2010年01月19日
“DPCのデフレスパイラル”を避けるために――DPCマネジメント研究会学術大会
前回に引き続き、DPCマネジメント研究会学術大会の紹介です。
札幌社会保険総合病院院長・秦先生の講演は、全国社会保険協会連合会(全社連)で、2004年度から行っている共同研究について。この共同研究では、全社連の定点観測システムデータを用いて全国の社会保険病院間でベンチマーク分析を行っており、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンも分析業務をサポートしています。
2008年度の共同研究は、「定点観測システムを用いたコスト分析によるDPCの評価に関する調査研究」という、4疾病5事業を中心とした部門別原価計算のベンチマーク分析を柱としたものでした。この研究でわかったことは、対象疾患の多くで、多くの病院に損失が生じているということ。
同学術大会全体を通じて質疑応答で時折、議論になっていたことに一つが、「どうしてもコスト割れしてしまう症例がある。総合病院であれば全体でならすことができるものの、単科病院の場合、その影響は厳しい」ということ。
こうした意見に対し、秦先生は、「(データで検証した結果、)制度に問題があるのであれば、改善するよう、発信していくべき」と強調されました。
GHC塚越が座長を務めさせていただいた、松阪市民病院・世古口先生の講演では、意識改革によって赤字体質から脱却したという、実際の経緯、手法を紹介してくださいました。
平成に入ってから一度も黒字になったことがなかったという同院ですが、入院収益は昨年4~10月で一昨年よりも約3億円増、医業収入(入院+外来)も同期間で約4億8,000万円増と、大幅な改善を果たしています。
自治体病院は、その機能上、不利である、とよく聞きます。しかし、世古口先生は「努力し、勉強すれば必ずや報われます」と断言されます。
確かに、先生が紹介してくださった手法は、見逃していること、やるべきことを一つひとつ確実にこなすことで可能になるものばかりです。
その具体的な手法については、1月30日に予定している「DPC改定直前セミナー 生き残れる自治体病院とは?」で大いに語っていただく予定です。新年度に向けて病院改革を行いたい方、病院経営のヒントを得たい方は、ぜひ、
こちらのパンフレットをご覧ください。
さて、東京医科歯科大学大学院 医療政策学講座医療情報・システム学分野の伏見先生の講演は、DPCデータの活用方法を解説する内容でした。①ケースミックス分析、②診療プロセス分析、③医療アウトカム分析、④地域医療評価への応用の方法――という大きく4種類の分析を紹介。ここでは、このうち①ケースミックス分析について紹介します。
ケースミックス分析とは、疾患パターンに関する分析。この日の講演では効率性・複雑性指標に関する分析を紹介してくださいました。
より在院日数が長くかかる患者をたくさん診療しているか、というのが複雑性指標。
同じグループの患者をより短い在院日数で診療しているか、というのが効率性指標。
DPC対象病院を年度別に分け、横軸に効率性指数、縦軸に複雑性指数をとった図などを示すとともに、これら2つの指数を上げるDPCの例として次のようなものを紹介されました。
◎010010xx02x4xx 脳腫瘍 穿頭脳室ドレナージ等 手術・処置2 4あり
◎140380x197x1xx その他の循環器系の先天性奇形(1歳未満)手術あり 手術・処置等2あり
◎010030xx0312xx 未破裂脳動脈瘤 脊髄ドレナージ等 手術・処置等2 なし
◎140010x499x3xx 妊娠期間短縮、低出産体重に関連する障害(出生時体重500g以上1000g未満)手術なし 手術・処置等2 3あり
など
伏見先生は、「こうした難度の高い手術症例、重症症例が多いということは、地域の重症患者を診ている、紹介されているということであり、地域の医療連携の指標でもある」と述べました。
また講演の最後、「重症疾患に対する点数が減っているケースがある」と指摘。急性腎不全と敗血症を例に挙げ、2006年度改定と08年度改定の入院期間Ⅱ未満の点数を比較し、前者は12.5%、後者は6.2%も点数が引き下げられていることを説明。
「過小評価→過少診療→相対的な包括点数の低下」という“DPCのデフレスパイラル”に陥ると指摘し、「こうした事態を避けるためには、適切な診療を行い、自分たちの首を絞めないようにしなければ」と警鐘を鳴らされました。
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広報部 |
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