GHCブログ

2008年08月30日

セミナー「がん医療の質向上と経済学」、大盛況にて終了しました

明治記念館で、セミナー「がん医療の質向上と経済学―DPC環境下でさらに役立つ実証分析、日米の事例を通して―」を開催しました。先月の東京、大阪、そして来月の福岡と、シリーズで行っている「医療の質と経営の質」セミナーのスペシャル企画である今回は、がんに特化した内容。ゲストスピーカーも、スペシャルです。



 まずトップバッターは、スタンフォード大学医学部准教授のJay Bhattacharya M.D. Ph.D。医学博士と経済学博士の両方をもつ彼の講演は、まさにその両者の視点から米国の医療事情を鋭く見つめた、興味深い内容でした。「がん治療の技術進展は治療成果と費用にどれだけの影響を及ぼすのか? そして医療費の効果的な使い方とは?」ということをテーマに、具体的なシミュレーションを紹介。たとえば、植え込み型除細動器(ICD)が標準的に利用されるようになれば、2030年には300億円、医療費が増えると予測されるそうです。ICDという1つの医療技術が普及するだけで、300億円増加するのです。また、11の治療技術について、余命を1年延長するのにかかる費用も紹介してくださいました。たとえば、がんワクチンの場合は9,000ドル、テロメーゼ阻害剤は62,000ドル、心房細動用ペースメーカーは1,400,000ドルだそうです。 医療費が増えるなか、その要因として高齢化が指摘されていますが、実は一番の要因は医療技術の進展です。ただ、1つの新しい治療技術が普及しただけで、高齢者医療費支出が年間14~17%増加しうるそうです。といっても、医療技術の進展は決して悪いことではありません。Bhattacharya氏の講演は、「どんな医療を望むのか? どこまで望むのか? それぞれの技術に本当に価値はあるのか?」ということを問う、非常に貴重な話でした。



 続いて登壇されたのは、群馬県立がんセンター手術部長の猿木信裕先生。昨年10月、全国がん(成人病)センター協議会が胃がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5年生存率を、施設別に、それも施設名をオープンにした上で公表し、話題になりました。実は公表に至るまでには、準備に3年間を要したそうで、その取り組みを中心的に進めていたのが猿木先生だったのです。講演では、全がん協で生存率の公表を実現した経緯と、がん登録の歴史と問題点について話してくださいました。猿木先生が強調されていたのは、データの精度の問題です。特に、地域がん登録に関しては、日本は発展途上国扱いをされているとのこと。がん登録室やがん登録委員会を設置し、腫瘍登録士(仮称)による登録を行うなど、がん登録の精度を向上すること、生存確認調査システムを確立することを、今後の課題として指摘されました。



 3番目は千葉県がんセンターの竜崇正先生です。「DPC環境下、どのように病院を改革してきたか?」という内容で、キャンサーボードを新設し、疾患別統一プロトコールを作成するなど、がん医療のレベルアップを図るとともに、手術倍増計画を中心に経営改善を行ってきたことについて紹介してくださいました。竜先生は、経営改善とは、「単なるコスト削減ではなく、適切な医療をより多くの患者さんに提供すること」と強調されます。 また、質疑応答では、手術件数を倍増できた秘訣について質問され、「麻酔科医が働きやすい環境を整えることが大切」と回答。対策の1つとして、“名ばかり管理職”をやめるために、部長職を管理職からはずして、超過勤務手当てを適用するようにしたことを紹介されました。



4番目は、GHC社長の渡辺が登壇。「がん医療にDPCデータを活かす」と題して、DPCデータとがん登録データ、外来E・Fデータを利用したデータベースIntegrated Cancer DataBase(ICDB)と実際の分析事例を紹介しました。特に、ステージ別の治療パターンやレジメン別の制吐剤の投与状況など、「ガイドラインに沿った治療を行っているか?」といった、医療の質に関する分析結果を披露しました。



そして最後は、聖路加国際病院ブレストセンター長の中村清吾先生です。なんと5件の手術をこなした後、セミナー会場に駆けつけてくださいました。講演のタイトルは、「電子カルテシステムを利用した医療の質の評価」。聖路加国際病院では、各部門システムと連携した電子カルテシステムを構築し、データの二次利用を行っているそうです。そして院内で抽出可能な臨床指標を検討し、それらの臨床指標の算出結果を冊子にまとめて発行しています。2006年3月に第1版を発行し、同年12月に第2版、2007年12月に第3版と、すでに3冊が出ています。第1版では60項目だった臨床指標は、第2版では120項目と、評価対象は増えているそうです。ただ、当初は、「(臨床指標を)出して意味があるのか?」という反対意見もあったそうですが、回を重ねるにつれ、目に見えて行動変容が起こったそうで、診療スタイル、そして結果としての数値がどのように変わってきたかという具体例も示してくださいました。さらに現在は、臨床指標をより取得しやすいシステムの構築をめざし、次期システムの構築に向けて準備を進めているとのことでした。

今回のセミナーのポイントは、「がん医療の質を上げるためにデータをどのように活かしていくか?」ということでした。医学博士で経済学博士でもあるBhattacharya氏、全がん協の立場から猿木先生、がんセンターの病院長である竜先生、臨床医であり病院情報システム管理委員会委員長も務める中村先生、そしてコンサルティング会社としてデータを扱わせていただいているGHC渡辺という5人の演者の話は、それぞれ立場、視点が異なり、非常にバランスのよい、興味深い内容だったと思います。お忙しいなか、講演をしてくださった先生方、本当にありがとうございました!

そしてセミナー終了後には、恒例の懇親会も開催。こちらも、セミナー自体に負けず劣らず、盛り上がっておりました。



—–

広報部
広報部

事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。