を活用した地域連携の推進によって、月間手術件数が過去最高を更新したとする記事は大きな反響を呼びました(詳細は『聖隷浜松病院が「月間手術件数」過去最高を更新!データ分析を駆使した地域連携の推進と、コストの最適化が収益改善の鍵』)。
今回も引き続き同院の地域連携の取り組みをご紹介します。新型コロナウイルス感染拡大期も周辺の開業医への訪問回数が年間500件を超え、訪問から得た情報を同院の医療の進化にも役立てている地域医療連絡室の滋野智也室長、前回の記事でもご登場いただいた経営企画室の望月卓馬室長にお話を伺いました(聞き手はGHCコンサルタントでアソシエイトマネジャーの水野孝一)。
――「病院ダッシュボードχ」の「地域連携分析」をご活用いただきながら精力的に周辺医療機関を訪問されているとのことですが、どれくらい回られているのですか。
滋野氏:2019年4月に地域医療連絡室の室長に着任後、すぐに周辺医療機関を回り始めました。すでに、岡俊明院長が自ら回っていたのでその同行や、他の診療部長や医長の同行で180件。これにお中元・お歳暮で300件は回るので、初年度から500件近くは回りました。このペースは今も変わっていません。
それでもまだ半分くらいしか回れていないので、全部周り切ることを目標に引き続き訪問を続けていきます。
――コロナ禍でも回れたのですか。
滋野氏:2020年のコロナ禍でも院長やほかの先生方と233件回りました。中にはアポ取りしようとすると「コロナだから」とお断りされる先生もいましたが、医師が同行してお話したいとなると、当院がコロナ禍でどう対応しているのか、細かい実情をお聞きになりたいという先生は多かったです。
当初は色々と考えましたが、やはり我々は訪問しようと。訪問しやすい当院のOBの先生などから院内の実情を伝えていくと、開業医の先生方の実情も伝わってきて、コロナ禍でもお互いの置かれている状況への理解が深まりました。逆に訪問しないで院内の実情を理解してもらえないより、訪問してどのような感染対策をしているのかなどの実情をしっかりと理解してもらえれば、先生方の安心にもつながるので、コロナ禍だからこそ回って良かったと思います。
――そこまで周辺医療機関を回るのはなぜですか。
滋野氏:岡院長が全部回ると言いましたので(笑)。
これは岡院長から学んだことですが、「やっぱり、医療って積み上げだね」っていうことが、訪問を通じてすごく良く分かったなというところがあります。地域連携をしっかりとやっていくのなら、当たり前のことを一つひとつ着々とやるしかないと改めて思います。
それに今では多くの周辺医療機関の先生方と顔見知りになりましたが、どれだけ回っても毎回、さまざまな発見があります。そこには、業務改善に非常に役立つヒントも詰まっています。
――具体的にはどのようなことでしょうか。
滋野氏:例えば、開業医の先生からの紹介患者を受け入れられるか院内に確認する際の待ち時間。この待ち時間が長くなってしまったり、長く待たせた末にお断りしてしまったりするのは良くないと思いますよね。そのことが院外に出て訪問することで、院内で考える以上に良くないことであることが分かるんです。そこで、これまで週1回の幹部会議で報告していなかった受け入れまでの返答時間を報告事項の一つに加えました。これによって、各科はより短い返答時間を意識するようになりました。
また「どの科に紹介すべきか」と迷われる先生も多いです。例えば、「失神って脳神経内科なの?循環器内科なの?」というような声はよくあります。そこで、このような迷いをなくすため、受け入れ後に脳神経内科や循環器内科が必要に応じて連携することを前提とした新たな窓口「失神外来」を作りました。
受け入れ後の転科転棟で、紹介元の先生に混乱が生じることもよくあります。これも受け入れ後の状況をこちらで追って、紹介元の先生が混乱することなく情報共有できるようにしています。例えば、紹介後に転科したら、紹介元の先生はその転科した診療科に情報提供依頼を書かなければいけない、というようなことはほぼなくなりました。転棟して入院が長引いている患者なども、その状況について紹介元の先生へ報告書を出すようにしています。
――訪問の際に気をつけていることなどありますか。
滋野氏:開業医の先生方に当院の医療を可視化することを目指しています。その取り組みとして軸になっているのが、各診療科のチラシなどからなる当院の診療科別の説明キットです。以前、望月から説明させていただいた際は小児科しかなかったのですが、今では13診療科のキットがあります。例えば、講演会やウェブを通じた勉強会を開催するごとに、「講演内容をベースに何か作ろう」などとして、徐々に新たなチラシなどを増やし、当院の医療を可視化していっています。
――コロナ禍を通じて病院のデジタル活用も進んだ印象です。デジタル活用による可視化なども進めていますか。
滋野氏:デジタル活用にも向き不向きがあります。
医療従事者向けの講演会や一般市民向けの勉強会ではウェビナーなどで積極的にデジタル活用しています。ただ、コロナ禍でも開催方法をウェブに限らず、対面で行ったり、対面とウェブのハイブリッドで展開したりするなど、その辺は柔軟に展開しています。やはり、対面で先生に質問したいというニーズもありますので。
一方、当院の説明資料をクラウドに置いて、自由にダウンロードできるようにすることで訪問件数を減らす、というようなデジタル活用は考えていません。やはり、それだと相手が主体になるので、開業医の先生が動いてくれない限り、説明資料はずっと見てくれないということになります。きっかけはこちらからしっかりと作るべきです。そういうことを考えるとやはり、訪問こそが重要ですよね。
――地域医療連絡室の体制やコンセプトを教えていただけますか。
滋野氏:地域医療連絡室のスタッフは正社員10人、委託職員12人の計22人。この人数で毎月5000~5500件の電話に対応しています。紹介情報は約3500件で、このうち紹介初診が約2000件という状況です。このメインの通常業務を回しながら、訪問などの業務にも対応しています。
先ほどのデジタル活用というところで言うと、電話対応の台帳管理はもちろん、そこから発生するさまざまな報告書や書類を自動発行する仕組みは、院内の情報室と連携してデジタル化を徹底しています。
私たちの業務のコンセプトは、「イレギュラーな対応をレギュラーにする」です。開業医の先生方の窓口をしていると、院内外の事情でさまざまなイレギュラーが発生します。そこで調整すべきところは調整し、効率化できるところは効率化して、見えてこないイレギュラーを訪問することで知って、そこもレギュラーに戻す。ただの案内係にとどまっていると、イレギュラーをイレギュラーのまま処理してしまうことになります。
――ここ最近の強化ポイントなどはありますか
滋野氏:逆紹介を今まで以上に推進しています。
当院はまだまだ再診の患者が多いです。これまでは2人くらいの看護師が専門的な知識に基づいて対象患者を選定するような対応をしていました。ただ、もっと逆紹介を推進するにはもう少しシステム化しないと難しいと考え、毎月とか3カ月に1回の診察と処方箋ぐらいで状態が落ち着いている患者については、我々のような事務方でも対応できるようにしました。
具体的にはまず、逆紹介候補患者リストの配布です。これがあれば専門的な対応が必要な患者を除き、事務方でも対応できるようになります。加えて「クリニック検索システム」を導入しました。Googleマップと周辺の医療機関情報をかけ合わせて、患者のお住まいをお聞きすると、お住まいの近くの開業医を視覚的にご案内できるシステムです。
望月氏:当院では全外来患者に占める初診患者の割合を示す「初診率」を重視しています。いわゆる再診で再診療とお薬だけの患者は開業医の先生に戻りましょうねっていうところを病院として強く意識しています。今まで「病院ダッシュボードχ」の「地域連携分析」は、どちらかというと前方連携に使っていました。「地域連携分析」は今後、逆紹介でも使っていきたいです。
――逆紹介の推進で課題に感じることはありますか。
滋野氏:やはり長年、受診継続いただいている患者は、「追い出される」とお感じになるようです。地域の高度急性期を担う我々の立ち位置からすると、そこはご理解いただく働きかけをしなければならないのですが、やはりこうした患者の気持ちを察する先生も少なくないです。
望月氏:いつも1日50人診るというように外来が混んでいるので、10分はかかる逆紹介の説明を避け、1分で済む「また次回ね」となりがちなこともあるようです。この手間を避けるためにも、先ほどの滋野の話にもあった地域医療連絡室のサポートが必要だと思います。
そのため、チラシやデジタルサイネージなどを使って「かかりつけ医の先生にご紹介しますので、安心して移ってくださいね」というメッセージを院内で掲示しています。どの患者を紹介すればいいのかも分かるように、紹介して欲しい患者に丸つけて先生に渡すという取り組みもしています。
滋野氏:当院の2022年度のテーマは「Shift」なので、逆紹介の推進のほかにも午後の診療枠を広げるなどしてバランスを整って、午前中だけ混みすぎるという状況から徐々にシフトしていきたいですね。
――紹介受診重点医療機関について院内で検討されましたか。
望月氏:今回の診療報酬改定で目玉の一つでしたが、当院も紹介受診重点医療機関に関して検討してまいりました。
その際に活用したのが、GHCさんが2022年の春から夏にかけて提供していた「外来機能報告支援サービス」。紹介受診重点医療機関の要件にあるデータ出し困っていたところにGHCさんの今回のサービスが発表されたので、本当に助かりました。いただいたデータを意思決定支援に活用させていただきました。
――今後はさらなる地域での機能分化や連携が必要になりそうです。
滋野氏:今後もう一つ検討したいのが、地域連携パスの推進です。
具体的には肺炎の患者を約20日前後で療養型の病院へ転院させるパスなのですが、このような内科系のパスを作ったのは画期的だったと自負しています。肺炎患者の平均在院日数も一日減りました。
現在、このようなパスを心不全やほかの疾患にも応用する取り組みが始まっています。岡院長と循環器の診療部長と対象になる病院を回らせていただいて、心不全でもようやく3つぐらいのルートができてきました。こうした取り組みを増やすことによって、今まで以上に当院の地域での立ち位置が明確になり、平均在院日数もさらに下がっていきます。
――本日はありがとうございました。
水野 孝一(みずの・こういち) | |
コンサルティング部門アソシエイトマネジャー。診療放射線技師、医療経営士、施設基準管理士。大阪大学医学部保健学科放射線技術科学卒業。病院勤務を経てGHC入社。DPC分析、RIS分析、パス分析、病床戦略、地域連携などの分析を得意とし、国立大学病院や公的病院など複数の改善プロジェクトに従事。若手育成や「CQI研究会」の担当も務める。 |
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