2010年06月21日
「FOLFIRI/FOLFOX+セツキシマブ」がBRAF変異型大腸がんに一定の効果――ASCOレポートvol.3
本日も、引き続き、GHC根本のASCOレポートです。
ASCO3日目の模様です。
3日目は日曜日。会場であるMaCormick Place近くの公園では、がんのサバイバーによる「サバイバー・ウォーキング」が行われていました。
晴れ渡る青空の下、がん患者とその家族がいきいきとウォーキングを楽しむ姿がありました。こうした活動を通じて、現在がんと闘っている患者やその家族に勇気と生きる歓び、目標を沸き立たせる、サバイバーならではの応援の仕方ですね。日本でも最近、アメリカから「リレー・フォー・ライフ」が上陸し、ここ数年でイベントの回数がぐっと増えてきたように感じます。
さて、この日の演題をいくつか紹介します。
まずは「前立腺がん」。
前立腺がんは近年の統計(World J Urol 2008; 26: 211-218)によると、ハイリスク患者(cT2c以上 and/or PSA値20ng/mL以上 and/or GS8以上)の割合が、44%(1990-2000)→28%(2001-2003)→24%(2004-2007)と年々減少しており、「早期発見は当たり前、長期予後もあたりまえ」という状況になっています。皆さん、ご存知の通り、もともと進行が遅く、悪性度も比較的高くない悪性腫瘍で、早期発見によって非常に高い成果をみせているがん領域です。
世界的な流れとしては、長期予後の質をいかに高くコントロールできるか、という視点に入っているように感じました。
◎ハイリスク患者には放射線治療が必須?
Intergroup randomized phase III study of androgen deprivation therapy (ADT) plus radiation therapy (RT) in locally advanced prostate cancer (CaP) (NCIC-CTG, SWOG, MRC-UK, INT: T94-0110; NCT00002633).
少ないとはいえ、ハイリスク患者は当然いないわけではありません。そうした患者の術後予後をコントロールするために、ホルモン療法と放射線療法の組み合わせが考えられており、その長期予後調査です。
7年生存率で、放射線ありでは74%、放射線なしでは 66%(p=0.0331)とやや有意差が見られる結果となりました。ただ、別の基礎疾患や喫煙などの前立腺がん以外の要因で亡くなった数も無視できないため、それらの要因を除去したDisease Specific Survival (DSS:死因を前立腺がんと判断した生存率)を見ると、7年DSSは 、放射線ありで90%であるのに対し、放射線なしでは79%(p=0.001) と、明確な差が出ました。
少しでも進展が大きい前立腺がんには放射線治療の組み合わせが必須といえます。放射線照射施設を有しない医療機関では、地域医療連携によって術後の放射線照射が行われるよう、日本においても治療の標準化に向けた連携のあり方を考えさせられます。
続いて大腸がんから1題紹介します。
今回はKRASやBRAFといった遺伝子の変異に着目した演題が多く、分子標的薬のアプローチが進んでいることが実感させられました。
◎セツキシマブの効果は?
Cetuximab with chemotherapy (CT) as first-line treatment for metastatic colorectal cancer (mCRC): Analysis of the CRYSTAL and OPUS studies according to KRAS and BRAF mutation status.
厚労省でもこの3月にセツキシマブの投与にはKRASの変異を見極めるよう、通達を出しましたが、その裏付けとなる試験は多くが概出であり、今後確立されたものになるかと思います。
2010年度の診療報酬改定からセツキシマブがDPCに組み入れられ、KRAS遺伝子変異検査が保険適応になった現在、非常に着目される治療法ではないでしょうか。この試験では、もうひとつの着目遺伝子BRAFの変異について、検討されています。
この試験における化学療法とは、CRYSTAL試験がFOLFIRI、OPUS試験ではFOLFOX4であり、そのメタ解析になります。これまでKRAS変異同様、BRAF変異は化学療法に非常に強い耐性を示し、セツキシマブも効果が薄いと考えられてきました。しかし、この試験では、FOLFIRIもしくはFOLFOXといった標準的な化学療法と組み合わせることで、その効果を増強し、意味のある水準で全生存率などに差を認めました。依然としてBRAF野生型と同等の治療成績には至りませんが、臨床的にも有用な意味のある組み合わせとして、認知される可能性の高い組み合わせと考えます。
最後は乳がんに関する演題です。
◎センチネルリンパ節によって腋窩郭清の必要性を判断
Primary outcome results of NSABP B-32, a randomized phase III clinical trial to compare sentinel node resection (SNR) to conventional axillary dissection (AD) in clinically node-negative breast cancer patients.
主題は今年度の診療報酬改定からついに保険適用になり、手技の難しさや判断の難しさから簡単には導入できないとはいえ、その重要性が増しているセンチネルリンパ節生検です。
センチネルリンパ節転移を調査することは、腋窩郭清の必要性を判断するにあたって重要な意味を持ちますが、センチネルリンパ節の反応によらず、腋窩郭清を行ったほうが生存率が高いことはさまざまな試験から示されてきました。ただし、リンパ浮腫など術後QOLの観点からが、腋窩郭清を避けたいところで、その選択は難しくもあります。
また、センチネルリンパ節生検自体の侵襲も考慮し、いくつのセンチネルリンパ節を検査すればいいか、といったこともこれまで議論されてきました。
これらの効果のバランスを多角的に検討してきたのが、この研究です。
今回は結論として、5~10のセンチネルリンパ節検査において、すべてネガティブであれば
腋窩郭清を実施しなくとも、実施した軍との無病生存率、全生存率に差はなかったとしています。
きちんとコントロールされたプロトコルのもと、センチネルリンパ節生検が実施され、主腫瘍のサイズやタイプにもよりますが、適切な数正しく検査され、判断されるのであれば、不要な腋窩郭清は避けられうる、として、日本でも技術的訓練の促進・普及が望まれます。
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広報部 |
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