2008年08月12日
どこに運ばれるかで患者さんの運命が変わる
特定医療法人仁愛会浦添総合病院●銘苅晋 脳卒中センター長・副院長
民間病院として全国で2番目に地域医療支援病院の承認を受けるなど、他を先駆けた取り組みで有名な浦添総合病院。今回は、7月31日のGHCセミナー「医療の質と経営の質」でご講演いただいた同院の銘苅(メカル)副院長・脳卒中センター長にお話をうかがいました。これまで経験してきたターニングポイントと、今後のことについてお聞きしました。
――先生は脳神経外科をご専門とされています。なぜ、脳神経外科を選んだのですか?私たちの時代は今の研修制度とは違い、大学で見た情報だけで診療科を決めなければなりませんでした。情報の少ないなかでは、選ぶというより自分に向いている診療科は何だろうと考えるわけです。そこで消去法で考えました。まず、モノゴトをはっきりしたい性格なので、結果が明確な外科系がいいなと思いました。ただ、狭く深く追究したかったので、一般外科ではなく、マイナーな外科にしようと考えました。また、細かい仕事がきらいではなかったので顕微鏡下手術のできる、眼科か脳外科のどちらかだな、と。さらに、医者になったからには人の生死にかかわり、命が助けられる仕事がしたいと思ったので、最終的に脳外科に決めました。
――沖縄県は、脳外科医は十分に足りているのですか?いえ、少ないです。一人前になるのには時間がかかりますし、若い先生たちの間で希望者が少ないという問題もあります。アメリカのようにリスクや忙しさに応じて給料が変わるわけでもないので、なかなかなりたがらないですね。
――先生は医者として歩み始めて25年ほどですが、振り返ってみて転機となった出来事はありますか?今までにいくつかのターニングポイントがありました。1度目は脳外科を選んだとき、2度目は大阪大学を離れて地元の沖縄へ戻ろうと決断したとき。そして1997年に、現在の浦添総合病院に移ったときも、1つのターニングポイントだったと思います。当院に赴任する前は琉球大学にいました。当時は浦添総合病院には脳神経外科がなく、外来の応援と脳外科の患者が救急で運ばれた時には私が呼ばれて対応していました。そうしたなか、あるとき、脳神経外科を開設するために来てほしいといわれました。ある意味それまでの仕事を認めてもらえたのでしょう。その場その場で一生懸命やっていたら道は拓けるものだと思います。
ただ、赴任後が、実は大変でした。当院は24時間応対の救急指定病院です。最初の1年間は、脳外科医は私一人。週3回の外来をこなして、急患の対応もしなければいけないわけです。脳卒中の患者さんはなぜか週末が多いんですよね。週末は急患の対応に追われて翌日はまた外来を…という日々でした。一晩にポケベルが2回、3回と鳴ることも多く、当時は、毎月メロディーを変えていました。そうしなければ、空耳でずっと鳴っているような気がしたんですよ。
――すごい生活ですね。2年目からはスタッフが増えたのですよね?後輩が入ってきてくれました。2年目も一人だったら続かなかったかもしれません。肉体的なストレスよりも、相談する相手がいない、自分の治療方針にうなずいてくれる人がいないという精神的なストレスのほうが大きかったです。
その後の転機は、2002年に脳卒中センターを立ち上げたことですね。24時間、専門の医師や看護師といった専門のスタッフが対応する、アメリカのようなセンターをつくろうと思いました。そこで、夜間も検査技師2人が当直し、MRIを24時間行うことができ、患者さんの来院後30分以内に専門的な治療を開始できる体制を整えました。センターの新設後、脳卒中だけでも年間250例を診られるようになりました。また、t-PA治療を行った患者さんの半数が麻痺を改善して、退院後自宅に戻っています。
現状では残念ながら、脳卒中で倒れたときにt-PA治療が可能な施設かどうかまたは急性硬膜下血腫など緊急開頭術までの時間が予後を決定するような疾患では、どの施設に運ばれるかで患者さんの運命は変わります。トリアージを行い、早期に専門的な治療を行える体制をいかにつくるかということが病院に求められています。
――どこに運ばれるかで運命が変わるという現状は、患者としては怖いことですよね。
最後に、今後の計画について教えてください。脳卒中センターを立ち上げましたが、さらにシステムを考えることで、もっと多くの患者さんを助けられると思います。今、センター長をしていますが、自分がいなくても診られる仕組みを作らなければいけないですね。不足しているのは、やはり人です。なかでも、外科・内科両方からアプローチするために、神経内科医をぜひ確保したいと思っています。
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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