2009年10月29日
医師数を増やすだけではなく、スキルミックスによって生産性向上を――GHC5周年シンポジウム古川俊治先生
GHC5周年記念シンポジウム「オピニオンリーダーに問う 日本の医療はどこへ進む?」の報告の第3弾です。
田中滋先生のご講演に引き続き行われたのが、慶應義塾大学医学部教授(外科)にして参議院議員、そして弁護士でもある古川俊治先生のご講演。「日本の医療の行方――医師として、そして政治家としての視点から」というタイトルで、現場も政策も精通した古川先生ならではのお話でした。
古川先生はまず、日本の医療従事者の労働条件が悪化した背景には、主に次の3つの要件があると指摘されました。1つは、医療機関の経営状況が悪化したこと、2つ目は医療安全の要求が高まったこと、3つ目は臨床研修必修化等に伴って医師の獲得が困難になったこと。
こうしたなか、昨今、人口当たりの医師数が少ないということがよく指摘されていますが、以前に比べると医師数は増加しています。ただ、病院勤務医の繁忙感が強まっています。そこで古川先生は、医師の需給への介入方策として、単純に医師を増やすというだけではなく、次の3つを掲げられました。
①需要抑制
予防の強化:生活習慣病対策
外来需要の適正化:電話相談の充実、処方期間の延長
②医師数の増加→医学部定員増は有効な解決策にはならない
外国からの招聘?(法的・社会的問題も)
女性医師の労働支援
他職種とのスキルミックス
③生産性の向上
医師の業務の見直し(=医療クラークの活用)
他職種とのスキルミックス
外来診療の診療所への移行
入院医療への他職種投入量の増加
このうち、「他職種とのスキルミックス」に関しては、カリフォルニア州では薬剤や酸素、リハビリテーションの処方、また創処置や気管内挿管といった処置などが看護師の業務範囲に入っていることを紹介し、看護師のスキルと業務範囲を拡大することで、医師の負担減、さらなるチーム医療の推進につながると訴えました。
田中先生、古川先生のご講演を受けて行われたパネルディスカッションでは、医療費の総額、配分の仕方をテーマに、議論が繰り広げられました。それぞれの先生方の意見は下記のとおりです。
◎前橋赤十字病院長・宮崎瑞穂先生
医療崩壊は病院で起きている。医師不足と言われているのも、勤務医の不足と負担増。病院、特に入院医療に厚くすべきではないか。ただ、病院も効率化できる部分はあるだろう。真の意味での標準化がまだ不足しているのではないか。
◎社団法人全国社会保険協会連合会顧問・近藤俊之氏
病院、診療所、そして各診療科をいかに維持させるかが重要。医療機関の部門別収支に則って診療報酬点数をつけるという考え方が必要ではないか。
◎社会保険診療報酬支払基金理事長・中村秀一氏
医療費が上がるのは自然なこと。これまで医療費を増やすというポジティブな政策目標を立てたことはないので、「どこを増やすか」がポイント。ただし、増やすのであれば、どのように質が上がるのか、どのような医療を受けられるのか、情報を開示することが必要。
◎小牧市民病院長、社団法人全国自治体病院協議会副会長・末永裕之先生
ハイリスク・ローリターンの診療科に人が集まらなくなっている。何らかのインセンティブが必要ではないか。その一方で、自分たちもやりがいがあることを(若手医師たちに)伝えなければならない。また、専門医になるまでの、たとえば10年間の1年は地域医療に従事するなど、仕組みを設けてはどうか。
◎日本医療マネジメント学会理事長、熊本医療センター名誉院長・宮崎久義先生
急性期も慢性期も含めて医療を全体的に俯瞰してみることが必要。その上で、意見をまとめる必要がある。
◎田中滋先生
個別の病院、診療科の視点では、お互いに対立して点数の取り合いになる。「この診療科が困っているから点数をつける」という発想ではなく、「この分野を伸ばすと経済成長につながる」「地域医療に役立つ」という観点で考えるべき。
◎古川俊治先生
医療を提供する体系自体を自由化することも必要では?そのためには、スキルミックスによって自由な職種をつくる、混合診療などの推進が必要ではないか。
広報部 |
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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