GHCブログ

2008年02月13日

医療機関は“人”に尽きる

社団法人全国社会保険協会連合会●伊藤雅治 理事長

左が伊藤理事長。右は渡辺

全国52の社会保険病院を、国から委託されて運営しているのが、全国社会保険協会連合会(全社連)。平成15年度からの経営改善3ヵ年計画の下、平成17年度には全病院が単年度決算で黒字計上するまでにカイゼンが進みました。また、全社連では、複数の研究班をつくって共同研究が行われていますが、その1つに「定点観測システムのデータを用いたベンチマーク分析によるDPCの評価に関する研究」班があります。GHCでは、同班の研究に5年ほど前から参加させていただいており、一昨年、昨年には、その成果として2冊の書籍も発行されました。 今回は、社会保険病院の経営改革にあたって、大鉈を振るい、指揮を執ってきた伊藤雅治理事長に話をうかがいました。敏腕リーダーである一方で、優しい笑顔をお持ちの方でした! (文章中、敬称略)

――少し早いですが、今年度を振り返ってみての評価について、まずはお聞きしたいと思います。ホームページ上(http://www.zensharen.or.jp/)に掲載してある、「平成19年度事業計画」では、8つの項目を「重点事項」として挙げていらっしゃいますよね。


伊藤 そうですね。1つ目が、「社会保険病院等の経営改善等の支援」。平成14年12月の社会保険病院のあり方の見直しを受けて、平成15年から17年の3年間の経営改善3ヵ年計画を終了し、18年度に評価を行い社会保険病院の整理合理化計画を策定するという予定でした。ところが、社会保険庁のあり方の見直しの影響でスケジュールが遅れています。3か年計画終了後も、18年度の診療報酬マイナス改定や医療制度改革を受けて、引き続き努力をしていかなければいけないということになったわけです。  18年度決算では、そうした制度の変化や医師不足、患者数の減少などの外部環境の変化から、17年度に比べて少し悪化しました。しかし、今年度は、7:1看護体制の整備やDPCでの加算項目の取得などの努力を行った結果、改善しています。18年度時点でも、全52病院中、3分の2以上が黒字決算でしたが、19年度は少し良くなっています。

――カイゼン中ということですね。

伊藤 「患者さんに選ばれる病院」というのももちろんですが、まずは「医師や看護師が働きたいと思う病院」であることが重要です。そういう点では、グループ病院の強みを活かして、医師にしても、看護師や薬剤師、事務職などにしても、全国の病院から集まってもらって、研修を行っています。職員に選ばれる条件としては、給料だけではなく、採用後のキャリア形成が重要。  あと、共同研究にも力を入れています。医療機関というのは、“人”に尽きると思っています。

――ほかの重点項目についてはいかがでしょう?

伊藤 3つめに挙げている「共同購入の実施」については、ちょうど今日も、委員会メンバーが集まって検討を行っているところで…。病院の経営上、人件費に次いで大きいコストが、薬品費と診療材料費。人件費の削減は医療の質を維持するうえでリスクが大きいので、医薬品・診療材料費をいかに削減するかが、重要課題です。正確に言うと、「共同購入」ではなく、本部で一括して価格交渉を行って、その情報を病院にフィードバックし、各病院が個別に入札業者と契約を行うという方法を検討しています。  そのほか、医療安全に関しては、研修も行っているほか、マニュアルの改定を進めているところです。ハーバード大学の医療安全対策マニュアルを参考にして、社会保険病院のマニュアルを改訂することを考えています。「謝罪マニュアル」と邦訳されていますが、過誤があった場合は謝罪し、再発防止に役立てよう、という主旨です。ハーバードでは、これを使用してから、訴訟件数が減っているそうです。もともと全社連でも、医療安全に関するマニュアルを作成していますが、この内容をプラスして改定を行うことになりました。

――重点事項以外の項目ですが、「『理事長へのメール』の設置」というのは?

伊藤 これは私の発案です。建設的な意見を広く求めようと、全職員が直接私に提案を行える仕組みを設けたんです。メールは記名式で出してもらって、出た提案はすべて役員会で検討していますが、今までに届いたのは3通ほど。ちょっと期待はずれだったかなと…。

――残念ですね…。

渡辺 でも、全社連はグループ病院のなかでも特にまとまりのある組織のように見受けられます。理事長職に就任されてから特に意識されてきたことなどありますか?

伊藤 まず、本部の権限をいかにスリム化するかということ。実質的な権限を、なるべく現場の院長に委譲するようにしました。たとえば、従来は一律だった給与規定を、病院ごとに改めて、給与の決定権を院長に与えた。そうすることで、経営状態が良ければボーナスを厚くすることも可能になり、職員のモチベーションが上がりました。トータルで5%ほど削減したのですが、単に人件費を削るだけの改革では絶対にダメになります。がんばっているところは評価できる仕組みにしました。  また、以前は病院の診療収入の3%を本部に拠出していただきグループの共同事業を実施していましたが、現在は0.5%にまで削減しました。本部スタッフも3割減らして、本部機能もスリム化しました。ただ、その財源のなかでも、本部が実施する研修事業は増やしています。

――では最後に、新しい年度に向けての抱負をお聞かせください!

伊藤 社会保険病院は、現在、政府管掌健康保険の保健福祉事業として運営されていますが、今年10月から同保険の運営が全国健康保険協会に移管されます。国とは切り離された公法人となり、都道府県別の財政運営に変わります。そのため、「(各社会保険の)病院の経営主体が誰になるのか?」というのがまだ明確になっていない状況。 「経営主体が変わっても、地域に必要な病院をいかに存続させるか」が一番大きな課題です。ただ、常に言っているのは、経営主体が変わったとしても、やることは変わらないんだということ。経営形態の見直しへの対応と医療制度改革への対応は決して、二律背反ではないし、同じ方向を向いているんだと思います。つまり、地域でどんな役割が果たせるか、地域住民に対して何をできるかを追求することに変わりはないと思っています。

――なるほど。ありがとうございました!

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広報部
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。