GHCブログ

2009年10月16日

自治体病院でも為せば成る――松阪市民病院 世古口務先生

世古口先生


2、3年で異動する事務職員、不採算になりがちな政策医療を担わなければいけないという使命――。自治体病院が持つ性質上、経営を改善することは難しいというよく言われます。実際、9割以上の自治体病院が赤字に陥っています。 そんななか、目を見張る経営改善を実現しているのが、三重県松阪市の松阪市民病院です。同院では、2008年度の医業収入が前年比8.3%の増収を果たしました。今回は、その立役者のお一人、世古口務先生にインタビューさせていただきました。世古口先生とGHCは、GHCジャパンができる前、先生が市立伊勢総合病院の院長をされていた約8年前からのお付き合い。今では、「GHC顧問」と呼ばせていただき、メンバー一同、慕っているとともに、尊敬している、優しい先生です。

――劇的な経営改善を果たしたと、新聞でも報道されたそうですね。

中日新聞、伊勢新聞といった地域の主要な新聞で取り上げていただきました。 診療部経営担当として当院に赴任したのが、2008年4月。大学の同期だった小倉院長から誘われたのがきっかけですが、そのときに条件としたことがあります。それは、1年契約にしてほしいということと、肩書きはいらないということ。1年やって成果が出なかったらきっぱり辞めようと思っていたんです。

――潔いですね。そして、成果を出された、と。

全国的な医師不足で、常勤医の数は10年前の46人から33人に減りましたが、入院収益、外来収益ともに増えました。入院と外来を合計した医業収益は、2008年度で前年比8.3%(約3億6,700万円)の増収です。さらに、今年の4月から8月のデータを見ると、すでに昨年以上の増収が見込めます。これは、患者数が増えたというよりも、一日単価が上がってきた結果です。入院単価は、今年の6月当たりからようやく40,000円を超え、急性期病院らしくなってきました。それはなぜかというと、医師数は減ったものの、非常に熱心な外科医を採用し、その先生が引っ張る形で手術実施率が増えたんです。2008年度の手術実施率は平均33.9%でしたが、2009年度は現在、平均38.1%で推移しています。今年度の目標は40%なので、もう一息というところです。 こうした結果、これまで単年度で3~10億円の欠損金が生じていましたが、2008年度は約1億1,800万円の損失でおさめることができ、今年度には黒字に転換できるのではないかと考えています。

――こうした結果を実現できた大きなきっかけが、DPCの導入だったのですね。

2008年からDPCを導入し、まずは投下医療資源の見直しに、優先的に取り組んでいきました。それには、病院の方針を各診療科に理解していただくために、診療科ヒアリングを毎月実施したことが大きかったと思います。薬剤の使い方、投薬期間・量の見直し、後発品への移行、注射から内服薬への変更、検査の見直しなどに取り組み、経費削減に努めました。ただ、こうした取り組みを行いながらわかったことは、薬剤費に関しては自分たちの努力で削減可能だけれど、材料費は自院の努力のみでは限界があるということです。何が標準でどこまで下げられるのかということがわからないので、やはりコンサルタントの力を借りることが必要です。 また一方で、有効だったのが「落ち穂拾い作戦」。これは、請求できるのに気づかずに取りこぼしている分、意識が行き届いていなかった部分を見直そうという作戦です。全職員がDPCという制度を十分に理解し、薬剤管理指導料や退院時服薬指導加算、退院時リハビリテーション指導料など、出来高請求できる加算部分の取りこぼしを極力最小限にすることに努めました。 急性期病院にとって、コメディカルの手厚い介入は重要です。たとえば、リハビリテーションは、2008年度は前年度に比べて10.9%増加しました。これは、一人ひとりのスタッフが頑張ってくれた結果です。今年の秋の5連休は、日曜日のみ休んで、他の4日間は通常通りにリハビリを行ってくれました。というのは、経営上の問題だけではなく、リハビリは休んだらその分状態が戻るので、休むことは患者さんにとってよくないわけです。

――劇的な経営改善は、まさに病院を上げて取り組んだ結果ですね。

これまで取り組んできたことは、民間病院であれば当然のことかもしれません。でも、自治体病院ではやっていないところが多いのです。 自治体病院がなぜ、他の病院に比べて経営的に劣っているかというと、一つは、事務方の問題です。医療について何も知らない人材が、突然赴任し、しかも2、3年周期で変わる。数年後には異動になるわけですから、特に努力することもないし、議会対策で精一杯で本庁ばかりを気にしています。当院では、その弱点を克服するために、事務職を対象とした勉強会を毎月開催しています。テーマは、「自治体病院の現状と最近の話題」。将来的には各個人が資料を作成し、発表してもらう形式にする予定です。 またもう一つの問題は、病院の建設費が民間の2~4倍も高いということ。1ベッドあたり1,500万円から2,000万円が標準的なラインだと思いますが、どのくらいが妥当なのか、院長も事務長も知らないんですね。1ベッドあたりの換算をしなくても、せめて、年間の医業収益で返せる範囲で考える必要があります。こうしたことは高額医療機器に関しても同様です。 ただ、最後に伝えたいのは、自治体病院でも為せば成るということ。私みたいに毛色の違う医者が一人いるだけでも、皆の意識が変わります。全職員の力を結集すれば、必ずいい結果に結びつくはずです。


広報部
広報部

事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。