2022年10月14日
病院名 | 君津中央病院 | 設立母体 | 公立病院 |
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エリア | 関東地方 | 病床数 | 660 |
病院名 | 君津中央病院 |
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設立母体 | 公立病院 |
エリア | 関東地方 |
病床数 | 660 |
コンサルティング期間 |
千葉県の南西部にある内房地区唯一の公立基幹病院、君津中央病院(木更津市、660床)。新型コロナウイルス感染拡大が続く2020年度に4年ぶりに純損益で黒字化、2021年度にはコロナ補助金を除いた状態でもほぼ赤字を解消しました。
同院の経営改善を指揮したのは、君津中央病院企業団の田中正企業長。2018年4月の企業長就任以降、さまざまな取り組みをしてきた中で特にデータを軸にした経営改善を推進し、急性期病院らしさを示す「機能評価係数II」は大きく上昇しました。
同院はデータを軸にどのような経営改善を行ってきたのか。田中企業長と診療情報管理室主幹兼副室長でDPC対策の実行部隊である診療情報班の加藤友紀子班長、中園倫弘経営企画課長に話を聞きました(聞き手は当社コンサルタントでアソシエイトマネジャーの太田衛)。
――「病院ダッシュボードχ(カイ)」導入前に抱えていた経営課題について教えてください。
田中氏:当院は2009年以降黒字経営でしたが、私が企業長に就任する2年前の2016年から赤字に転落、職員は経営環境に関する危機意識を持って、さまざまな経営改善策に取り組んでいました。そのような中、企業長に就任してまず思ったのが、DPC対策の重要さです。
以前、別の病院で院長をしていた際は、もっとDPCデータを分析して経営に生かしているという印象でした。当院でも勿論DPCを重視し、外部のコンサルタントにDPCデータの分析を依頼、経営のアドバイスを受けておりましたが、一部の幹部職員だけがその報告会に参加し、全職員向けには年1回のみ講演会を行う、という状況でした。本来であればその結果はこまめに診療科の科長や看護師長などの現場責任者らも共有し、さらには、自分たちもできる範囲でデータを日常的に分析し、経営に生かすべきだと思いました。
――「病院ダッシュボードχ」導入の経緯について教えてください。
田中氏:このような考えから、DPC分析を支援する何らかのシステムが必要ではないかと感じていました。そこでインターネットで何か情報がないか検索していたところ、「病院ダッシュボードχ」のユーザー向け勉強会「GHC経営データ分析塾」を見つけました。ユーザー向け勉強会だったのですが、問い合わせたところ特別に参加させていただくことに。その時講師をしていたコンサルタントの太田さんから色々とアドバイスをいただいているうちに、導入を視野に入れるようになってきました。
さらに太田さんにお話を伺っていると、今回の勉強会とは別の「病院ダッシュボードχ」のノンユーザーも気軽に参加できるセミナーに当院の医事課職員が参加しており、当院のことをよくご存知だったことが分かりました。そこで改めて当院まで製品説明にきていただき、そこからトントン拍子で導入ということになりました。
――経営改善に向けたデータ分析の院内体制について教えてください。
田中氏:現状、DPC分析については診療情報管理室の加藤さんを軸としたチームが推進しています。分析した情報は院内全体に発信しています。分析に使う「病院ダッシュボードχ」は、院内の各部署にも開放し、活用しています。各部署が自らデータを追い、「病院ダッシュボードχ」のデータを活用した資料作成なども行っています。
経営改善の取組は、病院ダッシュボードχ導入前から始まっていましたが、導入後に大きく進化していきました。
加藤氏:詳細については私の方からご説明させていただきます。以前の診療情報管理室はDPC業務への介入はほとんどなく、医事課が診療報酬算定業務のすべてを行っていました。そこで、2016年12月に医事業務の経験のある診療情報管理士の私が医事課を兼務し、DPCコーディングのチェックを始めるようになりました。適正な診療報酬請求と精度の高いDPCデータを作成することによる入院収益向上を目的に、まずはDPCコーディングの適正化に注力したのが始まりです。
その後、ある程度コーディングが最適化されつつあった2019年4月に企業長が経営改善策のひとつとして「DPCによる入院収益の向上」を掲げ、診療情報管理室にDPC対策を行うチームとして「診療情報班」が新設され、私が班長を務めることになりました。分析ツールとして「病院ダッシュボードχ」が導入され、チームが活動していく上での最適な環境を整えていただき、DPCデータ分析を行い、そこから得た知見や改善提案などを院内に共有し、改善活動を促す次のステップへと進んでいきました。
田中氏:やはりDPC対策に診療情報管理士の存在は必要不可欠なので、チームを作って独自に活動してもらった方がいいのではないかと。今では私の手を離れ、しっかりと自走できるようになるまで成長してくれました。
そのほかの経営課題については、経営企画課が一手に引き受けてくれています。
中園氏:私は今年4月に経営企画課課長を拝命いたしましたが、実は2015年から経営企画課に所属し、経営改善全般に携わってきました。特に「病院ダッシュボードχ」が導入されてからは,病院の業務実績を把握しベンチマーク分析などにこれを活用してきました。例えば、企業長や病院長が行う各部署のヒアリングに同席しますが、その際に必要な基本データを用意するなど、その時々の動きに合わせたデータ確認には「病院ダッシュボードχ」が大変役に立ちました。一方、病棟、部門別にも「病院ダッシュボードχ」を活用できる環境を整えたので、当初経営企画課が出していたデータを、各部署が自分たちで確認し早めに対策を検討するなど、経営改善に対する個々の職員の意識も高まってきました。
――DPC対策のチームではどのように経営改善を促す活動をされているのですか。
加藤氏:情報提供による経営改善を促す活動は二段構成で行っています。DPCの基礎知識と「何をどうするとどうなる」という改善へのヒントを記載した院内ニュース「DPCコーディング通信」(写真)による病院全体への一般論の周知が一つ。もう一つは、現場単位で問題意識が持てるように「診療科別レポート」等の分析結果の配付です。情報提供は、「やってください」とこちらから強く改善を要望するわけではなく、あくまで一般論と分析結果の提示にとどめています。改善策を提示する際も、あくまでも「推奨」というスタイルであり、強制するものではありません。現場が見て課題に気づき、自発的な行動を促すことを狙っています。
一般論、改善へのヒント、分析結果、推奨策の流れで情報提供することで、「これってどういうこと?何をすればいいの?」という問い合わせが多数寄せられるようになり、強制しなくても現場が自発的に経営改善に参画してくれる流れが出来上がりました。わずかな追加情報を提供するだけで、現場が積極的に動いてくれるということが起きたのです。よって、常に心がけているのは、目に留まるわかりやすい情報提供の仕方です。
――「DPCコーディング通信」について教えてください。
加藤氏:「DPCコーディング通信」は、一般論と「推奨」に留めた改善策のポイントを端的にまとめた内容で、改善活動を強制するものではありません。イントラネットを使って2か月に一回くらいの頻度で配信していますが、いつもコメントを書いていただける企業長の視点も院内で共有できます。また、イントラネットにログインしない医師もいるので、医師については、医局の掲示と各個人のレターケースに投函しています。
情報提供をした後は、現場のリアクションを待つ必要があります。そのため、情報提供の手法がすべてといっても過言ではなく、気付いてくれなかったり、その気になっていただけなかったりする可能性もあるので、情報の見せ方と気軽に問い合わせをしやすい環境づくりにはこだわっています。分析レポートの見せ方としては「病院ダッシュボード通信」が素晴らしいので、こちらも参考にさせていただいています。
また、改善事例は「DPCコーディング通信」でフォーカスして取り上げ、院内全体のモチベーションアップと他の診療科や部署への波及効果も狙っています。
活用している情報ソースとしては、「病院ダッシュボードχ」だけではなく、DPCの新旧制度比較ツールの「ぽんすけ」や経営分析レポート「LEAP JOURNAL」、厚労行政ニュース「GemMed」などをフル活用しています。
――ご活用いただきありがとうございます。改善活動の推進でご苦労されたことはありますか。
加藤氏:情報発信の方法には工夫が必要ですが、「やってください」と相手に強制する手法ではないので、苦労はほぼありません。
当初から看護局と親密な連携が取れていたことも、円滑な改善活動の下支えになったと感じています。医事課に在籍していた当時、重症度、医療・看護必要度の関係で看護局とのやり取りが増えたことがきっかけです。始まりこそ看護局も「DPCって何?」という感じでしたが、今では看護局全体が経営改善に積極的に携わっています。特に、看護局のパス委員の力は大きく、各病棟で「病院ダッシュボードχ」を用いてパス分析をして医師にパス改訂を促すなど、現場の推進力になってくれています。また、最近では、コメディカルからも、例えばDPCにおける薬剤の使用等について、多くの問い合わせをいただくようになりました。
田中氏:何かをやろうとすると、必ず抵抗勢力は出てきます。特に、自らの診療に信念を持っている医師が抵抗勢力になることが多い。そういう時こそデータが重要です。しっかりとしたデータを分かりやすく可視化した「DPCコーディング通信」のようなものを目にすることで、納得すれば医師は動いてくれます。医師は科学者なので、医師を動かすにはやはりデータなのです。
――今後の課題について教えてください。
加藤氏:DPC対策については、そろそろ「情報を提示して待つ」の次のステップに入っていくのかなと感じています。例えば、抗菌薬の使い方など医療の質に関連することや、マンパワーの問題が根底にある加算・指導料等などは、アプローチ方法を変えていく必要があるかもしれません。
田中氏:DPC対策も軌道に乗ってきて、係数も高い状態を維持・上昇しています(図1)。そのほかのあらゆる課題に対して経営企画課を中心として全職員が経営改善に向けて頑張ってくれています。企業長就任以降、赤字幅は縮小し、2021年度はようやくコロナ関連補助金を除いてもほぼ赤字は解消しました(図2)。ただ、これがいつまで続くかは分かりません。
これまで、全職員に対して経営に興味を持つよう情報発信してきたつもりですが、本音を言うと赤字だから黒字にしようというのは二の次で、病院の存続こそが重要だと考えています。当院はこの地域を守る公立の基幹病院であり、医療の最後の砦としてなくてはならない存在なのです。
ただ、コロナで状況は大きく変わりました。患者も少なくなってきています。こうした中、改めて当院の将来について見つめ直す時期にきていると感じています。コロナ禍にあっても経営改善が進む当院について、この規模を維持すべきなのか、今の体制のままでいいのか、この1、2年で見極めたいと思っています。
――本日はありがとうございました。
太田 衛(おおた・まもる) | |
Multi Disciplinary マネジャー。診療放射線技師。大阪大学大学院医学系研究科機能診断科学修士課程修了。大阪大学医学部発バイオベンチャー企業、クリニック事務長兼放射線・臨床検査部長を経て、GHC入社。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、「病院ダッシュボードχ」の開発を統括する。マーケティング活動にも従事。新聞や雑誌の取材・執筆多数。 |
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