2007年02月23日
横浜市立大学附属市民総合医療センター●国崎玲子先生(難病医療センター)
「『患者の社会復帰=社会貢献』が評価される医療に!」 潰瘍性大腸炎やクローン病などの“炎症性腸疾患”。近年、国内で急増している同疾患について、横浜市立大学附属市民総合医療センターでは、これまで「難病医療センター」内で診ていたものの、今年6月より新たに「炎症性腸疾患(IBD)センター」を設けるという。そこで、同センターの国崎玲子先生にインタビューを。細い体にもかかわらずエネルギッシュで、とにかく素敵な方でした。忙しい日々にもかかわらず、キラキラした表情の先生に、こうした方々が日本の医療を支えているのか…と頭が下がりました。
相馬 まず、先生のご専門である炎症性腸疾患についてお聞きしたいのですが…。
国崎先生 炎症性腸疾患は若年者を中心に急増している腸の難治性疾患ですが、国内ではまだマイナーで、専門医も非常に少ないんです。診療には最新内科的知識を必要とする一方で、強い炎症を持つ患者に検査や手術を行わなければいけないので高度な腕も要求される。でも、患者数は急増しています。
韓国でも、ここ5年間で患者数が倍になり、若手医師を欧米に留学させるなど、先進的な治療を勉強させているという話を聞きます。一方、日本では、消化器疾患の患者はもともと多く、病気の種類も多いのですが、やはり生命に関わるがん診療にどうしても重きが置かれています。良性で稀な疾患と思われがちな炎症性腸疾患までは手が回らず、きちんと診られる医師は育っていない。そのため、一部の医師にどんどん負担がかかっているので、このままではパンクしてしまうんじゃないかと…。
相馬 クローン病の父親を持つ知り合いに話を聞くと、「(先生方は)大変な忙しさだと思う」と…。
国崎先生 私は身内に炎症性腸疾患患者がいますので、この病気の場合はとくに、良い医師・良い医療にめぐり合うことで、患者が確実に病気を乗り越えて社会復帰できるということを実感しているつもりなんです。ですから、当院にいらした患者様全員に、できる限り手助けしたい。ただ、炎症性腸疾患は全身合併症の管理も必要で、自分達の力だけではなく他科の協力を仰ぐことも必要になります。今回、各科が一流の腕を揃えている当院に、内科・外科合同のIBD専門のセンターをつくっていただけたことは、患者を身内に持つものとしてものすごく心強いことなんです。
また、炎症性腸疾患は若年者に多いため、たとえばアメリカでは治療によって患者が社会復帰しどれだけ経済に貢献できるかが高く評価されるそうです。ところが日本では、そうしたことがあまり評価されていない。たとえ病気が難しいとはいえ良性疾患ですから、機を逃さず適切な治療を行うことで、患者様が社会復帰するお手伝いができるのです。それと、日本では「難病」という言葉が社会にも患者様にも語弊を生んでしまって、かえって社会復帰が妨げられているケースもあるように思います…。これは、日本独自の特定疾患医療給付制度の弊害かもしれませんね。
相馬 なるほど。ところで、「EVE」を使うとどういった治療を行っているのかが見えるわけですが、炎症性腸疾患の場合、DPC環境下ではやはり減収してしまいますよね? 仕方のないことですが…。
国崎先生 非常に不公平というか…。私たちは、中等症以下の患者さんについては基本的にすべて外来で治療しており、入院患者さんは本当に重症の方ばかりです。全身に様々な合併症を起こして他院から転院してくるケースや、重症の手術症例など、医療費はかかるけれど、他に診られる施設がない。でも、絶対に“赤”なんですよ。
DPCは、質の底上げという点では非常に良いと思いますが、一方で標準化されることで、医療の頭打ちになるんじゃないかとも思うんです。難しい疾患や重症例に敢えて立ち向かっていく気概ある医者が育ちにくく、むしろときに腕や経験を殺すことになるのではないかと…。
相馬 質の高い病院がDPCに参加することで、データに反映されるわけですが、さらに言うなら「この病院が素晴らしいから、標準値にしようよ」という考えがあっても良いわけですよね。
国崎先生 少なくとも、重症度に大きな差のある疾病を一つのDPCコードに当てはめるのは無理があると思います。重症と中等症に分けるとか、客観的に評価しないと。また、病気だけを治すのではなく、社会復帰できたかというところまで評価できれば…。
広報部 |
|
事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
|