事例紹介

2024年12月20日

過去最高の病院収益と紹介患者率を達成、ベンチマークで目標と立ち位置を明確化|高知大学医学部附属病院(1)

病院名 高知大学医学部附属病院 設立母体 国立大学法人
エリア 四国地方 病床数 613
病院名 高知大学医学部附属病院
設立母体 国立大学法人
エリア 四国地方
病床数 613
コンサルティング期間

2023年度、過去最高の病院収益と紹介患者率を達成した高知大学医学部附属病院(高知県南国市、613床)。論文数も121編と過去最多を更新。高知県では最多数、四国でも有数の1230件のロボット手術を施行するなど、花﨑和弘氏の病院長就任を機に経営改善とそれにつながるブランド向上が勢いづいています。この勢いを支える花﨑病院長の組織運営や教育の哲学、コンサルティングの活用方法などについてお聞きしました(聞き手は当社コンサルティング部門シニアマネジャーの湯原淳平、「病院ダッシュボードχ(カイ)」のご活用については関連記事『「病院ダッシュボードχ」は入院収益の改善に欠かせないシステム』参照)。

経営改善のコアメンバー
中央下が花﨑和弘病院長。時計回りに会計課の刈谷健志課長補佐、会計課経営分析室の谷心暖氏、会計課経営分析室の和氣利志朗氏、湯原、穂苅、医事課の中平伸一課長補佐

必要なのは能力ではなくパッション

――病院長として大切にされているお考えなどがあれば教えて下さい。

 病院長就任前に任されていた第一外科は、当院の看板診療科でもあったので、その当時から経営のことは誰よりも強く意識しているつもりでした。ただ、一診療科の責任者と病院長とでは、必要とされる「パッション」の量が全く違います。2000人を超える職員の生活がかかっているわけですから。

花﨑和弘氏
花﨑和弘(はなざき・かずひろ)氏:1984年新潟大学医学部卒。信州大学、米ベイラー医科大学などを経て2006年に高知大学医学部外科学講座外科1教授。高知大学医学部附属病院の副院長、手術部長などを経て2018年高知大学医学部副医学部長。2022年から現職。

正直、この病院を強くし、地域の医療提供体制を正しい方向へ導くためであれば、自分はどう思われても構わないと割り切っています。ですから、経営にかかわる院内外の関係者と接する際は、言うべきことを言い続け、日々、病院長としてのプレッシャーと戦い続けています。

いつも頭の片隅にあるのは、「いかにして良い人材を確保するか」ということ。「人」こそが病院の機能を決める最大の要素だからです。そのためには財源の確保が必須。ですから、期待を寄せる診療科の責任者へは特に、「これを言うとプレッシャーに感じるだろうな」とは思いつつも、言うべきことを言い続けています。もちろん、令和の時代ですから、言い方には気を付けて、丁寧な言葉遣いを心がけてはいますが。

――以前から役職者に求められるものは「パッション」とし、その必要性を重要視されているとお聞きしています。

 リーダーが誰よりも真剣になって先頭を走り続けていないと、人はついてきません。それを実践するためには能力うんぬんではなく、自分に与えられた責任をやり遂げようとするための「パッション」があるかどうかです。

当然ですが、高すぎる目標の達成を求めたり、長時間労働を強いたりしているわけではありません。例えば、この診療科で年間何千万円の収益を確保する、年間これくらいの手術はする、論文なら最低でも何本書く――など、十分に達成できるレベルでの具体的な数値目標を示した上で、各部門を率いていくことを求めています。パッションとは、ただ闇雲に頑張ろうということではなく、具体的な数値目標を掲げたうえで、関係者たちを導き続けられるだけのやる気や責任感、プレッシャーと共存できるだけの覚悟と考えてください。

実際、整形外科や脳神経外科、循環器内科などは月間で億を超える収益を確保する科に成長してきました。泌尿器科や産婦人科などもここ最近、これらに続く成長を示しています。その一方で課題を抱えている科もあるので、引き続き具体的な数値目標を掲げながら、その達成に向けて、各診療科の教授はパッションを持ってそれぞれの科を率いていっていただきたい。

GHCのコンサルティングを活用し始めて良かったことは、この数値目標を明確かつ細かく、正確に設定できるようになったこと。ベンチマーク分析を通じて、さまざまな経営指標や診療プロセスを全国の病院と比較し、自病院の立ち位置が分かるようになったからです。また、こうした数値目標を設定した上で、その目標達成に向けた具体的なアクションを、非常にアクティブに、スピード感を持って推進できるようになりました。

高い生産性の背景にあるスピード感への意識

――ありがとうございます。アクティビティやスピード感も大切にされているようですが、その理由や背景があれば教えて下さい。

スピード感を持って生産性の高い仕事をすることについては自信がありますし、その重要さは一つの信念として持っています。影響を受けたのは、米国留学がきっかけです。

世界各国から優秀な人材が集まる留学先で、まず上司(以下写真右のBrunicardi外科主任教授=写真提供:高知大学医学部附属病院)に言われたのは、「仕事ができないと判断したら3か月で解雇する」でした。留学先での生活が始まると、上司からのメールは毎朝4時頃にきて、ものすごいスピードで仕事が進んでいきます。指示を受けた仕事の依頼については翌朝、「昨日指示したことはできたか」などと聞かれることは珍しくありません。一方で論文は「インパクトファクターが10以上の雑誌に掲載されないと意味がない」などと質の高さも求められます。こうした極めて高い生産性が求められるスピード感に何とか食らいつき続けた結果、気がつくと残された同期の留学生はわたし一人しかいませんでした。

自分の能力が特別優れていたわけではないと思います。むしろ、他の海外からの留学生の方がコミュニケーション能力も高く、日々、自分がやっていけるか不安でした。ただ、能力のあるなしではなく、スピード感を持って生産性の高い仕事をしようとする意識が、当時の私を導き、成長させてくれました。今の時代に当時の私と同じようなハードワーカーになれとは言いません。ただ、各部門の責任者であれば、部門の誰よりもスピード感を持って生産性の高い仕事をしようとする意識がなければ、尊敬されないし、誰もついてこないと思います。

優れた指導者は若手の意見をすぐ否定しない

――米国でのご経験が仕事に対する姿勢やリーダー像に大きな影響を与えたのですね。そのほかご自身の経営に影響を与えたエピソードがあれば教えて下さい。

若手の荒削りな提案やアイデアをすぐに否定する人は、リーダーとして大きな成功はしないだろうなと思っています。その思いを強くしたのは、当時の信州大学で医学部長をしていた千葉茂俊先生(現信州大学名誉教授)の教育方法にあります。

当時、千葉先生から、全国に教授を多数排出したある名教授の話をお聞きしました。その教授がすごかったのは、その教育方法です。若い学生たちの考え方やアイデアが荒削りであることは多々あるのですが、それらの評価すべきポイントを見極めて褒め続け、成果に結びつくまで導いていきました。学生たちの中には、そこまで能力が高くなくても「自分には才能がある」と思い込んだり、勘違いしたりした子もいたのではないでしょうか(笑)。それでもまた褒めてもらうため、モチベーションが高い学生たちで溢れ、失敗を恐れず積極的にさまざまなことに挑戦することを良しとする風土が根づき、結果として多くの教え子たちが教授へと育ち、学内の枠を超えて飛び立っていったのです。

実際、私も外科の教授になってから意識して「この前の手術は良かったね」「いい論文だったね」と積極的に声をかけるようにすると、一気に生産性は高まっていきました。ただ、これをするときに気をつけないといけないのは、褒めるタイミングです。例えば、最初から何でも褒めてしまうのではなく、褒めてもらいたいというタイミングを見計らってから褒めるというようなことを意識することです。いい人だと思っていた人がちょっとした失言をしただけで批判される一方、「あの人は苦手だな」と思っていた人からのちょっとした優しい一言で「実はいい人なのかもしれない」と感じることがありますよね。ですから、褒めるにしても、その時々の状況に合わせてどのような言葉を選択するかが重要です。

外科教授時代の科内の集合写真
外科教授時代の科内の集合写真(写真提供:高知大学医学部附属病院)

ベンチマークは経営の道標

――当社が貴院の経営をお手伝いさせていただく中で、印象深かったエピソードがあれば教えて下さい。

2つあります。まずは栄養管理部の改善です。GHCの分析により、他病院と比較して栄養管理部が関係する特別食加算、栄養指導などの実施状況が他病院と比較して少ないことが分かりました。入院患者のほとんどは高齢者なので、栄養管理は非常に重要な部門。まず、何よりも意識改革が必要と考え、トップである栄養管理部の炭谷由佳副部長には「あなたは一部門のトップではなく、すべての診療科にかかわる重要な部署の中心なんだ」という話をし、全国でトップレベルの栄養管理を行う近森病院の臨床栄養部を視察させてもらいました。やはり近森病院の栄養管理は素晴らしく、それを育てた現在は相談役の近森正幸先生からも直接お話を伺うことができました。

全国トップの栄養管理に刺激を受けたのでしょうか、それから栄養管理部は徐々に変わっていきました。ベンチマーク分析と湯原さんの支援もあり、栄養管理の関連加算の最適化が進み、少しずつですが結果も出てきました。

もう一つは薬剤部です。東京女子医科大学病院の薬剤部長としても実績のある浜田幸宏教授を薬剤部長に招いて意識レベル高くやってもらっています。問題が山積みの中からのスタートなので、軌道に乗るまでにはまだまだ時間がかかると思っています。ただ、ある程度の人を確保できるようになれば、必ず変わってくると信じています。

すべての部門に言えることですが、何より湯原さんの動きがいい。例えば、診療科ヒアリングをお願いすると、その科の重要な節目節目で助言をしに訪れ、今やるべきことを繰り返し繰り返し言い続けてくれます。

やはり、経営改善の現場で困るのは、その時々の状況で本来の方向性を見失ってしまうことです。そうなると関係者が皆、右往左往してしまう。そういう状況の中でも、常にベンチマークデータに基づき、医療現場の目線で道標を作ってくれているので、それが非常に助かっています。しかも、その道標は全国レベルのデータで自病院の立ち位置を示してくれるので、説得力もあります。

「高知の医療を守る」の意識を

――ありがとうございます。最後に今後に向けて一言お願いします。

高知県民に最良の医療を提供するため、今まで以上により良い人材を確保するため、そのための財源を確保しないといけません。そしてこの大学病院はもっともっと頑張らないといけない。すでに医療提供体制の再編も進んでおり、大学病院がもっと強くならなければならない、そういう時期がきているのです。

ですから、「自分だけ良ければいい」「自分たちに問題がなければいい」という意識では駄目なんです。高知県民に最良の医療を提供する、高知県の医療全体の舵取りをする、それをやり遂げるためのパッションが必要です。そのことを意識して、より良い病院になるための改善活動を推進していきます。

湯原さんのコンサルティングについては、今の路線でいいのですが、遠慮せずに思ったことをもっとズバズバ言っていただいても構いません。院内に行動変容を促すには、外部の第三者であるコンサルタントからのアドバイスが最も効果がありますので。今後も期待しています。

――こちらこそ花﨑先生のいつも前向きな姿勢に助けられています。本日はありがとうございました。

連載◆高知大学医学部附属病院
(1)過去最高の病院収益と紹介患者率を達成、ベンチマークで目標と立ち位置を明確化
(2)「病院ダッシュボードχ」は入院収益の改善に欠かせないシステム


湯原 淳平 (ゆはら・じゅんぺい)

コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、GHC入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。日本経済新聞や週刊ダイヤモンドなどメディアの取材協力も多数。総務省 経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー。

穂苅 桃子(ほかり・ももこ)

急性期病院における、看護師、保健師の経験を活かし、病院の業務改善やPFM(入退院支援)などに力を注ぐ