GHCブログ

2010年06月18日

非小細胞肺がんに対する術前化学療法はQOL向上に効果あり――ASCOレポートvol.2

昨日に引き続き、GHC根本によるASCOレポートをお届けします。


◎非小細胞肺がんに対するセレンの効能は? A phase III, intergroup, randomized, double-blind, chemoprevention trial of selenium (Se) supplementation in resected stage I non-small cell lung cancer (NSCLC).

臨床試験協力団体「ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)」の臨床試験。 半金属元素「セレン」を毎日、200マイクログラム服用。2000年10月から09年11月までの10年間の長期試験の結果が出ました。 セレンは初期の非小細胞肺がん(NSCLC)の進行を抑制する健康食として、以前から着目されています。しかし、今回の結果によると、5年PFS(progression-free survival, 無増悪生存率)は、セレン72%に対し、プラセボ78%(p=0.15, NS)と、残念な結果になりました。 全生存率も、有意差こそないものの、同様の結果でした。 初期とはいえ、手術やケモセラピーなどの治療が欠かせない、という結果に落ち着きました。


◎非小細胞肺がんにおける術前補助療法 Long-term results of the French randomized trial comparing neoadjuvant chemotherapy followed by surgery versus surgery alone in resectable non-small cell lung cancer.

術前補助療法は、マイトマイシン+イホスファミド+シスプラチン(MIC療法)。 手術のみ、術前化学療法+手術の療法に共通して、手術後には60Gyの放射線治療を行っています。 その結果、10年DFS(disease-free survival, 無病生存率)は、術前化学療法ありが24.5%であるのに対し、手術のみでは 16.4%(p=0.031)と、やや有意に差が出ました。 全生存率はp=0.12と有意差がでなかったのでなんとも言い難いものの、無病生存期間が延長することの意義は大きく、切除可能な非小細胞肺がんにおいて、QOLを考えるにあたっては術前補助療法を考慮することも必要と考えられます。


◎分子標的薬「ゲフィチニブ」の効果に疑問? A phase III randomized, double-blind, placebo-controlled trial of the epidermal growth factor receptor inhibitor gefitinb in completely resected stage IB-IIIA non-small cell lung cancer (NSCLC): NCIC CTG BR.19.

切除可能な非小細胞肺がん症例における分子標的薬「ゲフィチニブ(Gefitinib)」に関する、臨床試験団体、「NCIC CTG」による臨床試験です。 ゲフィチニブはFDA認可取り下げなど、その効果に疑問が持たれていた薬剤ですが、2003年以降の長期予後調査の結果が発表されました。 結果は、無再発生存率、全生存率ともにプラセボと差がつかず、むしろ、見た目上はプラセボの方が成績が良い、という惨憺たる結果でした。 分子標的薬のリスクは未知の副作用(特にゲフィチニブにおいては間質性肺炎)が考えられることですので、QOLを考慮すると、たとえセカンドライン以降であっても選択するメリットは少ないといえそうです。 KRAS遺伝子の変異、EGFR FISHステータス、EGFR遺伝子の変異に対しても差がなかったとの結果が報告されており、最終ラインとして残す必要があるかどうか、判断に迷う薬剤ともいえます。


◎タキソール+パラプラチンに酸化型グルタチオン製剤「NOV-002」に加えると? A randomized, open-label, phase III trial of NOV-002 in combination with paclitaxel (P) and carboplatin (C) versus paclitaxel and carboplatin alone for the treatment of advanced non-small cell lung cancer (NSCLC).

「NOV-002」とは、グルタチオンを活性化させるものです。グルタチオンはいわゆる活性酸素などから正常細胞を保護する機能があります。 これを平常行われているPC療法(タキソール+パラプラチン)に加えると、効果が増すか、という臨床試験です。 しかし、期待したほどの結果は出ず、有意差は見られませんでした。

分子標的薬は「理論上、効果を発揮する」薬剤ですが、実際の臨床試験の結果からは、がんの複雑さ、生体反応のコントロールの難しさといったことが浮き彫りになり、分子標的薬もまだまだ万能ではなく、開発途上であることが如実に理解できます。


◎リツキサンのメインテナンス療法Rituximab maintenance for 2 years in patients with untreated high tumor burden follicular lymphoma after response to immunochemotherapy.

腫瘍量の多い濾胞性リンパ腫に対し、リツキサン+CVP(シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン)/CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)/FCM(フルダラビン+シクロホスファミド+ミトキサントロン)治療を8サイクル行った後、2年間に渡ってリツキサン(8週ごとに375mg/m2)を投与し、その後、5年間の経過を追跡したものです(PRIMA Study)。 結果は、24ヶ月後の無増悪生存率で82% vs 66% (p<0.0001)と、非常に有意な差で、リツキサンによるメインテナンスが効果を発揮していることが示されました。 副作用も重篤なGrade3~4は経過観察と差のない発生率で、経度のGrade2以下でやや多く発生していた、といった程度でした。


広報部
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。