2023年07月11日
病院名 | 近江八幡市立総合医療センター | 設立母体 | 公立病院 |
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エリア | 近畿地方 | 病床数 | 407 |
病院名 | 近江八幡市立総合医療センター |
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設立母体 | 公立病院 |
エリア | 近畿地方 |
病床数 | 407 |
コンサルティング期間 |
コンサルティング |
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次々と経営改革を断行し、好業績を維持し続ける近江八幡市立総合医療センター(滋賀県近江八幡市、407床)。新型コロナウイルス感染症によるコロナ禍の中、アフターコロナを見越していち早く高度急性期に特化する方針を宣言。一般病床の一部をHCU(高度治療室)へ転換したほか、地域包括ケア病棟を廃止するとともに、さらなる病床機能分化を目指した地域の医療機関との連携を進めています。経営改革を推進してきた宮下浩明・病院事業管理者にお話を伺いました。公立病院でありながら改革を推進し続けるとともに、好業績も維持できる原動力は、職員たちの多様性を何よりも大切にする宮下氏による「ダイバーシティ経営」です(聞き手は当社コンサルティング部門シニアマネージャーの湯原淳平 ※2018年時点の記事はこちら)。
――病床機能の見直しに至った経緯と背景について教えてください。
「公立病院経営強化プラン」(解説はこちら)の策定がきっかけです。これは一言で言うと、地域における自病院の役割とそれを実現するための中期経営計画を宣言するというもの。そのため、プラン策定のタイミングで、改めて当院のあるべき姿を問い直しました。
検討を進めた当時、コロナ禍ではあるものの出口が見え始めた頃で、「コロナで遅れていた地域医療構想が一気に進むだろう」と考えました。国の財源がなくなりつつある中、いわゆる「コロナ補助金」も消える。本来の当院が何をなすべきかを問い直し続けた結果、「高度急性期をやる」と決意を新たにしたわけです。
――高度急性期に向けて、病床機能をどのように見直したのですか。
ある病棟をHCUに転換するとともに、これまであった地域包括ケア病棟を一般病棟に転換しました。
HCUに転換した病棟は、元々腎臓内科に特化した15床という非常に中途半端な病棟で、以前から病床機能を変更しようと考えていました。この病棟があるため、「看護職員夜間配置加算」の要件の一つである「各病棟の夜勤看護職員が3名以上」が満たせず、足かせにもなっていました。
そこで当院の経営企画を担当する池田裕樹(事務部総務課経営企画G)君とGHCがさまざまなシミュレーションをしてくれた結果、2022年6月からこの15床をHCUにして高度急性期の機能を持たせると同時に(2022年6月時点で約半数の8床を稼働)、看護職員夜間配置加算と夜間急性期看護補助体制加算も算定できるようになりました。一般からHCUへの転換は、現場職員の高度急性期医療への対応が必要なため、急な環境変化で現場がパニックにならないよう時間をかけて徐々に病床の機能を転換していきました。
地域包括ケア病棟については、HCUの運用が落ち着き始めた2023年1月から一般病棟に転換し始めています。地域包括から一般への変更は、一般からHCUのような医療提供の面で難しい対応はないのですが、(2023年6月時点で)コロナ対応の病床やそこで働く看護師の調整などもあり、コロナの状況を見ながら、こちらも徐々に病床機能を移行させていっています。また、地域包括ケア病棟がなくなったことにより、今まで算定が不可能であった総合入院体制加算の算定に向けて取り組んでいます。
――病床機能について、目下の課題と今後の計画について教えてください。
当院は高度急性期、そのほか近隣の病院は精神医療と慢性期医療など徐々に地域の病院の病床機能が分化してきています。少しでも患者の流れを良くするため、こうした近隣病院とアライアンスを組む必要があるので、我々病院と地域医師会、近江八幡市長とで、今後の地域医療連携について話し合いをする機会を新たに作りました。地域医療連携推進法人とまではいかないものの、まずは病院間の連携を進め、いずれは介護や在宅との連携も深めて、地域包括ケアの実現を目指していく計画です。
――当社のコンサルティングについてはいかがでしょうか。
やはりコンサルティングのいいところは、院内の職員ではなく、外部の第三者がしっかりとしたエビデンスに基づいて院内を説得してくれるというところです。院内だけでは、少しストレッチな目標を掲げても、すぐに「難しいのではないか」と尻込みしがち。同じ目標でもコンサルタントを通じて伝えると、なぜか「できるのではないか」という雰囲気が生まれます。
経営企画のことは池田君に任せているのですが、コンサルタントの存在は、彼の支えにもなっていると感じています。うまく連携を取り、いつもあと少し手を伸ばせば届きそうな最適な目標を提案してくれています。
――公立病院は人の入れ替わりも多く、一枚岩の組織運営を継続するのは困難とよく聞きます。一方、貴院は経営改善に前向きな職員が多いとも聞きます。円滑な組織運営を継続するための工夫などあったら教えてください。
一言で言えば、さまざまな能力を持った職員を敬い認めることです。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」でしょうか。突き詰めれば、組織運営とは言え人間と人間とのことなので、できる限りやらしてみて、見守るという姿勢ですね。池田君が色々と考えてくれるアイデアの中には「これは難しいのでは」という提案もありましたが、やらしてみるとできるものです。
仕組みという視点で言うと、当院には「QI(Quality Improvement)大会」という発表会があります。毎年、一般職員も含めた多職種のグループが、QIに関わるさまざまなアイデアを発表し、優れた提案には互助会を通じて賞金も出すというものです。発表内容は玉石混交ですが、最近ではRPA(Robotic Process Automation)を活用した業務改善の提案などがあり、今やRPAは当院のさまざまな部署で活用されています。そして発表会の後には、100人を超える規模の大宴会。こうした仕組みが、多職種での連携を深めるきっかけにもなっているのではないでしょうか。
現場からのボトムアップの提案にもしっかりと耳を傾けます。臨床検査室の品質規格「ISO 15189」は、相当な労力とコストがかかるので、最初はどうかと思いましたが、当院のブランディングにも寄与しますし、何よりそこで働く技師たちのプライドにもなっています。
――「現場に任せる」という姿勢を貫くのは、とても難しいように感じます。口出ししたくなるようなことはありませんか。
何か言うとしたら区切りの挨拶くらいで、直接口出しするようなことはほとんどありません。言うとしても、間接的に伝わるようにほかの誰かにそれとなく話すというくらいでしょうか。
現場に任せる姿勢の一方、決断するタイミングは重視しています。ロボット手術の「ダヴィンチ」を導入する際、私は泌尿器科なのでもっと早く導入したかったのですが、外科がその気にならないと院内での利用が広まりません。ですから、外科がその気になるまで導入を待ちました。もちろん、その気になるような情報は外科の医師へ意図的に共有していましたが。
――お伺いした組織運営に関するお考えに至ったきっかけがあれば教えてください。
私が院長になった際、何よりも人の多様性を認める姿勢を大切にしようと考えました。さまざまな価値観や考え方の人がいるので、何人かは不平不満を持っていることは当然だろうし、違う方向を向いている人もいるでしょう。ただ、組織の「総和」が当院の進む方向に向いていたら、それで良しとしようと考えています。むしろ、全員が同じ方向を向いている組織は気持ちが悪いですし、そういう組織は絶対にうまく行かない。
逆に同じ方向を向いていない人がいるからこそ、そういう組織は進化し続けるのであって、組織として存続し続けるのです。カトリック教会は16~20世紀の間、聖人を認可する際、反対者を1人任命し、候補者が列聖にふさわしくない理由をあえて見つけ出し、発表させていました。この役割は「列聖調査審問検事」と呼ばれ、一般的にはディベートの質を高める手法として有名な「悪魔の代弁者」(Devil’s Advocate)として知られています。反対意見によって新たな視点が生まれ、意思決定の質が高まるということは、何世紀にも渡って組織の存続を守り続けてきた知恵の一つなのです。
――本日はありがとうございました。
湯原 淳平 (ゆはら・じゅんぺい) | |
コンサルティング部門シニアマネジャー。看護師、保健師。神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、GHC入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。日本経済新聞や週刊ダイヤモンドなどメディアの取材協力も多数。総務省 経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー。 |
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