2008年03月25日
Melissaさんからの手紙
メイヨークリニックシンポジウム vol.4さらにパネルディスカッションは続きます。元NBCアナウンサーのTom Brokaw司会のもと、「Insurance For All」「Coordinated Care」「Value」「Payment Reform」の4つのテーマに沿って白熱した議論が展開しました。テーマによってメンバーが入れ替わり、医療機関関係者や大学関係者、アメリカ医師会、アメリカ病院協会、企業の健保組合、民間保険会社、そして患者さんと、さまざまな立場の方々がパネリストとして参加します。
なかでも、患者代表のMelissaさんという方が淡々と語った自己体験についての話が印象的でした。Melissaさんはもと医学部の学生だったそうです。「医学生時代、病気になり退学。今ではMedicaid(低所得者層に対する公的医療保障制度)で医療を受けている。仕事につきたくても病気のためフルタイムでの就職は困難。もし就職できたとしても、所得が一定以上になってしまうと今度はMedicaidの扶助が受けられなくなるので、もっと困る」。笑顔の裏に悲痛な訴えを聞いた思いでした。Medicaidの扶助を受けるためには、相当な貧困レベルでないと受けることができないというアメリカでは切実な問題があります。実はメイヨーのシンポジウムは、「患者の声」をシンポジウム参加者に届けようと、 “患者メッセージ”と“写真”を入れた封筒を、参加者全員に直接配布するのです。渡辺がもらった手紙はたまたまMelissaさんのメッセージと写真でした(下記・クリックすると大きくなります)。
「患者の声」はこの封筒だけでなく、患者ビデオやポスターなど、シンポジウムの期間中、あらゆる場面で登場し、参加者へ強いメッセージとして伝えられました。メディアを駆使したやり方はさすがです。
以下、パネルディスカッションの要点を記します。
1.Insurance For All「アメリカ人は『選択』に大きな価値観をもっているので、“a single payer system(単独の支払い制度)”はアメリカでは受け入れられないだろう」「国民皆保険を支持しているが、これは“socialized medicine(公営医療制度)”を意味するのではない」などの発言が、アメリカらしいと感じました。またパネリストは、「無駄を省けば、現行制度でも皆保険を達成するための資金は十分にあるはず」と強調。
目標:
支払能力に関わらず、すべてのアメリカ人に医療保険と基本的な医療サービスを提供
行動指針:
成人に対し、自分自身と家族に医療保険を購入することを義務付ける。
?シンプルな民間の医療保険の仕組みを構築
?抵所得層への助成金支援
?必要不可欠な医療サービスとは何かを定義するための委員を任命する。必要性に応じて、必要不可欠な医療サービス以上のものも購入できるようにする。
2.Coordinated Care「統合された大きな医療システムではケアのコーディネートが上手くいっているが、多くの医療機関はそうでない」「特に医師はケアのコーディネートに参加するため、看護師や薬剤師をはじめ、他の医療職種と連携するチーム医療のトレーニングが必要」といった意見が挙がりました。パネリストは特に、「ケアの統合にITの重要性を強く感じているものの、IT単独では解決できない」ことも強調していました。
目標:
患者サービスの価値を上げるには、医療提供場所、医療提供者、病院の機能、タイミングなどのコーディネートが重要。患者自身がその過程に積極的に参加する必要がある。
行動指針:
?ケアは患者ニーズが中心
?コーディネートされたシステムにより、効果的で適切なケアを提供
?医療職種間でチーム医療をすすめることに対するインセンティブを検討
?ITシステム、プロセス向上やアウトカム測定のノウハウを生み出すための医療提供学問に対する支援を増強
?患者が自分達のケアの意思決定ができるように、正確な情報を提供
3.Value「医療にかかわるすべての人が、患者視点で見た場合の医療における価値とは何なのかを共有することが重要」と強調。パネラーは、「コストを抑えながら、患者アウトカム、安全、満足度を向上させる」ことに合意。「エビデンスに基づいていない医療を許容できないことに気付くべき」「我々は、医療制度改革を国民皆保険ばかりに目を向け、医療提供体制を向上させることを忘れていることがある」と警告。
目標: 医療の質、患者満足度を向上。医療過誤、コスト、無駄を削減。
行動指針:
?コストを比較しながら、患者のニーズや嗜好に応じた価値、測定可能なアウトカム、安全性、サービスを定義
?価格と質を透明化することによって、競争原理を働かす
?患者と医療機関に対して科学、臨床、医学を統合したシステムを構築
?高い質の医療保険や病院を選択する消費者に報酬を与える
?すべての医療関係者が無駄と非効率をなくすよう、責任をもつ
4.Payment Reform「現在の支払い制度は、価値を評価しているのではなく、医療の提供量を増やし、そしてケアの分裂を起こさせ多くの問題を抱えている」「現在の支払い制度がアウトカムを評価する制度に変われば、コストは削減できるだろう」
目標:
健康を向上させ無駄を最小限にする支払い制度を目指す
行動指針:
?コスト意識の高い患者が必要なケアと判断する医療を提供するよう、支払い制度を構築
?医師や病院が、ケアの質向上、患者意思決定の支援を行うインセンティブを支払い制度に組み込む
?医療提供者には「価値」を基に支払う
広報部 |
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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