GHCブログ

2008年04月29日

スキルではなく、マインドを!!

株式会社ハーティスト●小俣弘幸 代表取締役



 株式会社ハーティストは、医療界においてコミュニケーション・エラーの防止を通じて、リスクマネジメントを推進しようという、コンサルティング会社です。組織の問題や課題を定量化し、組織開発や人材育成・問題解決を通して生産性の向上と効率化を推進しています。同社を設立した小俣氏は、実は航空業界出身。航空業界で学んだ安全哲学を医療界向けにアレンジして、独自のマネジメント手法を構築しているそうです。先日GHCの勉強会でレクチャーしていただきましたが(/ghcblog/index.php?e=145)、改めて小俣氏に話をうかがいました。   ――御社では、主に病院を対象にコンサルティングを手がけていらっしゃいます。航空業界を経て、お父さまの会社を継いだ後、5年ほど前に現在のハーティストを立ち上げたとのことですが、そもそもなぜ医療界に関心を持ったのですか?  1つのきっかけは、6年ほど前に父が亡くなった時のことです。当時、父は実家の近くの比較的大きな病院に入院し、入退院を繰り返していました。そのなかで、病院に対して納得のいかない出来事が多々あったんです。あるときは、アレルギー反応のチェックをせずに点滴を打たれた結果、父はひどい目まいに襲われました。がまんできなくなった父が看護師さんを呼んだのですが、「もう少しで終わるから我慢してね!」と言うだけで何の対処もせずに去っていったそうです。でも、我慢の限界に達した父は点滴の針を刺したまま起き上がって歩こうとしたら、転倒して額を切ったそうです。その話を後から聞いて、ナースステーションに事情を聞きに行きました。ところが、看護師さんの説明は非常に歯切れが悪く、担当の主治医からも「申し訳ありません」という謝罪の言葉もなかった。  実は父が亡くなったときの状況についてもいまだに疑問を抱いています。主治医から話を聞きましたが、納得のいく説明ではありませんでした。私たちにはとても難しい専門用語をまくし立てて、何を言っているのか、まったく伝わってこなかった。  そういう経験があって、「病院って、医師ってこんなものなのか?」と思い、「変えなければ!」と思いました。改革好きな血が、ふつふつと湧き上がってきたわけです。

――ということは、医療界に対する印象は決して良いものではなかったわけですよね? 普通だったら、なるべく避けたいと考えるのでは…と思ったのですが。

 父のことがあった一方で、良い医師にも出会っているんです。自分自身が健康を害して通院していたときに主治医だった先生は、非常に良い方でした。説明もていねいでわかりやすく、納得させてくれる。良い面、悪い面の両方を見たので、なおさら「変えなければ!」と思えたのかもしれませんね。  また、起業するにあたって、営利を追求するだけではなく、社会貢献もしたいという想いがありました。営利と社会貢献はもともと相反するものなので、両立させるのはすごく難しい。でも、医療における“つながり”をデザインする、つまり、病院のコミュニケーション・エラーを改善し、リスクマネジメントにつなげれば、病院にとってもメリットは大きいし、病院で働く医師や看護師などの環境も良くなり、仕事がしやすくなる。当然患者さんにも安心・安全を提供できる。単純に、営利と社会貢献がまさに両立するなと思ったわけです。  ちなみに、社会貢献という点では、売り上げの一部を、北海道の霧多布湿原を守るためのトラスト活動をしているNPO団体に寄付しています。その団体は、霧多布湿原を守るために、全国から集まる寄付で民有地部分を少しずつ買い上げています。私どもはそんなに儲かっているわけでもないので、寄付といっても些細な額ですが、おそらくこれまでに畳一枚分くらいは買い上げられたのではないでしょうか(笑)

――では、御社では、どのようにコミュニケーションをマネジメントしていくのですか。

 私たちの仕事は、場づくりから始めることが大きな特徴です。「場づくり→方向設定→プロセス改革」という順序で仕事をさせていただきます。多くの組織が失敗するのは、まずプロセス改革(システム作り)から始めてしまうからです。組織をつくって機能しなければ、すぐに「ほかのシステムに変えよう」という発想に陥りがちになります。どういうシステムにするかの前に、まずは風通しの良い土壌づくりが重要です。皆で物事を自然発生的に協働して考えられる、意見を述べ合えるようなフラットな場、そしてお互いにリスペクトできる場をつくる事こと大事ですね。  また、“スキル”ではなく、“マインド”を提供することに気を付けているのも特徴です。患者さんは非常に敏感ですから、スキルをそのまま使っても、気持ちがこもっていなければコミュニケーションはとれません。だから、特にマインドが大事です。

――ちなみに、医療職に必要なマインドとは?

 これからの特に医師に望まれるのは、患者さんや家族に対して医師のほうから率先してコミュニケーションを取ることでしょうね。「俺にまかせろ」という一方通行ではなく、「一緒にがんばりましょう」という双方向のコミュニケーションがとれる医師。相手に合わせて、患者さんや家族がわかりやすく納得のいくまで説明ができる医師が求められますね。  インシデントやアクシデント、医療事故が訴訟にまで発展するのも、納得のいく説明がなかったことや態度が悪かった、目を合わせて話してくれなかったなどが問題である場合も多いですよね。医師と患者・家族とのコミュニケーション不足が原因というわけです。  よく理事長や院長、それに医局長に「こういう仕事があること自体、目からうろこだ!?」なんて言われます。病院がもっとコミュニケーションの問題について真剣に考えてくれれば今まで以上に安心・安全を提供できるし、患者や家族から納得をいただけると思います。


広報部
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。