2010年12月13日
薬剤選択の規制が医療費増加の一因に――「医療経済学を語る」Vol.2
前回のブログに引き続き、12月8日(水)に開催した米国の医療経済学者による講演会「医療経済学を語る」より、ビル・ヴォート氏(ジョージア大学経済学部准教授)の講演内容をお伝えします。
ビル氏には「米国の薬剤政策をどう転換していくか」と題し、米国の薬剤をめぐる政策転換について紹介していただきました。
米国では1995年~2005年までの間に、年平均10%の伸び率で薬剤の処方量が増えています。特に2000年に入ってからの伸びは著しく、医療費の増加の大きな要因となっています。
そこで米国連邦政府は、薬剤使用の規制を年々厳しくしてきました。
米国は日本と違い、薬剤の選択肢はある程度規制されており、保険会社が製薬会社や病院と契約して、患者に使用できる薬剤を決めています。大きく分けてその薬剤の種類は3つ(①後発品、②推奨されるブランド、③推奨されないブランド)あり、それぞれで患者の自己負担額は異なります。
米国連邦政府は、薬剤費を抑えるため保険対象となる薬剤の種類を年々絞り込み、推奨されないブランド(保険対象であっても自己負担額が高い)の製品を増加させてきました。政府はこれよって国民が無駄な薬を使わなくなる、と考えていたのです。
では、実際に国民の薬剤使用量は減ってきたのでしょうか。
ビル氏は、民間医療保険の最大規模を誇るデータベースを使用し、個人レベルまで追跡分析を行うことで、その現状を明らかにしました。
結論としては、確かに、患者は薬剤の使用を控えるようになりました。しかしそれは、個人の判断で医師に指示された1回量を減らしたり、飲む頻度を減らしたりすることによって、です。
米国政府の思惑通り、医療費削減につながったかというと、答えは「ノー」です。
自己判断で服薬量、服薬頻度を変えることによって、体調が悪化する患者が増え、通院頻度や入院患者の増加にともなって医療費も増加するという、本末転倒の憂き目にあっているのが現状です。
そのため、これからの薬剤政策を考える際には、薬剤費という一側面だけではなく、もっと全体的な連鎖として、診療の成果や治癒率などの「アウトカムも連結させた上で、医療政策を立案することが重要」だと、ビル氏は締めくくりました。
医療費増加が問題視される現在の日本においても、非常に参考になる事例紹介ではないでしょうか。物事をひとつの側面からしか見ないとヘタをうつ、というのは、人生にも通じるものがあります。気をつけなければなりませんね。
次回は、Vol.3として、ビル氏とジェイ氏のインタビューをお伝えします。アキよしかわとの出会いから今日まで、日本の医療の展望などを語っていただきましたので、楽しみにお待ちください。
広報部 |
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事例やコラム、お役立ち資料などのウェブコンテンツのほか、チラシやパンフレットなどを作成。一般紙や専門誌への寄稿、プレスリリース配信、メディア対応、各種イベント運営などを担当する。
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