2010年07月20日
「医療の質に関する評価尺度をつくって、情報公開を!」――ホスピタルショー公開シンポジウムより
先週に引き続き、国際モダンホスピタルショー2010に関するご報告です。
初日に行われた公開シンポジウム「いのちを輝かす病院の役割~救急から介護まで~」を覗いてきました。
シンポジウムは、医療法人石心会理事長の石井暎禧氏の基調講演の後、茨城西南医療センター病院名誉院長の高橋正彦氏の座長の下、救急医療の立場から、周産期医療の立場から、小児救急の立場から、介護療養の立場から、医療を受ける立場からと、立場の異なる5人の演者が講演を行うというプログラムでした。
救急医療の立場として登壇されたのは、杏林大学医学部客員教授の島崎修次氏。
総務省消防庁が2009年に発表した調査結果によると、救急搬送症例全体のうち、3回以上受け入れを断られた割合は3.6%。現場滞在時間が30分以上の事案は4.1%ありました。受け入れを断る理由は、2次以下の医療機関では「処置困難」「専門外」が多く、3次医療機関では「ベッド満床」「手術中、患者対応中」が多いという結果でした。
また、地域別に見ると、病院の数が多い大都市圏のほうが、照会回数が多く、時間もかかりがちという傾向が見られました。
ただ、そのなかでも、顕著に改善が見られているのが東京です。
東京では、「東京ルール」という独自のルールを定め、救急隊と並行して「地域救急医療センター」に指定された病院が受け入れ先の調整を行うほか、地域内での調整が難しい場合は「救急患者受入れコーディネーター」が都内全域で調整を行うなど、救急搬送を迅速化する仕組みを設けています。この東京モデルについて、島崎氏は「1つのモデルになるだろう」と指摘しました。
また、「アメリカでは1970年代に、まさに今の日本と同じ状況だった」と説明。その後、EMTALA(Emergency Medical Treatment and Active Labor Act)法律の制定によって、救急外来を受診した患者に適切な処置を行わなかった場合、罰則の対象となること、初期治療と根本治療を分けて考えることが定められてから、状況が好転したそうです。
島崎氏は、講演の最後、「日本にも救急医療基本法が必要。また、救急医療はDPCではなく、出来高で算定すべきではないか」と投げかけました。
周産期医療の立場からは、宮崎大学医学部附属病院院長の池ノ上克氏が講演。
池ノ上氏は、50年ほど前にKerr Whiteが提唱した「医療のエコロジー」という考え方を紹介しました。これは、1000人という人口があれば、750人は「具合が悪い」と訴え、250人は近くの病院にかかり、そのうち、15人は専門病院に紹介され、1人は大学病院にかかるという、医療における“生態系”のこと。
池ノ上氏は、周産期でも同様のことがいえるとし、「1000人の妊婦のうち、787人はローリスクの妊婦で、213人はハイリスクの妊婦、28人は二次医療機関に搬送され、1~2人は3次医療機関に搬送されていた」と紹介。そして、「エコロジー(生態系)が壊れるとシステムが機能しなくなる」と述べ、重症度に応じて適切な医療機関にかかることで、一部の医療機関に過剰な負荷がかからないよう、訴えました。
患者代表として最後に登壇したのは、NPO法人がんと共に生きる会副理事長の海辺陽子氏。海辺氏は、「『受けたい』『受けるべき』医療に到達できないケースがある」と述べ、患者のニーズとして次のようなことを挙げました。
①「質の高い医療」に関する基準がない
②信頼すべき情報がない
③診療報酬体系が不可解
→高コストハイリスクな診療にもかかわらず、高い報酬が支払われていないケースも
そして、「(診療の質に関する)評価尺度をつくって公表すべき時期にきているのではないか」と指摘。医療界に対しては「価値観が多様化している中で感覚的な話をしても仕方がない。データを出さなければ皆が納得することはない。もっと情報を発信してほしい」と訴えました。
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広報部 |
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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