2025年03月26日
病院名 | 市立砺波総合病院 | 設立母体 | 公立病院 |
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エリア | 甲信・北陸地方 | 病床数 | 396 |
病院名 | 市立砺波総合病院 |
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設立母体 | 公立病院 |
エリア | 甲信・北陸地方 |
病床数 | 396 |
コンサルティング期間 |
病院ダッシュボードχ |
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市立砺波総合病院(富山県砺波市、396床)が、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)マネジメントの本格導入により、加算・指導料等の算定を最適化。取り組み開始以降、これまでに累積1億円の増収効果をもたらしました。KPI マネジメントの中核を担ってきた総合企画室で循環器内科医師の白石浩一先生、同じく総合企画室(現地域医療部患者総合支援センター)の三谷厚志主幹にお話を伺いました。KPIマネジメントの推進にあたり、経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」のようなツール活用のほか、「総合企画室」と各部門責任者を軸とした、組織改革・経営改善を担う人財育成が奏功したようです(聞き手は当社コンサルタントでシニアマネジャーの冨吉則行、コンサルタントの神尾康介、カスタマーサポート部門マネジャーの岡本友紀)。
――KPIマネジメント導入の経緯について教えて下さい。
三谷氏:2015年11月の「病院ダッシュボードχ」(当時は「病院ダッシュボード」)導入を機に、加算・指導料等の算定増をはじめとした経営改善に取り組み始め、さまざまな試行錯誤を重ねながら、マネジメント手法自体も進化させてきました。KPIマネジメントの取り組みを進めていく中で、大きく3つの転換期がありました(以下資料参照)。最初の転換期は、2019年3月、貴社コンサルティングでのKPIマネジメントの病院全体での取り組みの導入提案です。
KPIマネジメントを進める上で、幹部への定期報告にも着手しました。以前は単なる集計表のような形で経営幹部に報告していたのですが、論点がみえない・伝わらない、といった問題がありました。「病院ダッシュボードχ」の分析結果のグラフをKPIの実績推移に用いるなど、活用を進めてからは、徐々に何が課題か誰もが直感的に把握・共有しやすい形になっていきました(以下図表参照)。KPIマネジメントの継続とともに、院内の一部に経営改善の風土が根付き始めました。コンサルタントの冨吉さんから「この良い流れを院内全体に広めていきましょう」と助言されたことを機に、毎年しっかりとKPIも定め、各種指標の推移・取り組み状況を定期的に報告する体制を整えるとともに、KPI指標の拡大も進めていきました。これが最初の転換期です。
当院のKPIマネジメントは、毎月の実績の幹部への報告・KPI責任者へのフィードバックの他、四半期に一度、KPI事務局(総合企画室)と各KPI(部門)責任者との面談という仕組みで運用しています。この仕組みは2019年の導入当初から変わっていません。しかしながら、KPI導入当初は、KPI事務局(当初、経営改善担当副院長、財務担当職員、三谷氏の3人で構成)のノウハウ不足もあり、事務局側が各部門の責任を追求するような面談に偏りがちになってしまい、KPI責任者との面談が改善に向けたアクション立案に結びつけるための場としての役割を十分に果たせてはいなかった、という課題がありました。
――攻めるような形の面談になると、各部門も実情を話しづらいですよね。
三谷氏:次の転換期が、2020年4月の「総合企画室」の設置です。総合企画室は、病院の運営方針や経営戦略の企画立案、経営課題の分析と解決などについて、多職種で総合的に取り組むため、院長直属部署として設置されました。総合企画室の設置に合わせ、KPIマネジメント事務局も総合企画室に移管されました。
新体制でのKPI責任者面談で心がけたのは、現状分析だけでなく、各部門の具体的な取り組みまで掘り下げて一緒に検討し、総合企画室としても一緒にサポートしていく姿勢を示したことです。
――「一緒に推進する」というスタンスであれば、各部門の責任者も実情を話しやすいですよね。
三谷氏:病院組織は多職種連携により医療を提供していますので、一つの部署・職種でできることにはおのずと限界があります。そのため、KPIマネジメント運用における面談の場は、各部門からの報告だけでなく、総合企画室自体が、取り組みについてサポートすることもあれば、ほかの部署との連携を促すような、病院本来の強みである横のつながりを引き出す潤滑油的役割も担っていくようになりました。
白石氏:「総合企画室」というネーミングも良かったと思います。一般的な組織では、「経営企画室」や「経営戦略室」などと呼称されることが多いですが、医療職の立場からすると「またお金の話か」と思われがちです。そのことは総合企画室の立ち上げ当初にも感じましたし、実際に運用し始めてからも度々感じています。
三谷氏:総合企画室の立ち上げとほぼ同時に動き出したのが、2020年度のコンサルティングからスタートした院内職員を対象とした人財育成研修です。これは経営改善の知識やノウハウを身に付けた人財の育成コンサルティングで、この研修を受けた人財が院内の各部門で活躍するという流れが、総合企画室の改善活動推進と並行して動き出しました。
――総合企画室の存在と人財育成の両輪で、KPIマネジメントを大きく前進させた印象を受けました。「病院ダッシュボードχ」のユーザー向け無料セミナー「GHC病院経営データ分析塾」もお役に立てたと聞いています。
三谷氏:2021年1月の病院経営データ分析塾「スタートダッシュ!振り返りと目標設定」の受講で学んだ「KPT法」(行動や結果を「Keep(継続)」「Problem(問題)」「Try(挑戦)」の3つの観点から整理して、プロジェクトや活動を振り返るフレームワーク)にインスパイアされ、翌月の2月には自院でのKPIマネジメント(責任者面談での振り返り資料として)に落とし込みました。これが3つ目の転換期です。
白石氏:KPT法を活用することで、各部門が何に取り組んでいて、何が問題であり、それを踏まえて何をすべきかが明確になります。これを繰り返していくことで、何が前に進んでいるかもはっきりするので、我々も各部門もそれぞれに都度、手応えを感じられます。仕事だけではなく、プライベートでも応用できる非常に使い勝手の良いフレームワークなのではないでしょうか。
改善の過程で目にするさまざまな指標のベンチマーク結果も非常に有用です。医師という職業は、自分の病院のことはよく分かるのですが、他の病院と比べてどうかという視点が非常に希薄でして、「病院ダッシュボードχ」でさまざまな角度から他の病院の状況が分かることはとてもありがたい。ベンチマーク結果を見せると「もっと早く知りたかった」とおっしゃる先生方も多く、KPT法とベンチマーク結果を用いて何ができていて何ができていないかを定期的に明確化することにより、非常に良い好循環を得られていると感じているところです。
三谷氏:KPIマネジメントのマンネリ化も防止できていると思います。取り組みを継続する上でつらいことの一つは、成果・結果が出るまでの時間です。KPT法を用いることで、まだ成果と言えるほどではなくとも、それぞれの自己分析を通じて、今できていることが前に進んでいるかが確認・共有できます。また、「継続」「課題」「解決策」が端的に示されているので、現状を踏まえ、今後どうするかをすぐに把握でき、面談の際も無駄な時間をかけずに済みます。さらに幹部への報告にもそのまま使えるので、非常に使い勝手がいいです。
――KPT法を院内で定着させ継続することができた秘訣などがあれば教えてください。
三谷氏:四半期ごとに面談する際のKPTシートは、KPIマネジメントに取り組む他部門とも共有し、閲覧できるようにしています。他の部署がどのように書いているかを参考にしながら、だんだんと定着につながってきました。院内での水平展開として、2024年度に行なった「看護部働き方改革プロジェクト」においても取り入れています。
白石氏:書き方では、Keepの部分から記載することがポイントです。できていないことや課題に対して一番先に着目しがちですが、まずはできていることから記載することで、現在の取り組みを継続しながら次に何をやりましょう、といった前向きな検討につながっています。
――KPIマネジメントの成果を積み上げると1億円と素晴らしい実績です(以下図表参照)。中でも入退院支援の成果が目立ちます。
三谷氏:人財育成研修において取り上げられた課題のひとつが入退院支援だったというところが大きいかもしれません。人財育成研修を受けた職員が研修で習得したノウハウを用い、課題解決に向けたアクションを実行していきました。具体的には、入退院支援加算の算定対象となる「退院困難な要因」の解釈・院内ルールが、診療報酬制度のルールよりもかなり厳しく設定されていることが分かり、診療報酬制度と院内運用ルールのすり合わせを行い、加算算定までのフローの最適化・ルール化を行いました。
白石氏:実際の現場では、算定要件を満たすしっかりとした対応がなされていたのですが、それが算定につながっていなかった、ということがありました。そのため、院内の算定ルールを見直したことで爆発的に数字が伸びていき、その伸びが院内のモチベーション向上、さらには医療の質向上という好循環にも結びつき、KPIマネジメントの必要性を象徴する成功事例になったと考えています。
――後発医薬品の切り替え拡大によるコスト削減効果(以下図表参照)も大きかったようです。
三谷氏:他院と比べて薬剤師のマンパワーが不足しているという中で、どのようなKPIを設けるべきか悩んでいたところ、冨吉さんからの助言を受け、後発医薬品の切り替え拡大に焦点を当てました。マンパワー不足を考慮し、コスト削減の効果を出すための優先順位が分かる薬剤リストも作成し、改善活動を進めるため、総合企画室としての支援体制も整えました。以下の図では、各年に切り替えを行った成果(削減金額)を年度別に集計したものです。一度切り替えた薬剤は削減効果が継続するので、実際には2024(Q3まで)の削減金額に加えて2023の削減効果も続いています。後発医薬品の切り替えの取り組みは、病院経営におけるコスト削減に大きく貢献しています。
――KPIマネジメントを運用してきたご感想と今後の展望についてお聞かせください。
三谷氏:何よりも「継続」が大切ということです。何かを始めることと、それを続けることを比べると、続けることの方がはるかにエネルギーを要します。継続するにあたり、やはり「病院ダッシュボードχ」のようなツールがあったことが、成果を出せた要因の一つになったと感じています。
将来的な展望としては、KPIマネジメントにおいての面談をする側の職員の人財育成です。単にお金の話をするのではなく、各部門と一緒に課題解決に向けて頭を悩ませ、組織横断的なアクションをコーディネートできる職員の育成とともに、病院マネジメントの文化・風土の定着ができれば、と考えています。
白石氏:継続こそ重要という考えは一緒です。その上で面談のタイミングが、四半期ごとが当院にとっては長すぎず、短すぎずというところで適切なタイミングだったと思っています。KPIマネジメントを運用するには、データを単なるデータとして見るだけにとどまらず、それを分析し、提案できる資料にまで落とし込み、それを各方面でしっかりと説明できる人財の育成が欠かせません。経営改善の文化をいかに次の世代につなげていくか、が大きな課題と考えています。
――本日はありがとうございました。
冨吉 則行(とみよし・のりゆき) | |
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コンサルティング部門シニアマネジャー。早稲田大学社会科学部卒業。日系製薬会社を経て、GHC入社。DPC分析、人財育成トレーニング、病床戦略支援、コスト削減、看護部改善支援などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、GHCが主催するセミナー、「病院ダッシュボードΧ」の設計、マーケティングを担当。若手コンサルタントの育成にも従事する。 |
神尾 康介(かみお・こうすけ) | |
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コンサルティング部門コンサルタント。金沢大学医薬保健学総合研究科保健学博士前期課程卒業。理学療法士、医療経営士。訪問看護の経験からマーケット分析・地域連携支援などを得意とし、リハビリテーション経験を活かしたリハビリテーション室の改善提案などを行う。 |
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